第269話

 戸惑い言葉を失う彼らに代わって、一人の元老院議員が大声を発する。

「愚かな!! スティアだと!!」

 それはベベブであった。

「彼の精霊共はとうの昔に大陸より去ったはず!! その古き精霊が!! どうしてこのような場にいようか!! 騙されてはならぬ!! このような不逞の輩に、騙されてはなりませんぞ、陛下!!」

「ほう。よく勉強しておるな。だが……」

 騒ぎ立てるベベブに対して少女がその目を見開くと、たちまちに強力な風が発生しベベブを吹き飛ばした。

 そのまま彼は壁へと叩きつけられ、崩れ落ちた肉体は目に見えぬ力によって地面へと押さえつけられてしまう。

 満足に身動きもとれず地に伏せるベベブに、少女は冷たい言葉を浴びせる。

「口を慎めと先ほど申したはず。今は我とそなたらの王が言葉を交わす最中にあるぞ、弁えぬか」

 人々はこの光景に心底驚いた、これほど強力な術を平然と為してしまうとは、まこと只者ではないと。

 それは少女の言葉がただの大法螺ではない事を彼らが確信するに十分な力であった。

「……何故今になって、大陸を去りし古き精霊がこのような場に姿を見せるか」

 尋ねる王のその口調には硬さがあった。

 緊張しているのだ。怪物を前にして果敢に挑む戦の民の王が、見かけは小さな少女である目の前の彼女に、完全に呑まれていた。

「今であるからこそだ、星無しの民の王よ」

 少女のその力強き言葉に抗うのは壁の民の王たりとて最早出来ぬ事だった。

 しばらくの間、沈黙があった。

 その後に、圧される人々や黙す精霊に代わりガァガがゴルゴーラ王に具申する。

「陛下、人払いの方をどうぞお願い致します」

 彼は内密の話があるゆえに、この場にいる忠臣達すらも部屋より追い出せと言っているのだ。

 それを聞いて王や議員達は驚いたし、ベベブにいたっては声を荒げて罵倒した。

「馬鹿を言え!! わけもわからぬ輩共と陛下をっ!! ぐおっ!!」

 しかし途中で、精霊の強力な力によって顔を地面に押し付けられ口を塞がれてしまう。

 もがくベベブを無視し、精霊は言う。

「王よ。聞いての通りだ。余計な者には退出してもらおう」

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