第6話 頼み



 自身の部屋でVFを起動したオレの視界は数瞬暗転する。起動に必要なプロセスを素早く終わらせて見慣れたガレージに降り立った。ガレージも様々なカスタマイズが可能なのだが、今に至るまで結局何も初期から変えていない。

 ガレージに直立する愛機、アルタイルは戦闘の痕はすでに皆無である。斬り飛ばされていた左脚も元の通り、おまけに塗装まで新しくしたのか他の部分も光沢が出ている。これらすべての修繕費はヤマト持ちであるため、特に気分よくその悠然たる立ち姿を眺める。

 オレの《アルタイル》が目指したのは高機動汎用機である。各部位に増設されたスラスターはジェネレイターの力をより効率よく引き出してくれる。なおかつできるだけ装甲も薄くされており、軽量化も図っているため正直言ってかなりピーキーな機体となっているのは否めない。

 ヤマトの機体である《リゲル》に積み込まれた高出力ジェネレイターには出力こそ及ばないが、燃費と出力の比を見るととてもバランスがよくできている。ヤマト機のように推力に全てを注いでいる機体には負けるものの、基本的に機動力と言う面で後れを取ることはない。この最高級レベルのジェネレーターを買うに当たりヤマトに貸しを作ってしまったほどだが、後悔はしてないし満足している。

 武装もVヴァリアブルライフルAとV粒子収束ビーム砲、ビームサーベルとあり遠距離から近距離まで対応が可能である。この機体の得意な距離レンジを示すならば中距離である。乗り手のオレの得手を踏まえると中近距離が得意な距離となる。


「これがシュンの機体?」


 オレが機体の再チェックを行っていると声がかけられた。現実の彼女より幾分か低くなっている気がする。


「おう、EO.005。《アルタイル》だ」


 振り返りその声に答える。そこにはリアルで見る彼女とほとんど変わりがない姿が見られた。いやほとんど変わらないのは顔の造形だけだ。特に違うのは髪の毛の色がプラチナブロンドに変わっていることだろう。

 実のところPVに登場した彼女はこの姿だった。しかし顔の造りが瓜二つになっていたため即気が付くことができた。PVに映っている彼女との違いは、EO軍の制服を着ていないことくらいだろうか。代わりに女性用のパイロットスーツに身を包んでいる。見たこともないスーツであるからオーダーメイドなのだろうか。もしくは広告塔をやるに当たり運営が特注で用意したものかもしれない。

 パイロットスーツは元来引き締まるような構造になっている。だからだろうか、男子高校生であるオレの男のさがとも言えるべきだが、彼女の胸元を見てしまった。幸いクリスはオレの機体を見ているためこの視線に気づいてはいないが、一言感想を述べるならば“偽”である。

 つまるところ盛っていたのだ。女子も大きいほうがいいのだろうか。アオイさんも若干盛られていたな、とくだらないことを思い出した。


「……すごいシンプルね」


 オレの機体をしばし眺めてクリスは呟いた。


「よく言われる」


 オレは先ほどまでの邪念を消し去り、彼女の質問には肩を竦めてみせた。この機体を見た最初の印象は大体みな同じだ。

 見るものが見れば武装がかなり少ないと思うだろう。現に積載量はダダ余りであり、武装を増やそうと思えばかなりの量を増やすことが可能だ。

 だがそれはしない。ゴテゴテと武装を飾り立てれば強いというものではない。多種多様な武装を積んでいようとも、的確にそれを使えないのならば宝の持ち腐れだ。ならば、己の最高のパフォーマンスが可能となる最低限の武装だけでいい。

 なによりオレの機体は高機動機なのだ。無用な重量など邪魔者でしかない。


「だけど、好きよ」


 微笑むようにしてクリスはもう一度アルタイルを見上げた。


「なかなか分かってるな」


 クリスの笑みにオレも口角を上げて返す。なんだか悪友がもう一人増えた気分だ。


「こんばんは」


 そんなところに現れたのはアオイであった。今日はクリスの頼みもあったが、アオイの頼みごとと言う面が大きい。


「こんばんは」


「アオイ、遅いわよ」


 口を尖がらせて文句を垂れるクリスは子供っぽい。


「ごめんね」


 対するアオイもかなりフランクな返答だ。学校での印象が未だ抜けきらないオレにとってはとても新鮮な仕草や言動がクリス相手には見られる。


「まぁまぁ、それで明日の大会に出たいってのはホントなの?」


 彼女たちの言い合いも早々にオレは今日の本題を切り出した。現在こうやってオレのガレージに集まっているのは、単にお喋りをしようと言うものではない。クリスがオレの機体を見たいからと言う理由と、アオイさんがオレに1on1の技術を学びたいと言ってきたからだ。


