第290話

 暗き夜の空に、魔の軍勢の角笛の音がこだまする。

 それを合図として喊声を上げて突撃する魔物の群れは、大地を覆い尽くさんばかりの数であった。

 海と表現するのも憚られぬほどの軍勢が、レグスや壁の民達が籠る城へと襲い掛かっていく。

「放てぇ!!」

 城を守る者達もそれを黙って見ているつもりはない。指揮官の合図を皮切りに壁の民の射手達は手にする大弓より矢を飛ばし始めた。

 しっかりと狙いをつける必要もない、何せ相手の数が数である。

 目を閉じ射っても当たるであろう状況だった。

 だからこそ壁の民の射手達は狙いよりも速度を優先して、次から次へと矢を射り続けた。

 三フィートルの大男達が扱う大弓より放たれる矢は、弩砲の如き破壊力。

 オーク達が持つ粗末な盾など粉砕し、リザードマン達の硬き鱗も役には立たない。

 屈強なトロル達すらもその攻撃を浴びれば膝をつき倒れ伏していく。

 矢の雨など生ぬるい、まさに矢の暴風雨だった。

 通常そんな殺戮劇を前にすれば足の一つでも竦もう。それが生物としての本能というものだ。

 しかし、攻め寄せる軍勢の足は止まらない。

 今壁の民達が相手しているのは人ではない。獣ですらない。

 魔物だ。

 灰の地とフリアの地に暮らす邪悪な魔の軍勢だ。

 降り注ぐ矢と大地に転がる同類の骸を気にも留めず、悪しき軍勢は壁の民の城を攻め立てた。

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