第252話

 街に鐘の音が鳴り響く。

 壁上はリザードマン達に占拠され、開かれた大門からはオークやトロル達が次々と雪崩れ込む。

 そして空より睥睨する怪鳥達は、戦闘で傷を負い弱った戦士を見つけるや否や、容赦なく襲い掛かっていく。

 壁の民達の奮戦虚しく、戦況は明らかに魔物達へと傾いていた。


 そんな時、街に聞きなれぬ鐘の音が響いた。

 太く、低く、大きな音。

 それまで街に響いていた鐘の音とは異なる音だった。

 その音はレグス達のもとへも届いていた。

「なんだこの音?」

 指輪を返す為に首紐を外すファバが疑問を口にすると、レグスが険しい顔付きで答える。

「壁の守りを諦め、籠城に切り替えるつもりのようだ」

 新たな鐘の音は街中からではなく、外れにある大きな城より聞こえてきていた。

 その城は万が一壁が破られた場合に備え築城されたもので、他国の下手な王城よりよほど立派な造りであった。

 壁が破られるような事は久しくなく、大陸一の無駄城とすら呼ばれる事もあったその城が、……必要とされる時が来てしまったのだ。

「とにかく急げ」

 三者共に馬に跨り、東西にそれぞれ馬の頭を向け一時の別れの挨拶を交わす。

「武運を祈る」

「レグス!! 絶対くたばんじゃねぇぞ!! それと約束は守れ!! 勝手に俺を置いて行っちまうような真似はするなよ!!」

「ああ」

 そうして一方は戦場へ、もう一方はラザリックの街へと馬の歩を進め始めたのだが……。

 鷹が彼らの頭上でけたたましく鳴いた。

 馬を止め、空を見やりカムが大声を発す。

「レグス!!」

 呼び止められ振り返るレグスに彼女は言う。

「敵がくる」

 そうだ、敵が来る。いや、来ているのだ。

 分かりきった事を何を今さらと、遊牧民の女を除く誰もが思った。

「ああ、だから急げ」

 レグスの言葉に首を横に振り、顔を強張らせるカム。

 そして彼女は耳を疑うような言葉を口にする。

「違う!! 西からだ」

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