第50話『カラロス山』
パネピア最北東に位置するザネイラは領土全体が山地で、人の手があまり入らぬ場所も多く存在していた。そういった箇所では猛獣や盗賊だけでなく、魔物の姿も多く確認されており、ザネイラがパネピア国において最も危険な地とされる原因となっていた。
ダナの街を出て、北東に約百キトル、日にちにして三日目。レグス達は、そんなザネイラ伯領にある、カラロス山の森の中にいた。
朝から歩き続けて、もう陽は暮れようとしている。だが彼らの目的地となる村はまだ先であった。
整備のされていない夜の山道を行くだけでも危険であるが、そのうえここは魔物も多く潜むというザネイラ領内。強行軍は難しいだろう。
これ以上進むのは止した方がいいと判断したレグスは野宿を行う事にする。
「ここで寝るって……」
ファバは嫌がるような反応を見せる。
「不満か?」
「そうじゃねぇけどさ」
「盗賊団にいたのだ。野宿の経験ぐらいあるだろう」
「そりゃ、あるけどさぁ……」
はっきりしない物言い。
「言いたい事があるならはっきりと言え」
「いや、なんつうか、意外だなって思ってさ」
「意外?」
「ここまでぼろ宿でも一応は宿とってきただろ。だから、ほとんど何の準備もなしに野宿ってのがあんたにしては意外だと思ってさ」
ファバが連いてくるようになってからレグスはここまでどこかしらの街や村で宿を取ってきていた。空の下での野宿は二人旅で初となる。
「今までが例外だっただけだ」
「俺を気遣っての事か?」
もしそうであるならば、ファバにとってそれは嬉しさより、半人前扱いされる悔しさの方が上回る。
「馬鹿を言え。ザネイラがどういう場所で、そこで自分達が何をしようとしているのかを考えてみろ。ザネイラに入れば満足に休める保証もないのだ。無駄な疲労を避けたにすぎない」
「なるほど」
「野宿出来るだけでも有り難いと思え。これから先、敵に追われ一睡も出来ぬ日がいつ来てもおかしくないからな」
「ああ、それはわかったけど」
「けど、なんだ?」
「ついでに聞いとくが、ここまでずっと徒歩だろ。馬は使わないのか? 金の問題かと思ったが、あんな弓をポンとくれるんだ、それはないだろ。まさか馬に乗れないとか? それでも荷物運ばせるだけでも使えるんじゃねぇのか?」
「必要がある時は使っている」
「今はその時じゃないのかよ」
「そういう事だ。馬は臆病な生き物だ。十分に訓練されていない馬は魔物なんかと鉢合わせすればたちまちパニックに陥る。それでは反って足手まといなだけだ。それに馬では行けぬような道を通る必要がある事も出てくる。その度に乗り捨て、新しく訓練された馬を用意するわけにもいかんだろう」
「でもいざって時に逃げる足に使えるだろ」
「そうだな。だから必要な時は使う」
「今、魔物が出てきたらどうするんだよ」
「排除出来そうな相手ならば問題ない。そうでないならそれこそ自分の足を使えばいい。……お前は馬に拘るようだが、乗れるのか?」
「いや、乗れない……」
「まさか、後ろに乗せてもらえると期待してるのか?」
「ちげぇよ!! 乗るさ、いつかは乗れるようになってみせるさ」
ファバの宣言をレグスは鼻で笑う。
「馬もいいが、その前にパピーを十分扱えるようになれ。生き残る為にお前が一番にすべき事はそれだ」
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