第139話

「さすがだな、生きていたか戦士ルルよ」

 重兵団の一人が獅子馬に跨りながらルルに声をかけた。彼女の顔見知りであった。

「ああ、当然だ。だが、礼を言わせてもらおう、勇者ゴドゴ」

 壁の民は通常皆、『戦士』の地位にある。重兵団など一部の者や戦死者には『勇者』の地位が与えられ、戦士と勇者は区別される事になる。

 彼らは己が戦士である事に誇りを持っているが、勇者となる事に憧れている。

「なぁに礼ならクルクの奴に言ってやれ。彼女の走りがお前を救ったのだ」

「ああ、わかった」

「他の者は……」

 ゴドゴの言葉に無言で首を振るルル。

「そうか……」

「なに、奴らもあんたと同じ勇者となれる事を喜んでいるだろうさ」

「そうだな。俺も同じだルル。彼らと同じ勇者である事を誇りに思う」

「皆あんたに憧れていた。あんたのその言葉は何よりの救いになるだろう、ありがとう」

「しかし、獅子馬もなしにいったいトカゲ共を何体仕留めたんだ、お前は……」

 周囲に転がるリザードマンの死体の数々を見ながら感心と驚き、それにある種の呆れにも似た感情を込めてゴルゴがルルに言う。

「さぁな。数える気などなかったからな。ただ目の前の敵を狩り続けただけだ」

「春が来れば、お前も重兵団入り確実だ。この冬のお前の戦いっぷり、誰も反対する者などいないだろう。楽しみにしているぞ」

 壁の民は冬の期間グレイランドの魔物達と戦い続け、春が来て一息つく時に重兵団への選抜が行われる。

 もとから有望な戦士として注目されていたルルであったが、この冬の戦果は特に著しく、それに加えてこの度の活躍である。もはや彼女の重兵団入りは確実なものだった。

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