第57話
「ははっ、ほんとすげぇよ、あんた」
一発も射つ事の無かった機械弓パピーを手にしながらファバは感嘆の声をあげた。
彼の周りには魔狼ブラディウルフだった物が散らばっている。
「すぐに移動するぞ」
勝利の余韻に浸りもせず、レグスは魔狼の死体に突き刺さった短剣を抜き取りながら言った。
「移動ってこの夜の山をか!?」
ファバは驚く、星光露を使用したレグスはともかく、彼が夜の山道を歩き回るのはなかなか危険な事である。
「ブラディウルフの血は仲間を呼び寄せる。夜に浮かぶ光りに虫が惹かれるように、魔狼の血は魔狼を呼ぶ。こいつらは群れをいくつか持つ王国を築いていてな、その王国の大きさは群れの大きさに比例する。一つの群れが二匹ならば、四匹の王国、三匹なら九匹、四匹なら十六匹という具合にな」
「じゃあこいつら……」
ファバはぞっとした。自分達に襲い掛かってきただけでも二十匹はいたはずだ。
「この数だ。辺りにはブラディウルフがまだ数百はうろついてる事になる。……ファバ、そのローブは捨てておけ」
戦ってはいないものの、レグスが斬った勢いで飛び散ったブラディウルフの血がファバのローブにべっとりとついている。
「わかった。だけどあんたはどうすんだよ、それ」
当然レグスのローブも、そして使用した剣、短剣にも血がついている。
「ローブは捨てる。が、さすがに剣と短剣まで捨てるわけにはいかないからな。これを使う」
荷物から小袋に入った木の実を取り出すレグス。
「それは?」
「セイラの実だ。聖なる実とも呼ばれていてな、この実の臭いをほとんどの魔物達は嫌う。血を拭き取ったら、実を潰して擦り付けておけ、こいつらの鼻をある程度は誤魔化せる」
セイラの実を三つほどファバに放るレグス。
言われた通り、靴などについた血を拭き取り終え、ファバが実を潰すと、辺りには鼻を突く香りが漂う。
「なんだこれ」
顔をしかめてファバが言った。
「それが魔物が嫌う実の臭いだ」
「人間でも結構きついぜ、これ」
よく言えばさわやかだが、魔物でなくとも人によっては不快に感じる臭いだった。
「慣れる事だ。これから旅を続けるなら使う機会も多い実だからな」
剣や短剣などに突いた血を拭き取ると、レグスも実を使う。
「あとはこれだ」
そして荷物から新たに奇妙な小石を取り出し、焚き火の炎にそれをかざす。
すると小石は光りを発した。
小石の正体は火光石と呼ばれる不思議な石だった。炎に反応し、光りを発する石。松明の代わりになるというわけだ。
レグスは光りを放つ小石をファバに投げ渡す。何故なら星光露を使用している彼には必要がない、そして石の明かりを必要とするのはファバであるからだ。
それらの行為にファバは驚きはしない。
レグスと出会った砦で星光露の事を聞き、これまでの旅の途中で火光石を使う事もあったからである。
「いくぞ」
焚き火を始末し終えると、荷物を持ち二人はこの場を離れ、目的地の村へと向かい歩き出す。
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