「はい、私は対人経験が少ないので……」


 聞くところによると、対人経験はオパパ絡みのことしかしてこなかったということだ。それにしてはかなり冷静で正確な射撃をできていたと思う。狙撃と言う面で見るならばオレよりもうまいはずだ。


「1on1は結構特殊だし、ランカーであるシュンのお力をば」


 クリスが拝むように両手をすり合わせる様は、神頼みではなくゴマ擦りに見えてくる。


「クリスだってランキング戦には出てるんだろ?」


 聞くところによるとクリスもシングルトーナメントやランキング戦にはちょくちょく参加しているらしいのだ。


「あたしは四ケタ台だし~、あたしより高いシュンが教えた方がいいでしょ?」


 それにあたしも聞きたいし、とのことだ。

 正直4ケタ台ならば十分腕利きのはずだ。このゲームの全体のプレイヤー人口は優に7,8ケタを超えている。その中でシングル戦をやらない層は結構いるもののそれでも10万人は取り組んでいると思う。


「……まぁアオイさんに教えて減るもんじゃないし、いいよ」


オレは人に教えたことなどないんだが大丈夫だろうか、などと心中で不安にかられるも何事も経験だと了承した。


「あたしに教えたら減るみたいじゃない」


 嬉しそうに笑うアオイとは対照的に、不服そうな表情のクリス。


「クリスは口が軽そうだからな。オレの戦術とかを言いふらされたら堪ったもんじゃない」


 冗談めかして肩を竦めてみせる。


「ひどーい」


 棒読みでそんなこと言われても全然気にならないぞ。



 訓練に用いる場所は基本となる宇宙である。基本的に交戦場所として最も多いのはデブリなど何もない宙域だ。他にはデブリ帯の中や大気圏内の空中で行ったり、市街戦も行われる場合が多い。公式大会の予選ではかなり広大なフィールドを使うため、様々な場所による戦闘が想定される。

 そもそも予選は別に1on1ではないのだが……そこは置いておこう。今回は1on1の戦い方が知りたいということなのだ。


「まず大切なことだが、アオイさんの機体は中遠距離を得意な距離としている機体だ」


 彼女の《プレアデス》は一応自衛用の接近戦用武装もあるにはあるが、やはり得意としている距離レンジは近距離よりも遠い射撃戦を行う位置だ。


 格闘が得意な機体に近づかれるとそれはすでに負けと言っていい。彼女に格闘戦の腕があるならば別だが、どうやら格闘戦はやったことすらないらしい。


「近距離戦用の機体ならどうやっても近づいてこようとするだろう。だから結論から

言えば敵機を近づかせない戦い方をすればいいわけだ」


 正直言って当たり前のことであるが、これを常に実践できるプレイヤーはいない。オレ自身ヤマトの接近戦仕様のリゲル相手に引き撃ちを徹底しているものの、それをことごとい潜られ格闘戦に持ち込まれている。

 まぁヤマトは接近戦闘を主眼としたクランでも、上の方の実力がある男なのでさすがと言うべきだが。


「まぁこれを念頭に今からオレが接近するからそれを拒否してみてくれ。攻撃もしてくれて構わない。こちらも牽制程度にはするけどな」


「わかりました」


 アオイの《プレアデス》のセンサーアイに光が灯る。


「アオイ、撃墜しちゃって!」


 クリスは現在自分の機体が何故かないらしく、貸出し用の《プレセペ》を使っている。まぁ戦闘を見るだけなのだからそれでいいのだが。


「よし、クリス合図よろしく」


 話していたオレとアオイさんの距離は大体500mほど離れている。1on1の初めの間合いがこの程度なのだ。

 《プレアデス》の長距離狙撃用ビームライフルの銃口がこちらを正確に捉える。オレも即時行動できるように集中をする。


「はいは~い。じゃ、初め!」


 オレはクリスの合図と同時に《アルタイル》の各部スラスターから光が奔る、それとともに飛翔。直後プレアデスから放たれた光弾が通過した。


「行くぞ!」


 気合いとともにオレは突撃を開始する。長距離用のライフルは通常のVライフルよりも威力が高いが連射性に欠ける。そのためある程度発射に間隔がある。大体1秒に一発撃てる程度の感覚だ。リズムよく撃たれるライフルは読みやすい。その狙いが正確なのも相まって一定の感覚で小刻みに動くだけで避けきれるのだ。

