第114話
「いったいこれは何の真似だ。私達は既にお前達が課すテストには合格したはず」
「そうね。だけどそれはあなた達が大嘘付きじゃなければの話よ。ここに来てそこの坊やが話したのは一言二言の簡単なもの。それすらも嘘だってこの子は言っているの」
女の言うこの子とはミルカの事である。
「言い掛かりだな」
「いいえ、言い掛かりなどではないわ。この子の嘘を見破る力は本物よ。私達はそれを疑う事などしない」
「嘘を見破る能力か……。そこのグラスという男は剣の振りをみずにその技量をはかると言う、お前達はいったい何者だ」
「話を逸らさないでもらえるかしら。私達についてはどうでもいいのよ嘘つきさん。どうして嘘をついたの? 何を隠しているの?」
この状況、レグスがシラを切り通し続けるのは不可能だろう。
言葉を慎重に選ぶレグス。嘘を見抜く能力がミルカという女にあるならば、不用意な言葉は命取りにすらなりかねない。
「信頼のおけぬ相手に偽名を名乗る、……魔術師に自身の本当の名を知られる意味をまさか理解出来ないはずもあるまい」
「グラスが自分より上と認めるほどの者が、名前を知られたぐらいでどうだと言うの? 名は万能の鍵にはならないわ」
「未熟な子供の場合はそうではないだろう」
「では嘘をついたのはその坊やだけで、あなたは違うと? 馬鹿馬鹿しい」
「その言葉そのままお前達に返そう。お前達の馬鹿馬鹿しいテストのせいで、ここは随分と人手不足のようだな。王都にいるという者を加えるにしてもわずかこれだけの人数しかこの場にはいない。どうやってグレイランドの地を生き抜くつもりだ」
「シドの言葉はそっくり信じちゃうわけ。わざわざ偽名を名乗るような人間にしては浅はかな判断ね」
「彼の言葉だけで判断しているわけではない」
「ではどうして?」
「お前達の恐れが見えるからだ」
「恐れ? 意味がわからないわ。私達がいったい何を恐れると言うの」
「それはこっちが逆に尋ねたいくらいだな。お前達はいったい何をそんなに恐れている」
女とレグスの険悪な会話。
「待った!! 待った!!」
それに待ったをかけたのはレグスがこの場で初めて出会った四人のうち例の血族とは異なるであろう二人、その一方の男だった。
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