第62話

 後ろでわめく村人達を無視して二人のやり取りに集中するレグス。

 魔術師相手に一瞬の油断も許されはしない。いつ彼の術が襲ってくるかわからないのだから。

 しかしこの状況に観念したのか、老人は手を挙げ降参の合図を送る。

 それを見たレグスが締め上げた手を放すと、ごほ、ごほ、と咳き込みボルマンはうずくまる。

「おい、本当にガキがどうなってもいいんだな!!」

 村人が叫ぶがレグスは相手にしない。彼らを制止するのはレグスではなく、ボルマンの役目だった。

「待て!!」

 息を落ち着かせてから、老魔術師は言った。

「降参だ、やはりわしらがどうこう出来る相手ではないわ。その子を放してやれ、イザーク」

「でも……」

 急にそんな事言われてもと、戸惑う男。

「いいから、わしの言う通りにしろ!!」

 一喝され、しぶしぶファバを解放する村人達。

「レグス!!」

 レグスに駆け寄り、その背後へと回るファバ。

「不思議な男だ」

 ボルマンが言う。

「冷酷で恐ろしい目をしている癖に、殺気がない。お前さん、本当にあの『蛇の仔』か?」

「誤解があるだけだ。言ったろう、私は無駄な争いは好まぬと」

「そうか、失礼をしたな……。とにかくここではなんだ、村へお通しよう、レグス殿」

「ああ」

 魔術師の決定に村人達も逆らえない。

 ボルマンの許可を得たレグスとファバの二人は己の武器と荷を手に、ようやくボウル村の中へと足を踏み入れる。

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