 アオイはどうやら本当に対人戦は経験が乏しいらしい。前回のオパパ戦も言ってしまえば、オレが相手の意識を引き付けていたために知覚外からの狙撃だった。

 確かに正確無比な射撃ではあるがこれはHel相手に特化した戦い方だ。Helは基本的に攻撃を避けることができない、というか避けない仕様だ。そのため奴らを相手にするだけならば、的に的確に撃つことができるだけである程度の戦果が期待できる。

 だが対人戦は先読みという“勘”が非常に重要になってくる。この“勘”は何度も対人戦をこなさなければ身に着くことはない。

 徐々に距離が詰まる《アルタイル》と《プレアデス》。《プレアデス》の開始時は500mもの距離があった間合いも今やその半分すらない。


「焦っているのが丸わかりだな」


 ここでライフルを《プレアデス》に向け、発射。500mであっても一応は射程圏内だが避けることは容易い。しかしここまで近づいてしまってはそれも難度が上がる。


「あっ」


 ライフルを向けられた《プレアデス》は明らかに動揺した。すでに狙撃自体に焦りがあり、さらに敵機であるオレの攻撃が加わったのだ。何とか避けて見せるも今まではきっちり撃たれていた迎撃弾が遅れて出る。避けながら攻撃をすることは上級者でもなかなか難しいのだから当たり前だ。

 だがそれをしなければその数瞬のラグでさらに距離が詰められる。基本的にVFという機体は後退するよりも前進する速度の方が速いのだから必然の結果だ。

 苦し紛れに思えるように《プレアデス》の左右の肩部に設置された8連装ランチャーと 脚部のマイクロミサイルを全弾発射フルブラストする。


 これはヤバい! 今までの甘っちょろい狙撃とはわけが違う面制圧攻撃だ。


「……」


 眼前にはミサイルの雨が迫る。これ以上ない脅威に集中力が極限まで高まる。

 一つもミスはできない。

 《アルタイル》のライフルを発射し数発のミサイルを狙い違わず撃ち抜く。同時にそのミサイルは爆発、近場のミサイルをまき込み誘爆する。 

 しかし運が悪くも誘爆しなかったミサイルは存在した。その存在を即座に察知すると頭部バルカンの掃射で全て撃ち落す。かなりギリギリだったがどうやら無傷で済みそうだ。

 ビームシールドを前に構えつつも爆炎の中を迷わず突っ切ると、彼我の距離はこの時点ですでに50mを切っていた。遠距離戦を主眼とした機体を相手にする場合、臆したら負けだ。とにかく前を見続けることが強いられる。だから思い切りが必要になってくる。

 前方が見えないにもかかわらず、思い切りでもって爆炎を突き抜けると警戒していた狙撃は来なかった。代わりにアオイはこのミサイルの隙に武装をハンドライフルに持ち替えていた。その判断はとても素早く手本と言っていいものだ。だがハンドライフル程度の弾なら密着射撃でもなければ、いくら実弾に弱くともビームシールドで防ぎきることが可能だ。

 ミサイルの雨から次は銃弾の雨に変わる。だが両の手から放たれるハンドライフルの弾はすぐに尽きた。いくら撃っても敵機に傷が付かないことによる焦燥はここにも現れていたのだ。構わず連射したせいでハンドライフルに装填されていた弾丸が切れる。

 《プレアデス》は急いでリロードに入る。同時に《アルタイル》のスラスターから放たれる熱量も増大、最大出力。  

 マグチェンジをするほんの小さな隙は見逃すわけにはいかない。一気に近づくと左腕部の先にあるアンカーダガーを射出する。ダガーをプレアデスの左腕部の関節部に突き刺すと同時にかえしが展開。そして即座にアンカーダガーを引っ張る。

 引っ張られた《プレアデス》の関節部が悲鳴を上げるように機体全体が傾く。


「どうなってるの!?」


 アオイは事態の展開に着いていけてないようだ。


「チェックメイト!」


 驚いて動きが完全になくなった《プレアデス》に肉薄、ビームサーベルは出力せずにコックピットに突き付けた。


「そこまで!」


 クリスの声でこの模擬戦は終了した。




「アオイさん、弱点は分かった?」


 オレのガレージに戻って《プレアデス》の修繕をする最中にアオイさんに質問をする。《プレアデス》の修繕費は全てオレ持ちである。《プレアデス》はEO軍の量産機であるため修繕費用はかなり安上がりなのだ。

