旧作0
岸田解
1989年1月7日、明仁
親父が死んだので、AVを借りてみた。どうしてそんなことをしようと想ったのかは定かでないが、何故か直感的にそうしていたのだ。早速、家に帰って観始めたのだが、全く興奮すると云うこともなく、寧ろ白けて馬鹿馬鹿しくなってしまい、冒頭の十数分で観るのを止めてしまった。こんな時に、俺は一体何をやっているんだろうか——。そんな風にも想ったし、事実俺のやっていることは一見、支離滅裂と云われても仕方のないことなのかも知れない。しかし、それでも俺は、再びそのAVを観直し始めることにした。今回もやはり、性的な興奮には程遠かったが、それでも何か少し、自らの心の中で微かな変化が起こったように感じられた。果たしてそれがどのような変化であったのかは、今もって自分でも明言することは難しいのだが、とにもかくにも俺は明日から、親父の仕事の跡を継がなければならない。
ふと、AVの再生をもう一度停止させて、生中継で放送されているニュースの映像に切り換えると、漢字二文字を大きく書き、それを額縁に入れたものを誇らしげに掲げている男の姿が繰り返し流されていた。そこには非常に読み取り易い毛筆で「平成」と記されていた。俺はこれから、その平成の世を生きていかなければならない。いや、俺こそが「平成」であるのだと云うほどの、強い信念と覚悟が必要であるようにさえ想われた。まだまだ、あまり自信はないのだけれど。さて、どうなることやら。
(2007-03-07)
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