第24話

 バハーム砦を出て、脇から伸びる獣道をしばらく登るとぽっかりと開いた小さな台地にでる。

 そこに砦の難を逃れてきた盗賊達は集まっていた。

 その数は総数三百人近くいるというドルバンの山猫とすれば寂しいもので、十分の一すらも集まっていない。

――二、四、七、八、一二、十七、二十一……。

 夜目を利かす魔法の目薬、星光露の力によって遠目からでも男はその数を正確に把握する。

――問題ない。

「礼を言うぞ、少年」

 男をここまで案内したのはドルバンの山猫に属するというあの東黄人の少年だった。

「ああ」

 彼はまるで生気の抜けた声で生返事をし、言った。

「ここまで連れてきていう事じゃないが、……やめとけよ。あんたじゃダーナンにゃ勝てない」

「いらぬ忠告だな」

 男の視線の先には一際巨大な大男、ダーナン・バブコックの姿があった。

「あんたは知らないから……、あいつがどれだけ強いか知らないからそんな事が言える」

「お前も私の強さを知らぬ」

 男がそう返すと、少年は自嘲気味に少し笑い、言った。

「知ってるさ、あんたは強ぇよ。こてんぱんにやられたんだわかってる。けどあんたじゃ奴には勝てない。次元が違うんだ。奴とは」

 少年の口調には弱者に対するような見下しはない。だが無謀な戦いを挑むように見える者に対する警告とも単純に取れぬような含みがある。

 少年のそれは表面上だけを見るなら達観、悟り、とも違う、単純な諦めの心境に見えるだろう。絶対的強者、横暴者であるダーナンに対する絶望的で卑屈な感情。

 それだけならば、男はこれ以上彼と交わす言葉などありはしなかった。

「……お前は一体何を恐れてる?」

 だが男は少年の言葉に、表情に、それらとは違う、恐怖の感情を見た。

「はぁ? あんたを心配して言ってやってんだろうが」

 自覚すらないのか、あるいはそれを殺すように無理に否定してるのか。

「違う。お前は恐れている」

 そう言って自分を見据える男から、顔を反らし少年は言う。

「わけわかんねぇよ。なんであんたがやるのに俺が怖がる必要がある」

「だから聞いているのだ。一体お前は何をそんなに恐れているのだ」

 少年はその問いには答えない。答えられない。

「……勝手にしろよ。そんでくたばっちまえ」

 吐き捨てるように出たその言葉が彼の精一杯だった。

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