4−6

 10年も前の事であろうか南の島に隠匿していたトールスキン家の末裔、サレボとアルゲーノは出会った。彼は病弱て外に出る事もできず、ひたすら引きこもって、レリビディウム・トールスキンが体得した植人技術について研究していた。アルゲーノ公は趣味の船旅行をした先に彼を発見し、サレボはアルゲーノ公にアルゲバ王国の様子を訊いたのである。

『え、刑罰?』

『そうだ。』

『植人が、そんな、まさか。』

『君の先祖が聞いたら、さぞ、悲しむだろうと思い、私も心苦しい。』

『私は、先祖の手記も王の手記も持って彼らの精神はよく分かっている。間違った事に 使われる事を懸念されていた・・・。』

『残念ながら、今の王・・・私の兄なのだが、正直あまりに酷い。無実の者や大した事無い犯罪者が強制的に植人にされているのだ。』

『それは・・・信じられない。あれが何故聖なるものとしてあがめられるのか、無知すぎるのではないか!あれがどれだけ苦痛を味わうのか!あれがどれだけ美しい境地に至るための苦行だったのか!』

『そういうものだったのか、植人は。』

『・・・そうだ。』

『・・・。』

アルゲーノ公はしばらく考えた後、言った。

『すごい事を閃いてしまった。』

『なんだ。』

『お前のその、クローン技術を使ってこの王政を転覆させようじゃないか。』

『・・・どういうことだ?』

『・・・そうだなあ・・・まず何人か私のクローンを作る。アルゲーノ公をもう一人、 そして、反乱組織を設立するために一人。計二人・・・作れないか。』

『反乱組織のリーダーとアルゲーノ公を作ってどうするのだ。』

『もちろん彼らとは親密にするよう私もできるだけがんばるのだが、クローンのアルゲーノ公にはしばらく私が身を隠している間役者になってもらう。そして反乱組織は・・・そうだな、例えば、君の先祖の名をとって、レリビディウムはどうだ。そいつの名前はランバーでもブンビーでも適当につけておいて、君の代わりにトールスキン家の思いを王国民に伝えていく。』

『別に名前と志を借りる事に特に反対はしないよ。クローンも貢物さえくれればやろう。 しかしそれでどうするんだ。反乱でもさせておくのか?』

『それもありだし最終的には王の暗殺か追放を目的としたいのだ正直。私の権力のバックボーンがどうしても必要だから、そのためにも反乱組織を樹立しておきたい。だがそれだけで は不安なのでもう一案ぐらい用意したく、君に更なる頼みがある。もっと貢物を足すよ。』 『ほう。何だ。』

『王のクローンを作ってもらいたい。』

『王のクローン?なぜ?』

『王には自滅していただきたい。あの怪物のような心の持ち主を殺せるのは自分自身し かいない気がするからだ。』

『ほう。しかしこっそり作るのか。』

『いいか、王はお妃をすぐ殺すから後継が全くいない。そこで私のクローンに・・・』

『今さらりと恐ろしい事言ったな。お妃を殺す?』

『王はそんなのが生ぬるいぐらいの狂った人間だと思え。それで、そうだ、私のクロー ンを王に遣わし、後継の為にクローンを作る事を提案させる。』

『そういうことか。』

『あの王から生まれた存在が善良な存在であるはずは無い、だろう?』

『はい。本来ならば、クローンを行うとき、強力な遺伝子が継承されやすいので、王が仰るとおり心底凶暴な人間でしたら、生まれてくるクローンも非常に危険かと思われます。』

『よし。では一か八かの賭けであるが、挑戦してみる価値はあるな。』

『私はとりあえずアルゲーノ公のお手伝いをするまで。』


 ランバーの死体を確認したアルゲーノ王は深い悔悟の念に包まれた。王のクローンが予想以上に凶悪だったからである。少なくとも王を殺し、また政治を成し得る状態のクローンではない事はアルゲーノ王の計算通りであったが、それにしては被害が大きすぎた。まさか7体も要求するとは思わなかったし、人の姿からあそこまで離れるとも思わなかった。あの牙の量、そういえばこの王国特有の奇形にそっくりだな、とアルゲーノ王はふと気づいた。アルゲバ王も工業排気の犠牲者であり、それ故に脳が狂ってしまわれたのか、と始めて知り、始めて兄王が哀れに思えてきた。彼は脳が正常な人間たちが許せなかったのだ。



 クローンは2体とも死に絶え、アルゲバ王国アルゲーノ王の体制が次第に整いつつあった。植人を以前のような志願制に戻すつもりであったが、しかしでは刑罰制度のきっかけとなった人員不足をどうすればいいのだろう、 どうしたら王国民に植人へのモチベーションを上げる事ができるのだろう、と再び悩み始めたとき、一人の男が訪問に来たとの報告を受けた。アルゲーノ王は召使と会話する。

「私に話したいのだって?」

「そうです、王に直々に提案したいことと訊きたいことがある、と仰っていました。」

「そうか。」

アルゲーノ王は応接間にたどり着く。そこには若いながらすこし老け込んだ表情の男がいた。

「お前は何者だ?」 とアルゲーノ王が聴くと、彼は答える。

「私は、王国大学博士のケーリー・プラーシックバウエです。」

「プラーシックバウエ・・・するとジョーの家族なのか?」

「ジョー!ジョーをご存知なのですね!」

ケーリーは真剣な表情でアルゲーノ王に迫る。

「私は、あいつを助けたい。バカで突っ走って直情的で向こう見ずな、あいつを助けたいんだ。彼は植人になってしまったのですよね。ならば、前々からやりたいと思ったプロジェクトを彼のために進めたい。そのために援助を申し込めないかと思って。」

「プロジェクト?」

「植人をより小型で高性能にする。そして、かの処刑人もそうであったように、ほぼ自主的に動けるようにし、人間に近い能力を獲得する。」

 アルゲーノ王は目を丸くする。 「・・・面白いではないか。丁度いい。」

 思わぬ助け舟がやってきた。とアルゲーノ王は思った。単一の動きしかできない植人を人間に近いレベルに動かす事ができれば、作業もより能率化するし、また、植人に対する抵抗も減るであろう。これは良い風向きではないか、とアルゲーノ王は漠然と思いつつ、ケーリーと握手をする。

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