最高のプレゼント
とが きみえ
最高のプレゼント
午後十一時五十分。間もなく日付が変わろうとしている夜の道を、
あと十分ほどで、拓実と俊輔が付き合い始めてちょうど五年になる。
長いようでいてあっという間だったこの五年の間に、俊輔は美容師として自分の店を持ち、一方の拓実も総合病院の小児科医として忙しい毎日を送っていた。
お互い仕事が忙しく、一緒に住んでいてもすれ違いばかり。
それでも拓実が当直明けに家に帰ると、『お疲れさま』と書かれたメモとともに食事の用意がしてあったりと、俊輔からの細やかな気づかいで寂しいと感じることは殆どなかった。
「俊輔」
「んー?」
「いつもありがとうね」
「どうしたの、いきなり」
「何となく」
拓実がそう言うと、俊輔はふっと笑って夜空を見上げ目を細めた。
白い息が真っ暗な空に溶ける。
隣を歩く俊輔の横顔に、なぜかドキリとしてしまった拓実は慌てて目をそらし、首に巻いたマフラーの中へ顔の下半分を埋めた。
寒い?と聞いてくる俊輔。それに頭を左右に振って答える拓実。
「あっ! 拓実、今何時かわかる?」
「えっと……十二時三分」
コートのポケットから取り出した携帯で拓実が時間を確認する。
俊輔はその様子を愛おしげに見つめ、そしておもむろに足を止めた。
「俊輔?」
「拓実。誕生日おめでとう、それと今日で五年だね。ありがとう」
そう言って、微笑む俊輔。
拓実は一瞬目を見開き、はにかむようにこくりと頷いた。
「あと、これ」
はい、と俊輔はさっきコンビニに寄ったときに買った肉まんを半分に割って拓実に差し出した。
受け取った拓実の手のひらが、肉まんの熱でほんのりと温かくなる。
「もしかして誕生日プレゼント?」
からかうように拓実が言うと、俊輔は「あー」とか「うん」とか曖昧に答え、ふと表情を改めて拓実の顔を見つめた。
「拓実、あのさ……来年も……いや、そうじゃなくて……十年後も三十年後も、こうやって拓実の誕生日を一緒に過ごしたいんだけど」
「俊輔?」
「――俺と、家族になろう?」
「…………」
「ダメかな」
「……ダメじゃ、ない。けど、俊輔は女の人も好きになれるだろ? なんで……なんで、俺なの」
言葉を詰まらせる拓実の体を俊輔はそっと抱き寄せた。
「拓実がいいんだ。年取ってさ、じいちゃんになったとき、俺どうなってるのかなって考えたら、拓実の隣にいることしか想像できなかった」
「…………」
「俺の想像では、じいちゃんになっても拓実は可愛かったよ」
拓実の背後へ回された俊輔の手が、震える背中をそっと撫でる。
「拓実? 泣いてる?」
「泣いてない」
「そっか」
「本当に、俺でいいの?」
顔をあげた拓実の目元が微かに濡れている。俊輔はそれを唇で拭い、拓実の額に自分の額をコツンとあてた。
「拓実がいい」
「…………っ」
「泣いてないんじゃなかったっけ?」
「……ばかっ」
二人は見つめあい、そして小さく笑うと、どちらからともなく優しいキスをした。
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