第282話

「予定通りにここを発っていれば、お前など今攻め入ってきている魔物共の餌にされていただけだ。むしろこちらに感謝してもらいたいぐらいだな」

 憎まれ口を叩くレグスだったが、ガドーはそれに対して強くは出られなかった。

 この東黄人の話に一理ある事を別にして、彼の剣の腕の確かさを、あの決闘で見せられたばかりであったからだ。

 対等ではなかった。

 強者であるレグスを前にして、強気で通せるほどの胆力をガドーは持ち合わせていない。

「ちっ、まったくよく言うぜ。ほんといい性格してるな、てめぇって野郎は」

 不愉快そうにガドーは顔を歪めるものの、それ以上の事はしてこない。

 そんな青目人にレグスは問い掛ける。

「他の連中はどうした」

「とりえあえずは皆無事だ。ベルティーナ嬢さんなんて旦那を助け出すいい交渉材料が出来たってかなりはりきってるぜ。ものは考えようだな」

 壁の民の王の影響力はフリアの地においても無視できるものではない。

 少しでも戦力が欲しいこの状況で、ローガ開拓団の面々が相応の活躍を見せる事が出来れば、壁越えの許しどころか、主人であるロブエルの灰の地送りを防ぐ事も可能となろう。

 無論、それが決して楽に為せるようなものではない事を彼らも承知している。

「まっ、そうわけだ。互いに頑張ろうぜ」

「言われなくても私は常に最善を尽くす。お前達は私の邪魔さえしなければいい」

「ああ、そうかい。それじゃあてめぇの活躍、期待させてもらうぜ、闘士ゲッカさんよ」

 それを別れの挨拶にしてガドーは去っていく。

 その後ろ姿を少しの間振り返り見たのちに、レグスはファバ達のもとへと向かい歩を進めた。

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