2章:急に言われても覚悟が決まらない

第7話:お待たせ! 清めの大女神


 ――めありすちゃん、めありすちゃん。


 なーに? アクアさま。


 ――うふふ、アメちゃんあげる。お父さんには内緒にしなきゃダメだからね。


 ありがと! わぁい! あまーい!


 ――アクシズ教徒になれば毎日お菓子を食べても叱られないわよー。ね、めありすちゃんもアクシズ教徒になりましょう?


 ほんと? わかった、なる!


 ――くぉら! 人の娘に何吹き込んでんだ、去れ! 邪神!

 ――邪神!? あんた今私のこと邪神って言った!? あなたね、清らかな水の女神に向かってなんてこと言うの! 謝って! 女神様に今すぐ謝って!

 ――子供を怪しい宗教に勧誘してる奴が何言ってんだ。言っとくが、それって立派な犯罪行為だからな。また警察に訴えるぞ!

 ――わ、わあああ! それはダメ! 捕まっちゃうからそれはダメよお! ごめんなさいカズマさん、また天界で書類増やされちゃううう!


 アクアさま、つかまっちゃうの?


 ――捕まらない! いい? 女神は警察より偉いの。法律はちゃんと守るけど、本来牢屋に入れられたりなんてしないんだから。

 ――あ、もしもし警察ですか? すみません、ウチの庭に宗教家が不法侵入してて……。

 ――カズマざぁぁん! ごめんなさいカズマさぁぁん!


 よしよし、泣いちゃだめ。


 ――うっうっ、ありがとねえ……ホント、子供って可愛いなぁ……どうやったらこんな可愛げの無い男からこんな可愛い子が生まれてくるのかしら……あ、もしかして神の奇跡?

 ――何言ってんだ、この駄女神は。




 ………………

 …………

 ……






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『――母はめぐみん。父はサトウカズマ』


 それは、俺たちにとって爆裂魔法に等しい威力を持つ発言だった。


『……私は、20年後のあなたの娘だ、お父さん』


 父。お父さん。アイムユアファーザー。

つまりあいつは俺の娘。どうしよう、全然身に覚えがないんだけど。

いや当たり前か。なに馬鹿なこと言ってるんだろう、俺。


「あー……」


 なんか今、凄く自分が馬鹿みたいだという自覚はある。

言われてみりゃ可能性はあった。むしろ何でもっと早く思いつかなかったんだ。

……そりゃ、あいつがめぐみんのことを「オリジナル」とか言うからだよな。

大元って意味じゃ間違っちゃいないけどさ。紛らわしすぎるだろ紅魔族。


「あー!」


 どうにも居たたまれず、自室のベッドで転がり回る。

駄目だ、なんかこうグルグルしていて考えが纏まらない。

それもこれも、いきなり娘なんて出来るからだろ!

