第191話
甘い見通しだった。
どれほど見当違いの言葉を掛けていたのかをカムはようやく承知した。
幾ばくかの沈黙の後、女は言う。
「そうか……、邪魔をしたな」
そしてその去り際、彼女は少しの間足を止め、振り返りもせず、レグスの今後についての事を少年に伝えた。
「あの男が要求していた決闘裁判の件、正式に認められたようだ。期日は七日後の正午。相手はこの冬随一の戦果を誇った戦士だそうだ」
「なんであんたがそんな事を知ってる」
「さきほど我々の天幕に、壁の民達が来てそう言っていた」
カムは壁の民の言語を知らない。だから実際には、開拓団の者達が翻訳したのを伝え聞いただけである。
「……勝てるといいな」
彼女がそう小さく零したのは、何も自身に迷惑がかからぬよう男の勝利を願ったからではない。
少年がどれほどあの男を必要としているのかを理解したからだ。
「勝てる!! 絶対に勝つに決まってる!! 負けるわけがねぇ!! どんな大男が相手だろうと奴は絶対負けねぇ!!」
少年は強く言い切った。
だがそれは、必死に縋り懇願するような声のようにも女には聞こえていた。
カムだけではない。
――素直に彼女の助けを借りたらいいのに……。
二人の会話を指輪の中で聞く精霊とてそれは同じだった。
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