第333話『不浄なる者』

 太陽が沈んでからいったいどれほどの時間が過ぎただろうか。

 そしてこの闇夜の中で、いったいどれほどの血が流れた事だろう。

 矢が飛び交い、魔法が放たれ、怒声と悲鳴が響き渡る。

 大男と大女の骸が城内に溢れ、城外には魔物の屍骸が山のように転がっている。

 しかしそれでも、壁の民と魔物の大軍勢の凄惨な戦いに終わりは見えない。

 この状況でどちらが勝つかなど、両軍の指揮官にだってわかりはしない。

 彼らにわかっている事、それはこの戦いが決して負けられぬものであるという事だ。


 絶対に負けるわけにはいかない、万が一にもあってはならない。

 油断ならぬ戦況にその思いをひとしおに強くするのは、魔軍を率いるダークエルフ、シュドゥラ。

 彼は秘蔵の精鋭部隊『煉撰隊』全滅の報を受けてからまもなくして、大きな決断を下す。

「止むを得ぬ……、ノフラを連れてこい」

 枯れ森の長が同胞に連れてくるよう命じたのは、森でも随一の嫌われ者にして変わり者の老エルフであった。

 村外れに一人隠れ住まい、日々怪しき魔術に傾倒していると噂されるノフラ。彼が研究する魔術の中には、恐ろしき禁術もあるという。

「あの変人をですか?」

 命じられたダークエルフの男が聞き返すと、シュドゥラは声を荒げ急かした。

「そうだ!! はやくしろ!!」

 そうして苛立ちを募らせながらシュドゥラが待っていると、そこへ腰を曲げ杖をついた老エルフが姿を見せる。

 ノフラだ。

 彼は卑しき笑みを浮かべながら、自分を呼び出した枯れ森の長に言う。

「ほっほっほ、ずいぶんと追い込まれなさってるようで。秘術が破れ、秘蔵が破れ、最後に頼るは我が術ですかな、新しき長殿よ」

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