結局めありすは普通に姿をくらましちゃったし。

ダクネスもダクネスでなんか凄いショック受けてるし。

バニルはなんか分かったような顔して帰りやがったし……


「娘、娘なぁ……」


 どうしろってんだよ、俺に。

やだよ、俺はまだ特定の誰かとイチャイチャすら満足にしてないっての。

なんかこう、本題とは関係ない所で「あなた五年後には人生の墓場に片足突っ込んでますよ」って宣告された感が半端ない。

やだいやだい、俺は不労所得を極めるんだ。


「はー……」


 ひょっとして、ヒロインが増えれば増える分こんな気持ちを味わうんだろうか。

だとしたらハーレムなんか要らないよな。夢は夢で終わりたい。

そうだ、サキュバスのねーちゃんたちのお店に行こう。

そしてとびっきりの夢を見させてもらおう。全てを忘れられるように。




「……カズマ? 起きてますか?」




 そう思ってそっと窓から抜けだそうとした所に、遠慮がちなノック音が響いた。

欄干にかけかけていた足を慌てて下ろすと同時に、ネグリジェ姿のめぐみんが俺の部屋のドアを開ける。間一髪セーフ。


「なんだよ、こんな夜更けに。良い子は寝る時間だぞ? 身長、もう少し伸ばしたいって言ってたじゃねーか」

「すみません。なんだかちょっと寝付けなくて……まあきっと、カズマも同じだと思ったんですけど」


 そう言いながら、めぐみんは俺の隣に腰掛けた。

ふわりとシャンプーの良い匂いが香る。おかしい、全員使ってるのは同じ物の筈なんだけどな。

ちなみに、俺が咄嗟に腰掛けていたのはベッドである。

……女の子が自分から男のベッドに腰掛けるのってどうなんだろう。

なんとなくドキドキしていると、ついにめぐみんが口を開いた。


「……窓、開いてますね」

「あ、ああ。ちょっと、空気を入れ替えようかとな」

「靴履いたままですよ」

「み、水でも取りに行こうかとな」

「壁に靴跡付いちゃってますね」

「あー本当だ、明日掃除しなくっちゃなー」

「全然セーフじゃ無いですからね」

「……はい」


 脇腹を抓られました。痛いです。


「ま、週に1~2回は私の番もあるみたいですから許しますけど」

「……え、ちょっと待って。なんで把握されてるの」

「ウィズさんのお店にちょくちょく通ってれば、何回かは顔を合わせますし。エリス教徒であるダクネス相手には正体を気取られないようしてたみたいですけど、私相手には結構ザルでしたので。ある程度親しくなったところで脅して吐かせました」

「悪魔かお前は!」

「紅魔族です」


 なんか最近、あのお店一段とサービス良くなったなーと思ったのはひょっとしてそのせいか!

店を質にとられ守秘義務をバラしてしまったことへの後ろめたさが、こっそりとサービスを良くすることに繋がったんだな。

なんていじましい悪魔なんだ。彼女らのような悪魔こそ、天使に相応しい。

それに比べて、このアークウィザードはどうだ?


