第338話

「セセリナ、ダナテーラの神殿の時のようにはいかないか?」

 以前、ボウル村の魔術師ボルマンの依頼で向かったエルド・ダナテーラの神殿。

 そこに巣くっていた悪霊共を古き精霊はレグスの目の前で見事説得してみせ、彼を絶体絶命の危機から救い出している。

 あの再現を起こせられれば、戦わずしてこの難局を乗り切れるやもしれない。

 だがそんな期待も虚しく、セセリナはその可能性をすぐに否定する。

「無茶言わないで。あの悪霊達は皇帝アングスタの眷属よ。神殿にいた彼らとは違う。言葉なんて通じないわ」

 一概に悪霊といっても、その種は様々に存在する。

 そして人が男と女に分けられるように、悪霊も大きく二種類に分ける事が出来る。

 一つは正常な肉体を失い、怒りや未練などの負の感情に囚われ、現世に魂を伴い迷う霊。

 この類いの悪霊は人格というものを完全に消失しているわけではなく、場合によっては戦う事無く浄化し天へと送り出す事も可能であった。

 悪霊といえど、まだ言葉の通じる相手というわけだ。

 けれども、それが絶対に不可能な悪霊も存在している。

 苦痛と絶望の皇帝アングスタの眷属、魂無き不死者達である。

 彼らは魂すらも失った完全なる負の残滓にすぎず、この手の悪霊を説得する方法など皆無であり、力による排除以外にその驚異を取り除く術はない。

 そして今まさに自分達の城に向かって飛んできている悪霊達こそが、他ならぬその皇帝アングスタの眷属だった。

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