 初心者に量産機がオススメされる理由はこういうところにもある。


「なにが悪かったんでしょう……」


 アオイさんからしたら予知能力でもあるかのようにオレが全て避けていたように映るのかもしれない。正直言って対人戦初心者である彼女は、かなりうまく引き撃ち行動ができていたといえばできていたのだ。

 オレだって最初からあんな風に避け続けていたわけじゃない。何度も被弾して、撃墜されて……それでも勝ちたいから対策をし続けたのだ。


「アオイ、あなたの射撃は素直すぎるの」


 まさにクリスはアオイの弱点を言い当てた。


「……どういうこと?」


 アオイさんは理解できていないらしい。これもNPCであるHelとの戦闘経験が多いせいだろう。


「あなたの狙いは正確なの、しかも射撃と射撃の間隔の狂いもなかった」


 クリスの言ったことはオレの言いたいことを代弁する形になった。


「そういうこと。射撃が正確なことは悪いことじゃないし、いいことだ。だけど射撃の間隔が一定である以上避ける側はリズムに合わせて避けるだけで、とても楽なんだ」


「そういうことだったんですね」


 納得したといった表情のどこかにホっとしたような表情が混じっているのは気のせいではないだろう。

 正直オレが彼女の立場だったら、オレが怖いだろう。すべて考えが読まれているなどゾッとしない。


「それにしても、訓練だっていうのにミサイル全弾発射するなんて……」


 クリスが呆れたようにアオイに言った。アオイの携行ミサイル総数は先ほど全弾発射した22発だ。


「いや~あれはちょっと冷や汗かいた」


 苦笑しつつ先ほどのミサイルの雨を思い出した。あれほどの飽和攻撃は中々されることはない。大抵は何回かに分けてミサイルを発射することがほとんどだ。たまにあのようにばら撒くことを至上とする輩もいることは否定できない。


「び、びっくりしちゃって」


 アオイさんはどうやらオレの突貫のプレッシャーに気が動転してしまったらしい。


「シュンもシュンでよく無傷で切り抜けたものね」


 若干呆れが混じっているのは気のせいではないだろう。かなりの近場での全弾発射だったので、正直言って切り抜けられたのは奇跡だ。


「あれは全部を反射で捌いた感じだからなぁ。ま、これも慣れってことさ」


 自慢げにクリスの顔を見やる。そしてそのことで思ったことをアオイさんに伝える。


「あ! あと全弾撃つならもうちょっとだけ引きつけた方がいいかな。さっきのオレ

みたいに対処できる可能性はできるだけ減らした方がいいし」

 

 まぁあの位置からでも大抵のプレイヤーならば撃墜されるはずだ。オレも撃墜されたと一瞬思えるほどだった。


「ふーん。まぁ何はともあれアオイの弱点も分かったことだし、そこを意識してもう一回やりましょう!」


 オレのしたり顔は無視され、一人でおーっという感じで盛り上がるクリス。


「えぇ、今の一回で疲れちゃったよ」


 どこか呆れたような目線をクリスに向けるアオイは本当に疲れているようだ。クリスは見ているだけだったのだから疲れるはずもない。


「対人戦はやっぱり疲れるからしょうがない」


 対人戦は考えることが多すぎるしやるべきことも多く、正確性を求められるため慣れないうちは連戦など無理なのだ。


「まぁ予選は1on1じゃないし気楽にいけば大丈夫だ」


 予選は大人数でのバトルロワイヤルであるため、アオイの機体ならば遠くから漁夫の利を狙っていけばいい。そんなことを考えているとアオイさんは驚いたという顔をオレに向ける。


「え? 予選も1on1じゃないんですか?」


「いや、予選はバトルロワイヤルだけど」


 どうやら予選から1on1でやる気だったらしい。そんなことしたら一体どれほどの時間がかかるんだろうか。参加者だって5ケタを超えるのは普通なのだ。一々1on1をしていては時間がいくらあっても足りない。


「確かにおかしいとは思ってたんです……クリス~!」


「ごめんごめん」


 片眼を閉じて舌を出して謝罪を口にする。やることが若干古いのではないか。しかし無駄に様になっているのでそのことは言わないでおこう。

 あまり謝罪を真剣に行っているという印象は受けないのは置いておこう。


「許して! あたしだってアオイが言ってたシュンの実力を見たかったんだって!」


 クリスがアオイに壁まで詰め寄られている。焦ったクリスは珍しいな。

 アオイの表情は背を向けられているためわからないが結構怒っているのだろう。学校では天使と名高い彼女だが、クリス相手となるとかなり内心を表に出すようになるのだろう。優しい人が怒ると怖いってのはそこでも一緒なのかもしれない。