「なにか?」


 確かに顔は可愛いよ? そこは認める。

だがまぁ欲を言えば身体に肉がちょっと欲しいし、性格にはだいぶ難ありだ。

なんか最近こっちを手球に取ろうとしてる感じがしてムカつくし。

どうせお嫁さんにするなら、もっと尽くしてくれる人が良い。

そっと笑って背中を押してくれる感じの。こいつの場合、感じるの爆風じゃん。


「なんかムカっときましたね、叩いていいですか?」

「そういう所が失格って言ってんだよ、この頭のおかしいの」

「ほぉーう、今日のカズマは随分挑発的ですね。良いでしょう、次に死んだ時を楽しみにしていなさい」

「や、やめろよ。俺はもう死ぬような冒険なんてしないんだから。だからホトケさんをいじり回すような真似はやめろ」


 そんなことを言ったって俺のブレイブブレイドは怯まねえぞ。だから「↓チキンナイフ」とか書くなよ。

こいつが母親? 駄目だ、想像できん。

だいたい、一日一回爆裂撃ったら家事もできなくなるじゃねえか。


「はぁー……この責任感という言葉からもっとも程遠い男が父親になんてなれるのでしょうか? めありすちゃんがグレた気持ち、分からなくも無いというか……」

「なんだとこのやろ。吸わせるのにも苦労しそうな乳しやがって」

「言ったな!? ちちち、乳のことを言ったな! 戦争だぞ!」

「上等だ、テメー今日はもう爆裂撃ったかんな! 将来娘が苦労しないように、その平原を1mmでも富ませてやらあ!」


 そうして、どっすんばったんと。

めぐみんの顎を狙ったフックを捌きながら、わきわきと動かす指で寝間着の隙間を狙う。

つっても、お互いに本気じゃあない。ちょっとしたじゃれ合いみたいなもんだ。

……やっぱ、実感湧かないなぁ。そりゃ女として見れなくも無いけれど、それ以前に仲間というか。

このままだと、「おまえ」「あなた」なんて呼び合う日が来るのだろうか。

うーん、想像してちょっと怖気が走った。


「って、あだっ!」

「ふふふ、油断しましたねカズマ。爆裂魔法が無くともレベルでは私が一番上、このまま胸元に恥ずかしい呪文を書いて変なTシャツヤローに……おや」


 余計なことで気を逸らした結果、良いのを一発貰っちまった。

俺の上に馬乗りになり、サディスティックな笑みを浮かべていためぐみんが、ふと窓の外を見やる。

夜も更けた時間に一瞬空が輝くが、雨が降りそうな様子はない。

雷鳴も無いかわりに、キキィ……と遠慮がちに玄関戸が開く音がした。


「あ痛ーっ!?」


 思い切り何かがぶつかった重い音の後に、馬鹿の悲鳴が響く。

慌てて部屋のドアを開けると、こちらも慌てて出てきたのだろう、寝巻き姿のダクネスと目が合った。

俺とめぐみんが一緒に出てきたのを見て顔を真っ赤にしていたが、それは誤解だと主張したい。

まあ、あいつが帰ってきたのならそれは後だ。今は色々と話したいこともある。


「うぁぁぁ……こんなトコに鎧置いたの誰よぉぉぉ……!」


 明かりを付けたリビングには、バニルが置いて行った触手鎧に足の小指をぶつけてのたうち回る、水の女神がいた。






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「『セイクリッド・ブレイクスペル』ー――ッ!」

「わぁぁーっ! やめてくれアクア! 触手鎧なんだ、触手鎧なんだぞ!? エロ以外の用途に一切使えないながら、地味に高度な魔法技術を必要とする人類の夢なんだ! それを、それをお前は……!」

「こんな汚らわしい人類の夢があってたまりますか! この女神の身に傷を付けたこと、光の中で後悔させてやるわ!」

「わぁーっ! わぁぁーっ!」


 厳かな光の中で、蛭のようにうごめいていた触手たちがぼとぼとと床に落ちていく。

ああいうのって魔法でひっついてんだな。呪いを払うのは良いんだけど、ちゃんと床に新聞紙引いてからやってくんねーかなぁ。

アクアが放つ光が止んだ後、そこに残っていたのは新品のように輝く鎧だった。

思わずダクネスが膝から崩れ落ちる。


「カズマ、正直『もったいないな~』と思っているでしょう」

「べ、別にぃ? そんなこと無いよ?」


 ちょっと残念そうな顔をしていたのがバレたのか、めぐみんがジト目で俺を睨んだ。

いやほら、だって触手鎧だよ?

ダクネスの手前止めたけどさ、貴重と言えば貴重じゃん?

ウィズが着てる所なら是非見てみたかった。シチュエーション表にメモっておこう。



「ふー、スッキリした。いやー悪いわねー、夜中なのにすっかり起こしちゃって」

「お前に『夜中は静かにするもの』という常識があったのが驚きだけどな。ま、なんだ。おかえり、アクア」


 そう、目の前でやり遂げた顔をしているこの女こそが、騒動の中心にいる女神アクアだ。

水色を貴重とした服に青い髪。多分、彫像としては普通に美しい女神なんだろうが、動いて喋ると台無しである。

そう、未来が滅ぶとか言うのもこいつが元凶。これでやっと話が進むと思うと、自然と笑みも浮かぶ。

娘だなんだってのは、別に話の主題でもなんでもないのだ。

あくまで当事者はアクアであり、未来の俺の事は未来で悩めば良いのではないか。

というわけで、世界がどうのこうのとか言う話は全部アクアに丸投げしよう!

実に晴れやかな気分である。とか思ってたら、アクアはわざわざこっちに聞こえる声でめぐみんに耳打ちしだした。


「……ねえ、どーしたの? カズマったら今日は妙に素直で気持ち悪いんですけど。というか気味が悪いんですけど?」

「はっはっは、お前が神様やってるって事実ほどじゃねえから安心しろ」


 即座に取っ組み合いに以降する俺たちを、めぐみんが呆れた顔で見る。

ダクネスはまだ、跪いて動きを止めた触手の亡骸をめそめそと拾い集めているから無視だ、無視。

それより今はめありすの事だ。このノーテンキな女神にもさっさと状況を叩き込んでやらねば。


「ああそうだ、アクアお前、いま命を狙われてるらしいから気を付けとけよ」

「命? へえ、ついにあの汚らわしい害虫悪魔がなりふり構わずこの街を乗っ取ろうとでもしてきたのかしら。いいわ、どちらが本物のアクセルの龍か、そろそろ白黒つけてあげようじゃないの!」

