第167話

 レグスが広場の方へと視線を戻すと、新たに鎧を身に纏った壁の民の男が一人、人々の前に立ち何やら叫んでいる。

「なんて言ってんだ、あのおっさん」

 壁の民の言葉を理解出来ないファバがレグスに尋ねる。

「……今から始めるようだ」

 そしてどうやら処刑の前に罪人に懺悔の為の発言の機会を与えるつもりらしく、レグスはこの時ようやく彼の言葉を耳にする事が出来た。

 罪人が擦れた声で群衆に向かって叫ぶ。

 それは懺悔とは性質の違うものだった。

 群衆が再び罵声を飛ばし、対抗して罪人がまた叫ぶ。

「ああ、ひでぇもんだな」

 醜い騒ぎの様子にファバは呆れたような表情を浮かべていたが。

「なぁ、レグ……」

 レグスは違った。

 罪人の声を必死で聞きとろうとしている。

 しかし、感情の昂った壁の民の乱雑な言葉を、この言語に不慣れなレグスでは聞き取り切れないらしく、彼は壁の民の言葉に精通する者の助けを求めた。

「セセリナ、奴の話している言葉、わかるか?」

 指輪に語りかけセセリナを呼び出すレグス。

「当たり前じゃない」

 そう言って、指輪から姿を現した精霊はレグスのローブの内に隠れながら罪人の言葉を翻訳してみせる。

 幾百、幾千の言語を知るだけでなく、思念によっての意思疎通すらも可能な古き精霊にとってそれはひどく容易い事であった。

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