第283話
「レグス!!」
案内された部屋の扉を開けると、中にいるファバが名を呼びながら真っ先に駆け寄って来た。
その顔には笑みすら浮かべていたが、彼はレグスを案内してきた大男の存在に気付くと、ばつが悪そうな表情を作り、口を閉じた。
「気にするな。この状況で彼らに名を偽る必要性もあまりない」
そう言って少年の頭に軽く手を置きながら部屋の内へと足を踏み入れるレグス。
「あ、ああ……」
慰めの言葉を掛けられていると知りながらも、自身の軽率な言動を恥じる気持ちが消えるわけではない。
ファバは無理矢理言葉を探し出すようにして話題を他へと移す。
「そうだ。シド達の姿も見かけたぜ。あいつらもここに逃げ込んだみたいだ」
レグスと離れている間に、遠目からではあったがファバ達もローガ開拓団の面々を見かけていた。
「ああ、さっきガドーと会って少し話をした」
「奴らなんか言ってたか」
揉めて団を抜けるような形となったのをファバも気にしているようだった。
「いや、どうという事はない。心配はいらない、奴らも底無しの馬鹿ではないだろう。この状況で俺達に手を出すような真似はしない」
ローガ開拓団の面々がレグス達の事をよく思っていないのは確かだろうが、それでも特別に深い遺恨があるわけでもなし。状況が状況なだけに彼らが何か手を出してくるような事は考えづらかった。
むしろ、ガドーはともかくとしてベルティーナ達、腕の立つ魔術師連中はこの戦いにおいて大きな戦力になる事は間違いない。そういった意味では頼りになるとすらいえる。
それは連中にとってのレグスもまた同じ。
だからこそ、さきほどガドーはあんな事を言っていたのだろう。
「そうか。そうだよな」
レグスの言葉に、口では納得したようなそぶりを見せながらも、ファバの態度にはどこか落ち着きのなさが見てとれた。
「どうした。何か他に言いたい事でもあるのか」
「いや、その、なんて言うかさ……」
言い難そうに口ごもる少年にレグスは視線を上げ、自身の背後を振り返り見る。
すると、そこには部屋の奥で困り顔を浮かべこちらを見つめているカムの姿があった。
彼女のその表情とファバの煮え切らない態度、無関係ではあるまい。
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