第51話
「わかってるよ。あんたの指示に従って、暇があれば練習してるだろ」
ファバはダナの街を出てからその途中、休憩を取る合間にレグスからパピーの使い方を教えてもらっていた。
操作は簡単だった。
まずパピー用に作られた金属製の小型の矢を、矢倉と呼ばれる湾曲した部品についた六つの穴にそれぞれ込める。そして矢倉の一番左の穴を指定の場所に合わせてはめ込むだけ。
あとは引き金部分を引いてやれば一射目の矢は発射され、さらに矢倉が左回転に一穴分動く。弦も矢の発射後すぐに魔力の込められた石、魔石の働きもあり引っ張られて、自動的に二射目の準備が完了する。
一射目から二射目、三、四、五、六と最大六連射、矢倉がまわり、弦が引きなおされるまで一呼吸分の間を必要とするが、通常のクロスボウを発射させる際にかかる時間を考えると優秀すぎる連射性であった。
有効射程も五十フィートルと、子供が振り回せるほどの大きさの弓にしては十分な距離があり、その軌道も安定していた。
さすがは小さな城なら買えるほどの値がつくと言われるだけの事はある。
「かなりいい感じだぜ。俺って才能あるのかもな」
移動中にとれる短い時間の練習だけ、それでも三日目にして十フィートル程度の距離までならば止まった的をほぼ百発百中で射抜けるようにファバはなっていた。
「物が良いからだ。それに、最初に教えたが実戦ではゆっくりと狙いを定める時間があるとは限らない。十フィートルならどのような体勢からでも急所を正確に射抜けるぐらいの腕は必要だ」
「ほんと徹底して褒めないな」
「現実を見て言ってるだけだ。そんなに俺に褒めて欲しいのなら褒めるに値するだけの腕になる事だ」
「それってあんた以上の化け物染みた上手さが必要ってことだろ」
最初に手本としてレグスがパピーを使って見せたのだが、その腕前はかなりのもの、いや、ファバから見れば異常、人外の域とすら言えるものだった。
止まった標的なら有効射程限界ぎりぎりでも見事射抜き、近距離ではファバの投げたいくつもの小石を簡単に連続で射ち落とす。止まった状態でなく動きながらでもその正確性は落ちない。
自分と同じ人間の技とは思えない。
だが、これまでそんな奴を見た事が一度もないというわけでもない。
マッフェム、盗賊団ドルバンの山猫にいた弓の名手。彼も人間業とは思えぬほどの腕を持っていた。
信じられぬほどの技を持つ人間を少なくとも二人知っている、という事は自分もいつか同じようになれる可能性があるのだろうか。
「自信がないのか? お前は俺から剣を学ぶというがあれぐらいも出来そうにないというなら話にならんな。次の村なり街で別れた方がお前の為だ」
「馬鹿言うな!! やってやるよ!! その代わり逃げるなよ!! 剣を教える段階になって、やっぱり技を教えるのが惜しくなったとか、面倒だとか言って逃げるなよ!!」
そう、ファバはレグスから剣を学ぼうとしているのだ。盗賊達を屠った、あの剣技を。
相手の攻撃の軌道を見切り紙一重でかわす戦いを学ぼうというのだ。機械弓で小石ぐらい落とせぬようでは話にならない。
「安心しろ、俺の剣など惜しむほどのモノではない。最初に言ったはずだ、剣に長けた者達は他にもいると。あの時お前はそれをつまらぬ謙遜だと切り捨てたが、あれは謙遜などではない」
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