「この街を裏で仕切る奥様組合と付き合い深いバニルと、迷惑しかかけていないお前じゃあ競うまでも無いと思うけどな。ゴミは分別して捨てろって、何回注意されたか覚えてるか?」

「燃えるも燃えないも一緒よ。それより起きてたんだったらご飯作って。天界あっちはお酒も出してくれないから、もう浴びるように飲みたいの!」


 しれっと勤務中に酒のもうとしてるんじゃねえよ、駄女神が。

こいつに今から未来だの時間だのがどうこうする話を理解させなきゃいけないのか。

自分ですらちゃんと理解してるか怪しいのに。


「なぁめぐみん、もうコイツこのままでも良いんじゃないかな。どうせ死んでも死なないって。俺たちはアクアを信じようぜ」

「それはただの思考放棄ですねカズマ? ダメですよ、アクアだけじゃなく、めありすだって今辛いはずなんですから」


 いやなんつーか、喉元すぎればって言うかさぁ。

話を聞いてた時はそれっぽく頷いてたけど、冷静に考えたら俺たちに何ができんだよ?

未来だのなんだのてのは神の領域だろう。

だからアクアに頑張ってもらう。当然の帰結なわけだ。


「ねえ早く! ほら早く! カエルの唐揚げの残り香がするわ。よく冷えたシャワシャワと共に神にささげなさい!」

「悪いなアクア、俺無宗教なんだ。神は死ね」

「ひっど!? お願いよカズマさん、今日はいいことが有ったから忘れないうちに祝杯を上げたいんだってば!」

「いいことぉ?」


 なんだ、小銭でも拾ったのか?

どうせ大したことじゃ無いんだろうけど、聞かなきゃ聞かないでまたうるさいからな。


「ん、何? 聞きたい? 聞きたいの?」

「まぁ、聞いといてやるよ。何が有ったんだ?」

「教えてあーげないっ♪」



「ひゃずまぁぁぁ! ほめんなひゃいはずまぁぁぁ! はじゅまひゃあああん!」

「めぐみん、ちょっとバイパー酒持ってきてくれ。去年アクアが思いつきで漬け始めて、結果臭くて飲めたもんじゃ無かった奴。望み通り処理させてやろう」

「それは構いませんが、女の人の舌を引きずり出して釣り上げてる図って多分カズマが思ってるより相当キテますよ。街の人にドン引きされたくなかったら、あまり町中でやらないほうが良いと思います」

「カズマ……カズマはやっぱり凄いな! 私では考えも付かないような責め苦をよく思いつくものだ……。な、なぁ、それ私にも少しやってみてくれないか……?」

「ほら、ダクネスが食いつきました」


 なるほど分かった。この技は人の居る所では禁止にしよう。

舌をつまんでいた指を離してやると、アクアは大きく尻餅をついた。

ったく、くだらないことを言うからだ。


「そんで? 今度は何やらかしてきたんだよ。怒るから正直に言ってみろ」

「どうして!? 良いことがあったって言ってるのにどうしてやらかしてきた前提なの!? 私だって平穏に褒められてくることだってあるわよ! むしろカズマさんこそ私をもっと褒め称えるべきなんじゃないの!?」

「残念ながら、この先お前がやらかす未来でほぼ確定しつつあるんだよ。あんまり時間も無いんだしキリキリ話せ。じゃなけりゃ、今度はペンチで掴むことになるぞ」

「はぁーい……」


 本当はもう少し派手に自慢するつもりだったのだろう。

アクアは渋々といった様子で頷くと、ソファーの上にどっかりと腰を下ろす。


「ほら私ってさ、転生させる時にずーっとマニュアル対応でやってたら、ヒキニートの逆恨みを買って大変なことになったじゃない? それでちょっとは反省して、転生前の人の話を親身に聞いてあげるようにしてたのよ」

