4−5

 アルゲバ4世とも呼びづらいクローンの新王に対し、召使達は本当に対応に困ってしまった。白く巨大な塊で、最初彼らは化け物が城に入ってきたのかと怯えたが、クローンの新王はガタガタ震えながら言葉を発したのである。

「ワ、ワタシ、お、オレ、ボク、ガッ!アァルゲェバ、ノ、王サマ、ノ、生まれカッワラリ、クローン、の結果、王様、死んだ」

 クローンの結果、王様、死んだだけ聞き取れた召使はとりあえず彼が新しい王様なのだろうと考え玉座に担いだ。だが、彼ばかりは本当に食べる事しか考えてないようであり、召使は困り果てていた。

「王よ、結局ゴミ捨て場から侵入しようとしたこいつはどうします?」

 そう召使が王に言っても王は「お、おなか、す、すいた」としか言わなかった。それを見て右足の無いジョーは憤怒の情にかられる。

「オレは、こんな、やつに、食われたく、ない、ぞ!」

 しかしその心配はご無用であった。すでに家来を食べ始めていたからである。そして王はガタガタ震えながら言う。

「ググ、ガッ!悪い奴、皆、殺す、悪いものは、食べる。美味しい、ガッ!人間は悪い もの、悪いもの悪いもの」

 召使達は困り果てて、処刑人のデスマスクを収納していた倉庫に入って、いつ使ったかも分からぬ法律の巻物を取り出して読んでいた。

「おい、どうするんだ!貴様ら!」ジョーが暴れる。「このやろ!人をいいようにしやがって!許さん!絶対、 許さん!」

 兵は抑えつつ言う。 「あなた、新王に食べられたくなければ大人しくしてなさい。」

 ジョーはさすがに動きを抑えた。

「そして、残念ですが、」巻物を呼んだ召使が言う。 「あなたは植人になります。」



それから幾日経っても新王はまともに人と会話する気力もなかった。

「ゲゲ・・・ウゲ・・・ゲゲ」

「王のばーか!ブランジェ頭!」

「ブランジェ、うまそう、食う」

どうやら自分の伝えたいコミュニケーション以外は全く通じない事を確認した召使は 次々と罵倒文句を浴びかせる。

「白塗り!」「能無し!」「ごくつぶし!」「ただの置物!」「人殺し!」

(え・・・?)

壁と壁の間のアルゲーノ公はその光景を見て目を疑う。新王は食欲を満たしたのかグ ヒヒヒヒと笑いながら眠る。

(なんだ、機会をうかがってこっそり暗殺しようとしていたが、もう皆、王に対して冷め切っているのか。なーんだ。)

アルゲーノ公は壁と壁の間の隙間から突如王室に姿を現す。

「あれ、アルゲーノさま!」

「生きてらしたのですか」

そう呼びかける召使を無視し、召使が持っていた果物ナイフを取り出して新王の眉間にそのまま貫いた。

「ああ、新王が・・・!」

と召使たちが腰を抜かしてしまったのでアルゲーノ公は叫ぶ。

「お前達こいつが王だと思っていたのか?人間ですらないじゃないか。王はすでにこいつらに食われて死んでいたのだ。殺戮者だぞ?お前らはこんな怪物にまんまと騙され、王だと思って 仕えていた!」

「しかし、新たな王はどうすれば・・・。ハッ。」

 召使は気が付いたかのように目を開き、アルゲーノ公にひれ伏す。それに気づいたほかの召使もアルゲーノ公にひれ伏す。

「アルゲーノ王よ・・・。」

 アルゲーノ公は天井を見上げ、「私は、兄に、打ち勝った・・・」と独り言を言った。そして召使たちに振り返って命じた。

「至急部隊を組み直し、残り2体の化け物どもを殲滅せよ。奴は眉間が弱点だ。早くしないと犠牲者が大量に出てしまう。」

召使が「かしこまりました!」とばたばたと外に出ている間にアルゲーノは王座に座る。そして、これまでの出来事を振り返る。そう、それは航海旅行の最後に出あった南の島のクローンの博士、サレボ・トールスキン。自分のクローンであるランバーではなく本当のトールスキン家の末裔であるサレボ・トールスキンとの出会いから始まった。

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