「もう、予選で勝てなかったらそれこそ今日のは無駄じゃない」


 プンプンっという擬音が似合いそうな声音のアオイさんである。かわいい。


「そんなことはないと思うけど……」


 一応のオレのフォローにクリスは飛びついた。


「そうそう! バトルロワイヤルも基本的には1on1が偶発的に連続して起こってるだけだしね」


 クリスの言うように変則的な形であるが基本的にバトルロワイヤルで協力関係になるパターンは多くない。確かにスコアがトップのプレイヤーを倒そうと徒党を組むことはあることはあるが、完全にその徒党は仮初かりそめだ。

 結局バトルロワイヤルはどうやって生き残りつつスコアを稼げるか、ということなので漁夫の利は当たり前である。


「なるほど」


 アオイさんもクリスの言葉に納得いったようだ。クリスもアオイさんを納得させるのが巧いのは付き合いの長さゆえだろう。

 その後しばらくしてアオイさんの疲れが取れるともう一度同じような形式での訓練というなの模擬戦がはじまった。

 先ほどとは違い射撃の間隔がバラけてとても読みにくくなっていた。一度の説明でこれほどまで上達してみせるアオイさんはセンスがあるのだろうと改めて思った。



◇◆◇◆◇◆◇◆



 翌日、土曜日。

 オレは起床したのは健康的な時間だった。

 太陽が南中する時間に起床したオレは、朝食と昼食を同時に取る。俗にいうブランチなるものを行うのは休日の日課だ。今日あるVFの公式大会は20時から開始であり受付は19時~19時55分の間だ。この開始時間は全世界同時に行う都合上どこかの時間に合わせて開催される。今回はそれが日本時間になっているためとても都合のいい時間帯なのだ。

 大会の開始までまだまだ時間があるが、休日の昼間にすることなどVFを除いて正直言ってない。

 悲しいことに皆無だ。

 大和に誘われでもすればオレはのこのこ外出するのだが、あいつも今日の夜に向けて最終確認などを行っていることだろう。あいつはクランに所属しているため、こういう日はそっちに行っているのだ。


 シングル戦の公式大会の概要はこうだ。

 一日目で512人になるまで32のグループに分けてバトルロワイヤルの予選が行われる。グループ上位16名までが先に進めるのだ。

 制限時間2時間のうちにどれだけ敵機を撃墜できたかによるポイント制。

 1機1ポイントで撃墜されるとそこで脱落だがポイント自体は残る。制限時間まで生き残ると大幅にポイントが加算。さらにその人数を128人絞るため4人1グル―プに別れ総当たりを行い、その中の上位1人のみ決勝トーナメントに進出。

 二日目。決勝トーナメント。128人による1on1のトーナメントが開始。

 優勝者や入賞者にはゲーム内通貨と限定装備、称号、NOC系列の商品券などが送られる。決勝トーナメントまで勝ち残った者にも様々な特典が用意されている。


 結局受付の時間までHelを適当に狩って小金を稼いで過ごすことになった。

 夕方になるとHMDに繋がったオレの携帯端末に着信が3通届いていた。ゲーム内でも返信が行えるのはとても助かる機能だ。


『受け付けは済ませた?』

『お互い頑張りましょう!!』

『決勝で待つ!!!!!』


 順にクリス、アオイ、ヤマトである。

 それぞれに『勿論』『頑張ろう!!』『おう』と返信した。

 ヤマトはいつもこの時点では決勝で待っているが、決勝トーナメント選出戦で負けることが結構ある。ヤマトの機体はかなりピーキーであるので、勝率が安定しないのは正直しょうがない面があるので目を瞑る。


「アオイさんはどこまでいけるだろうか」


 オレの弟の翼ほど対人戦に慣れてはいない。巧くなったとはいえまだまだ対人戦に関して彼女は初心者だ。バトルロワイヤルの立ち回り方もそこまで煮詰めてはいないだろう。


【19時55分になりました。大会の受付を終了します。20時になり次第指定の場所に転移します。参加する方は機体に乗り込み待機してください】


 まずは自分が勝たねば意味がない。気持ちを切り替える。

 さて、2周年前の最後の公式大会だ。優勝は十分狙えるはず……。

 今回珍しくトップランカーの参加がかなり少ない。来月のレギオンバトルに優先的に参加できるため今回は運営が止めたのかもしれない。

 

 オレはNグループか……さぁ行くぞ!!


 20時になったと同時に機体ごと転移がはじまった。

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