この黄昏の出会いに祝福を!

はまち矢

1章:一番散らかした奴ほど片付けに来ない

第1話:名乗れ! 謎めく襲撃者


 夕暮れの日差しがすっかりと秋めいてきたある日。

わずかに草の匂いが混じった草原の風もまた、少し肌寒いくらいである。

アークウィザードとクルセイダー、そして冒険者の3人パーティである俺たちは、その日、そこそこの量を仕留めたジャイアント・トードの死体を引きずりながら歩いていた。


「大漁ですね、カズマ。さすがに今更、カエル相手にヒーヒー言うことはありませんか」


 マナタイト製の杖を誇らしげに掲げながら、俺の隣で嬉しそうに話しかけてくるのはめぐみん。

生まれつき高い魔力を持つ紅魔族という一族の少女で、爆裂魔法をこよなく愛する頭のおかしいアークウィザードだ。

なんだかんだ結構な期間の付き合いになるが、悲しいかなその体躯は出会った時からほとんど成長を見せていない。


「そうだな。遠距離では狙撃、中距離では中級魔法、そして近距離ではドレインタッチにバインド……ふと気付けば、カズマの戦闘力もすっかり頼もしいと言えるレベルになっていたのだな」


 巨大カエルを引きずりながら、しみじみと頷く金髪の女はダクネス。

仮にも聖職者の一員でありながら「囲んで棒で叩かれたい」という不純な動機でクルセイダーになった変態だが、これで実はララティーナお嬢様として大貴族の娘なんだから分からんもんだ。


「当たり前だろ。あのな、俺たち一応魔王を倒したパーティなんだぞ? いくらなんでもカエルに飲み込まれていた頃と比べれば、そりゃレベルも違えよ」


 そして俺、魔王を倒した男こと佐藤カズマ。

あと本来ならここにもう一人、アホの女神ことアークプリーストのアクアが居るんだが、あいにくと今は不在である。

実際、「魔王を倒すためにチートをもらって転生しなさーい」なんて言われた時は名目上のものとしか考えてなかったのに、気付けば今や魔王討伐の英雄なんだから不思議なもんだ。

チートの代わりに嫌がらせ目的であのダメ女神をもらっちまった時は心底後悔したもんだが……俺は今も、なんだかんだこの異世界で生き続けている。

もっとも、魔王討伐からもうしばらく経つ。さすがの雄名も、騒がしいアクセルの街じゃだいぶ新鮮さが薄れつつあった。


「ま、ここにアクアが居たら何故か今も粘液まみれになっていそうな気がするのが、アイツの恐ろしいところだけどな」


 すっかり暮れてきた夕日に、ぬらぬらと照りを返すカエルの死体。

かつて奴らの胃袋に収まりかけた時の事を思い出し、俺は思わずため息を吐いた。


「しかし珍しいな、カズマが自分から冒険者稼業に勤しむなんて。いや、素晴らしい心がけだとは思うのだが……」

「ああ、こいつらが湧いて出てくる季節なんだなーと思ったら、ふとこっちに来たばかりの頃に食べたカエルの唐揚げが懐かしくなってな。危険も少ない相手だし、たまにはこういうのも良いだろ」

「私としては、爆裂を受けるに足る相手が居ないのが不満ですけどね。今やこんな雑魚モンスター1体相手に爆裂魔法をぶちかましたところで、私の爆裂欲は満足しません。どうせならもっとこう……100匹くらいまとめて蠢いているポイントがありはしないでしょうか?」

