4−11

 船の衝突で崩壊していた港はすっかり綺麗に整備されていた。それでも、ジョーとケーリーが幼い頃商店街の買い物を終えた時によく向かうあの静かな海岸は全く変わってなかった。変わった事といえば廃品のブロックが増えていた事と、白骨化した王のクロ ーンの死体が転がっている事である。

『ここは相変わらず落ち着くね。』

 ジョーは言った。

『いつ、バウエ山に帰るんだい?』

「一通り、復帰手術に作業員たちが慣れてきたらかな。」

『そうなんだ。』ジョーは海岸を見る。『ねえ兄さん。』

「なんだい。」

『ゲルマのこと、フルネスから聞いた?』

「ああ、知ってる。」ケーリーは投げやりな口調である。「だが、証拠がない。しかも、父親がアルゲバ王どっぷりだったけど僕は改心したってしきりに主張してる。たとえ裏切り者だったとしても、証拠がないし、王国に危害を加えない存在である以上どうしようもない。」

『そんな・・・』

「どうせやつは自分の地位にしか興味が無い。だからほっといても平気だよ。」

『そんな・・・』ジョーはうつむく。『まあ、そうか。』

「おや、ジョーにしては諦めがいいじゃないか。」

『うーん、なんというか。』

「何というか?」

『なんかあんまり恨みを持つ気もないなあ。正直このような姿になってから、何も苦痛が無いというか。あるとして過去のイヤなことを思い出したときだけ。これからの事については何も辛くないし、やる気もないし、ただ翻弄されるだけ。まるで夢を見てる感じ。植人になる前に麻酔を受けたんけどさ、その時の夢みたいな感じがするんだ。ここ。だから悪い奴もそんな憎めない。何も苦しくないから。』

「君は人形になってしまったからね。」

『死なないってこと?』

「植人は死ぬというよりは徐々に力が無くなっていくと言われる。人間もそうかもしれないけど、人間よりは本当にそのスパンが長いから、時間の感覚もなにもかも違うんだろうね。」

『歴史の授業聞いたんだけど。』

「うん。」

『昔は植人になりたくてなった奴が国を支えたんだろう?』

「そうだね。」

『そしてそれが減ったから無理やり植人にしたんだよな。』

「うん。」

『今は、国を支える気が無くても植人になろうと思えばなれるよね。』

「ははは。」

ケーリーは笑いながら空から目を逸らす。

「ジョーは本当にすぐ嫌な事気がつくねえ。」

『兄さんがポジティブすぎるからだよ。』

「そうねえ。まあなんとなく思うのは、」

ケーリーは空を見上げる。 「初代王が植人は神聖だーとか言ってたから、そういう古きよき精神的な思想みたいなんが広まって、次々と意味も無く植人になる人が増えるだろうね。」

『うん。』

「そうしたらここは人形が支配する国になるのか。」

『それは無理だろう。』

「なんで?」

『俺自身が思うもん。』

「どういうこと?」

『自分は人形だ、と思ってしまったら、なんかこれからきちんと生きようとする意欲が無くなっちゃう気がするな。何かがんばろうって気もない。』

ジョーは蹲る。

『過去の悲しみ、それはあるけれど、これからどうする、という事については、なんか あんまり関心が無いというか。』

「身体の痛みも何もないからか。」

『そうだね。例えば恋とかどうでもよくなっちゃった。メラマのことは悲しいけど、なんか生物としての本能がないのかな。なんかもうすでに死んでる気がするんだよね。』

ケーリーはその言葉に衝撃を抱き、ジョーと同様に蹲る。

「君を助けたいがばかりに、とんでもない事をしてしまったな。」

『いや、そうなる宿命だったんだよ。さもなければあの王と共に壊れていくか、あるいは、みんな植人になって消えてしまうか。』

 ジョーはまっすぐ海を見た。

『どちらにしても、生きていく方がずっといい・・・・・・・・・あれ。』

 ジョーは海から二つのものが流れてくるのが見て声をあげた。一つはその異様な曲がり具合と棘の数から王のクローンの骨と判断できた。もう一つは大きな人型の何かである。良く見ると、なんとそれは錆付いた処刑人であった。うつぶせであったが、顔のあたりに茹でた卵の白身のように凝固液がヒラヒラと漂っていた。

「こんなところにいたのか。」 とケーリーはボソリと言う。恐らくはこの海岸の隣の港の遠くの城のゴミ捨て場から遠く遠くの中を流れ、ここにやってきたのだろう。ジョーは何か処刑人が気になった。 彼も多分、植人なんだよな。

『兄さん。』

「なんだい。」

『あいつも、復帰手術してよ。』

「正気か?」 ケーリーは驚いた。

『どうせ3頭身になれば誰も殺せないでしょう。』

「・・・しかし何で。」

『気になるから。』

「気になる?」

『俺の友人を殺しまくった奴とはいえ、前の王に一番関わった植人なんだ。何を考えているのか、知りたいじゃないか。』

「・・・おそらく、アルゲーノ王も知りたい気がする。」

ケーリーは言った。

「やってみよう。」

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