第61話

「こんな辺鄙な村で何をしようというのだ」

「話が聞きたいだけだ」

「話だと?」

「最近、この村から領主が奪っていったという石についてだ。魔術師である貴方なら、いろいろとご存知なのではないか?」

 一月ほど前、カラロス山のボウル村から奇妙な石が発見され、それをザネイラの領主が手にしたという噂が一部の者達に広まったのはここ二週間内の事である。

 ザネイラの領主について情報集めていたレグスは、ダナの街でそれを掴んでいた。

「やはりアレか。だが、お前達のような輩に話す事は何もない。あの石はもはやここを離れた物だ。村とは無関係。立ち去れ、蛇の仔よ。お前が望む物はここにはない。石を望むなら領主の館があるラバルへと行け」

「話す事はない、か。それでは私としても困るのだがな」

 沈黙の時が流れる。

 異様な空気に、見張りの者達とファバまでも黙り込んでいる。

 沈黙を破り、先に動いたの老人であった。

 ボルマンが杖で地面をつく。

 大地がまるで槍のように変形し、レグスを貫かんと、天を刺した。

 しかし、地の槍の先にレグスの姿は既に無く、彼はボルマンを押し倒していた。

「ぐっ」

 地面に叩きつけられ、声を漏らすボルマン。

 この束の間の出来事に、周囲の人間もつい遅れて反応してしまう。

「ボルマンさん!!」

 押さえ込まれた老人に村人達が駆け寄ろうとするが。

「動くな!!」

 レグスが叫び、彼らのその動きを牽制した。

 見張り台にいる弓持ちも所詮は素人、この状態ではレグスを狙ったとしても誤射しかねない。

 彼らに出来る事は何もないかのように思われた。

「レグス!! なにやってんだ!!」

 その時、一人の少年が叫んだ。

 連れのファバである。

 この時ようやく村人達は、対抗となるであろう手段に気付く。

 男達は素早くファバを取り押さえ、レグスに言う。

「おい、ボルマンさんを放せ、この野郎!!」

「このガキがどうなってもいいのか!!」

 村人の要求も、拘束されわめくファバも、レグスにとって重要ではない。

 今彼にとって重要なのは、押さえ込んだ目の前の老人である。

 レグスというのか、と言いたげな笑みを老人が浮かべる。

 それを見逃さず、ボルマンの首を締め上げるレグス。

「やめておけ、お前が術をかけるより先に、私はお前の喉を潰せる。それとも頭ごと潰そうか」

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