『無為な夜の過ごし方』

壁に背を預け 毛布にくるまり

薄く淹れた紅茶に口をつけたまま考える


今は冬

時は夜

外は雨


いつもの自分ではない自分に

 なりたいという刹那の切望

  なれたような刹那の錯覚

足音も無く走り回って止まない


思索に耽るには最も理想的という

三拍子そろった貴重な時間が

私の中を通り過ぎていく

白湯にも似たマグの中身のように

喉にわずかな引っかかりを残した


 このまま時が止まればいい!


今からわかってしまう

陽の光を浴びて立ちつくして

……惨めに 惨めに 呆然と


 氷は溶け去るのだろうか

 闇は東雲に追い出されて

 雫は七色に輝くだろうか


  私を決定的に打ちのめす何かが

  そこにはあるのだろうか


刹那の予感が

紅茶の透明な香のように

鼻先を掠めた


 もしもそうなら

 むしろ出会いに行こうじゃないか


雨が止み

夜が明け

冬は春へ


もう 恐れる必要はなさそうだ

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