第3話

「そ、それは……」

 初めて盗賊の男が言いよどむ。

「賢い選択をするべきだと思うがな」

 東黄人の剣を握る手に力が入る。

「わ、わかった!! 隠し事はなしだ!! 正直に話す!! バハームだ。この村から徒歩で半日ほどの場所にあるバハーム砦だ!! 今はそこを拠点にしてる!!」

「砦?」

「そうだ砦だ。前の戦争で使われてたが今じゃ誰もいない廃墟さ。そこを俺達がねぐらにしている」

「砦か……。店主聞いてるか、この男の話は本当か? 砦を知っているか?」

 店の隅で震える女店主に尋ねる東黄人の男。

「あたしゃ何も知らないよ!! 何も見ていないし、聞いちゃいない!! 頼むからでてっておくれ!!」

 正気ではないらしい。まともな問答は期待できそうにない。

「困ったな。この辺りの地理には疎い。お前の話の真偽確認のしようもないな」

「ま、待ってくれ!! 本当だって!! 神に誓って嘘はついちゃいねぇ。有名な砦さ、あのババアじゃなくたって村の奴に聞いてみろ、知ってるはずだ!! なんだったら砦までのだいたいの地図を描いてやってもいい!! 嘘じゃねぇって!!」

「質問を続けよう。この後どうなると思う。村に行ったお前達の帰りが遅いとなると、山猫はどう動く」

「そりゃ、様子を見に行かせるだろうさ」

「誰が、何人つれてくる」

「そんなのわかりゃしねぇよ。上の奴らはみんな気分屋さ。普通は俺達みたいな下っ端が何人か来るんだろうけど、上のその日の気分しだいさ。誰が来るかなんてわからねぇ」

「そろそろ最後の質問にしておこう」

「ああ……」

「『キングメーカー』を知ってるか」

 盗賊を見据える東黄人の男の瞳に狂気に近き暗い灯火が宿る。

 嘘はつけない。盗賊の本能が告げていた。

「な、なんの話だ」

「アンヘイの狂王が手にしたと噂された手にした者を王にする石。選王石、通称『キングメーカー』。有名な話だと思うが」

「知らねぇよ!! 俺は学はねぇんだ。頭が悪いんだよ!! 本当に知らない!! そんな石聞いた事もない!!」 

 アンヘイの滅亡後、石の在り処をめぐっては様々な噂があった。しかし誰かがそれを手にしたという話はついにあらず。時の流れの中、狂王が手にしたとされる伝説の石の噂は噂に止まり、人々はその存在を疑い、石は幻となり消えた。

 だが、この東黄人の男は違う。

 彼は確信していた。石の存在を。

 そしてその行方を追っていた。

「そうか残念だ……」

 鮮血が舞う。

「……約束を守れぬ事はもっと残念だ」

 盗賊の頭がごろりと落ち転がる。そして再び店内に女店主の悲鳴が響いた。

「だがこれもお前達の悪行の結果だ」

 冷めた瞳で死体を眺める男。彼の目的は決まっている。

 ドルバンの山猫、その首領ダーナンならば石の在り処の噂、その一端ぐらいは耳にしてるやもしれない。

 大きな期待は出来まい。

 だが、慣れた事だ。

 彼が当てのない旅を続けてもう二年になるのだから。

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