第174話『亀裂』
騒動の後、監視役の壁の民達を連れ、天幕群へと戻ったレグス。
彼は天幕の中に入るには窮屈になるであろう大男の背丈に配慮し、開拓団の面々を外へと呼び出すと、自身の身に起きている事を彼らに説明した。
それを聞く者達は皆、言葉を失い唖然とした表情を浮かべている。
「何を考えているわけ?」
ベルティーナがレグスに問う。
「説明した通りだ。お前達にとってもそう悪い話でもない。灰色の地の情報は貴重だ」
「そんな事を言ってるんじゃない!! あと数日もすれば壁を越えられるって時に、無用のトラブルを持ち込むなって話よ!!」
「無用ではない。必要な情報だ」
「話にならない……、いったいどこの誰よ!! こんな素人以下の馬鹿をやる男を引き入れたのは!! 私は反対したわよね。得体の知れない男なんて足手まといになるだけだと!!」
首を振り、天を仰ぎ、ベルティーナは怒りを辺りに撒き散らす。
「それを、あれこれ理屈付けて……、結果このザマよ!!」
一人喚く彼女とは対照的に、他の者達は重い表情のまま黙り込んでいる。
「なんとか言ったらどうなのよ、シド!!」
女魔術師の矛先は老兵の方へと向く。
「……判断を誤ったか、まさかこれほど浅はかな男だったとは」
シドの静かな失望を、ベルティーナは鼻で笑う。
「言う事はそれだけ? ……ねぇ、あなたはどうなの、ディオン」
話を振られてもディオンは押し黙ったまま、答える事が出来ない。
「ツァニス、あんたこいつを引き入れる時、随分とえらそうな事を言ってくれてたわね。何か言い訳の一つでもしてみたらどうなの?」
ツァニスも沈黙したまま、反論の一つ出来やしなかった。
「どいつもこいつも口だけよ、ホント使えない屑ばっかり!! あんた達、わかってるわけ? 万が一にでも壁を越えられないなんて事になったら!! いったいどう責任をとるつもりよ!! まだロブエル様は奴らの手の内にあるのよ!!」
ロブエル・ローガはベルフェン王国より追放処分同然に壁越えを命じられた身である。
もし、レグスの行いが壁の王の不興を買い、それが不可能となれば、ロブエルの処刑という事にもなりかねない。
しかも彼の身は引渡しの時が来るまで、王国が送り出した大規模な開拓団の中にある。
助け出すのも容易ではないのだ。
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