第237話

 そして……。

 その物体はドルド目掛けて落下し、激しい衝突音と共に、大男を一瞬にして消失させた。

 それは大きな岩だった。

 大岩が空より降ってきたのだ。

 背丈三フィートルある屈強な壁の民とて、不意に空より降って落ちた大岩に耐えられるはずもない。

 大岩に潰されたドルドは、肉塊とすら呼べぬ様になっている事だろう。

 突然の出来事に、さきほどまであれだけ騒いでいた観衆達も静まり返っていた。

「雷が……、天の雷が、落ちよった……」

 トーリがこの事態をバラーラの伝説になぞらえて言った。

「まさか本当に天があの男を……」

 貴賓席にて、眼前の光景に動揺する壁の民の王。

 絶妙のタイミングで飛来した大きな岩が、わずか数歩先のレグスを避け、ドルドにだけ直撃するなど、天の御業と錯覚してもおかしくない出来事だ。

 そうして、この異様な出来事に人々が放心する最中、最初の大岩の飛来より間もなくして、次なる大岩が会場に降り注ぐ。

 いや、決闘場だけではなかった。

 大岩は街のあちらこちらに落下し、建物を、人を、押し潰していった。

 阿鼻叫喚の地獄絵図。

 恐慌状態に陥った人々の中でトーリが叫ぶ。

「天が……、神々がお怒りなっておられる!!」

「そんなまさか……」

 師の言葉に、空を眺めながらベルティーナが言った。


 いったい何が起こっているのか。何が起ころうとしているのか。

 それをいち早く察した人間は壁の民でも、ローガ開拓団の面々でもなく、今まさに死に掛けている東黄人の男だった。

 人々の悲鳴を耳にしながら、レグスは幻影の魔女グロアの言葉を思い出していた。

――『望まずとも陽は落ちるもの』か……。

 昨夜姿を見せた魔女が残していったあの不吉な言葉、その意味を彼は理解する。



 望まぬ夜が来たのだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る