第71話『未熟』

 オークは基本一体のボスを頂点に群れを成している。

 彼らの特徴として、ある一定期間、縄張りを築き維持した後、定期的に移動を繰り返し、新たな獲物を探す特徴がある。

 人間に置き換えれば、まるで遊牧民が家畜の為の草地を求めて移動を繰り返すのに似ているが、ただの遊牧民と違い、魔物であるオークは『食』に対する限度を知らない。

 動物達を狩れるだけ狩り、森を荒らせるだけ荒らす。

 時に人すらも、ただ食すという彼らの欲望満たす為の犠牲となってしまう。

 そして、オークが去った後は動物達も死に絶えた痩せた土地が残るだけになるのだ。

「鳥を見なかっただろう。それどころか鳴き声すらも聞こえなかった」

 レグスに言われ、確かにそうだった頷くファバ。

 それがオーク達の縄張りに入った証なのだと、レグスは言う。

「じゃあまだこの辺もずっとか」

 周囲を見渡しながらファバが言った。

 山にありながら動物達の気配がない。禿げた崖道がずっと先まで続いてる。

「そういう事になる。これだけの規模だ。もっと多くのオークがこの辺りをうろついてる事だろう、気を抜くな」

「ああ、わかってるよ」

 ファバの手が自然と自身の武器へと伸びる。

「なぁ、道を変えないのか? わざわざ奴らの縄張りに入らなくても、いいんじゃねぇか」

 ファバの質問をボルマンが笑う。

「怖気づいたか小僧」

「ち、ちげぇよ。無駄に危険を冒す必要はないだろって話だ」

「オーク如き、恐れていてはこの先到底ついてこれんぞ、子供は大人しく留守番させておくべきだったのでは、レグス殿よ」

「て、てめぇ……」

 馬鹿にされ怒るファバにレグスは言う。

「ファバ、オークは魔物中でももっとも対処しやすい部類に入る。無知で短気、統率に欠け、短絡的な行動を取りやすい。この程度の魔物に苦戦するようでは俺の旅にはついて来れないだろう」

「うっ」

「お前の言うように無駄に危険を冒す必要はない。だが、わざわざ遠回りをして魔物が潜むであろう未知の森を通るより、オークの縄張りを通る方がよほど安全だ。特にこちらには魔術師がいるのだからな」

 レグスがボルマンを見る。

「ほっほっほ、そういう事だ。奴らのような粗暴なだけの大馬鹿がどれだけ襲ってこようとわしの魔術にかかれば蟻を払うも同然」

 ボルマンは自信を持って断言した。

「とにかく目的地までは最短ルートをとるようにする。下手に危険を避けようと、日にちをかける方が体力、魔力を消耗して危険だ。避けるべき脅威かどうかは俺が判断する」

「わかったよ」

 未熟なファバはレグス達に従うしかない。

 彼はレグスと旅立ってからまだ戦闘らしい戦闘すらも経験していない。

 いつもレグスに守られているだけ。

 その不甲斐無さに対する苛立ちを、少年も自覚していた。

 それをレグスも見抜いている。

「焦るな。お前は為すべき事を為せばいい。蛮勇は命を落とす事になるだけだ」

「ああ、だからわかってるって、弓の練習だろ……」

 少年はまだ武器すらもないのだ。

 道具の話ではない。

 技能の問題である。

 剣を、弓を、『扱える』という武器。

 それ無くしては、旅の脅威に立ち向かいようもない。

 今はまだレグスの指示に従い、彼に与えられた機械弓パピーを十分に扱えるようになるのが少年のすべき事である。

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