「ほう、そんで?」

「そしたら前より時間がかかるようになったけど、満足度が評価されたわけ! 久々にエリスより査定が上だったのよ! というわけで今日からこの世界のお金の単位はアクアになるから。そしたら私、ガンガンお金刷って大金持ちになるの!」


 そうか、インフレって概念知ってるかお前。

本当にこの知能でどうしてこいつ神様クビになって無いんだろう。査定まであるのに。

アクアでさえ解雇されないのなら、俺もそんな組織に入りたかった。


「転生者なぁ……。でも魔王は倒したんだろ? それでもまだ転生させる必要ってあるものなのかね」

「はぁ? 何言ってんのよカズマ、日本人も少しずつ転生させていかないと、アクシズ教徒の子たちを日本に入れてあげられないじゃない。そんなことも分からないの? 馬鹿なの?」


 馬鹿に馬鹿と言われるこの屈辱。

んなこと言われても俺が天界のルールなんぞ知るわけが無いだろう、この馬鹿。


「いい? いくらカズマでもこの世界の人間を日本に連れてったりしちゃダメなのよ? そういうの、勝手にやったら凄く怒られるんだからね」

「なるほど、怒られたんだな?」

「ま、まぁチートでも無いと住み慣れた所から動きたく無いって人多いし! 特に地球は、やっぱりこっちと比べると豊かだし。一応私たちも、カズマみたいに未練なんて無いさーってダメ人間を見繕って声掛けてるわけですけど……」

「そんなだからロクでもない成果しか上げてないんじゃないか? 転生者って」


 わざわざダメな奴を見繕ってんのかよ……でもまぁ、そりゃそうか。

天界も意外としがらみが有るんだな。魂のバランスとか実にそれっぽい単語だ。

アクアがそんな細かい話まで理解してるわけが無いから、勝手な想像だけども。


「まぁその話はこの辺でいいだろう。それよりアクアの話を聞かせてくれないか」

「おっとそうだな。しばらく留守にしてたのは、新しい日本人を転生させるためだったのか?」

「ええそうよ! 今日送ってあげたのは、本当にいい娘だったわ! ちょっと人見知りするけど、どっかのカズマさんと違って人を罵ったりしないし、どっかのカズマさんと違ってお礼もちゃんと言えるし……生い立ちも……ぐすっ、随分可哀想な子でねぇ……!」

「おい、急に涙ぐむのやめろよ。怒鳴るに怒鳴れないだろ」


 相変わらず喜怒哀楽が激しい奴である。

その辺が、女神としての気安さとかに繋がってるのかもしれないが。


「早いうちに親御さんが亡くなっちゃって、家を乗っ取った親戚に天井裏に押し込められてたみたいなのよ。テレビも漫画も無いから友達もできないし、音も立てられないから家の柱に生えるキノコを眺めるのが唯一の趣味だったんですって! 『こんなに人と話が出来たのは久しぶり』なーんて言われちゃったりして、いやー、こういうことがあると女神してて良かったーって思うわねー」

「へーぇ、今の日本でもまだそういう話って有るんだなー……」


 まるで童話のシンデレラみたいだ。

まあ、魔法使いに会う前に死んじまった訳だが。そう思うと確かに可哀想な話だ。

丸っきり無駄死にだった上に死後も爆笑された俺と、どっちがマシだろうか。優劣がつくような話でも無いんだけどさ。

……いや、ちょっと待て。キノコ?


「なあ……ちなみにそいつは、どんなチートを貰って行ったんだ」

「そりゃーもちろん、女神としては本人の希望を最大限叶えて――」


 ああ、この笑顔。「自分は良いことした」と微塵も疑ってない顔だ。

我が娘よ、お前は間違っちゃ居なかった。どうやらこの水の女神は、常に何かしらやらかさなきゃ収まらない星の下に生まれているらしい。



「――『森のキノコとお友達になれるイヤリング』って奴よ!」

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