「やめてやれ、初心者冒険者の奴らも居るんだから」


 人が折角カエル肉の味を思い返してんだから、気色悪い光景を幻視させるんじゃねえよ。

『敵感知』で視界の端から湧いて出てくるジャイアント・トードを見つけ、手早く『狙撃』。

脳天に矢が直撃したカエルが、そのまま脚を痙攣させながらひっくり返った。

うむ、ダクネスじゃないが、こうしてみると俺もなかなか強くなったじゃないか。

やっぱ成長を実感するのは楽しいなぁ。家でゴロゴロしてるだけで強くなってたらもっと良いのに。


「うう、しかしこれではヌルヌルに包まれる暇も無い……」

「やらせねえからな。仮に飲み込まれたとしても、助けてやんねーぞ」


 さっきから荷物運びでしか活躍していないダクネスが、短く残念そうに息を吐いた。

とはいえ、これだけ倒せば報酬でカエル料理をたらふく食う分には充分だろう。何匹かの肉は売っぱらって、その金でボトルを開けてもいい。

めぐみんがまだ爆裂してないのは街に戻る前のどっかで済ませさせるとして、後はダクネスが突然鎧を脱ぎだしてカエルに走りだして行かないかも注意せにゃならんのか。

……つい魔が差して冒険に誘い出されたが、やっぱ家に引きこもってるのが一番だな。これから冬にもなるし、もうちょい食材を買い込んどこう。


「それにしても、今回のアクアは中々帰ってきませんねー。キャベツの収穫には間に合えば良いんですが……」

「役目をほったらかしてフラフラ遊んでたせいで、仕事が溜まってんだろ? アイツはもう、本来地上に降り立つ用事なんか無いはずなんだからな」


 魔王が倒された時、アクアもまた本来の居場所である天界に帰れる。俺がチート代わりにアクアを指名した時は、そういう約束だったのだ。

まぁ、もう既に魔王は討伐したはずなのに、なんでかまだ家の回復役兼居候ポジに収まってるけどな。それでも、こうして年に何回か女神としての仕事に駆り出される事はある。

どうせまた、連絡もせずにひょっこりと帰ってくるに違いない。そんないちいち、ギャーギャー騒ぐようなことでもないだろう。


「もう。カズマったらすぐアクアにはそーいうこと言うんですから」


 俺が返した答えが不満だったのだろう。めぐみんが口をとがらせ、俺の目を覗き込んで――




「二人とも、危ないッ!」




 俺とめぐみんを合わせて突き飛ばしたダクネスの胸元で、炎がはじけた。






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「な……なんだ!? 敵か!? またぞろ何か、アクアが余計な事をしでかしたのか!」

「いや、流石にこの場に居ない彼女を疑うのは可哀想では……ひゃんっ!? ちょ、ちょっとカズマどこを触っているのですか!」


 同時に突き飛ばされたせいで俺に押し倒された形になっためぐみんが、顔を赤く染めて呻き声を上げた。

だが正直、俺に感触を楽しんでいる暇は無い。

ダクネスが懸命にカバーしてくれちゃ居るが、さっきから鎧にドンガドンガ炎弾がぶち当たってる音が響いてるんだ。


「うるせー、わざとじゃねーよ! と言うか俺も状況が分かってねーんだ! どこ触ってるのか知らないけど、どうせ二の腕かなんかだろ!?」

「に、二の腕!? この感触が二の腕だと!? よく確かめてみなさい、これが本当に二の腕の感触ですか!?」

「おいコラ二人とも、私の後ろでイチャつかないでくれ! めぐみん、カズマ、私の影から絶対に出るなよ!」


 ああ、頼まれたってんな事したくない。

爆裂魔法の直撃にだって一発なら耐えるダクネスがこの調子なんだぞ?

俺たちのHPじゃ、一瞬で穴あきチーズになる未来が見える。


 と、ダクネスの陰でもチリチリと肌を焼く熱せられた風に、身を切るように冷たいものが混じり始めた。

その相互作用か、周囲に水蒸気がもうもうと立ち込め始め、あっという間に俺たちの視界を奪う。

心なしか、ダクネスの鎧に当たって響く音もテンポが上がってきているような……?


「ん、くぅ……っ。久々に感じる、骨まで響く良い責めだ……! はぁ……っ、こ、腰が……砕けてしまいそうだ……!」

「お前ふざけんじゃねえぞ! 発情しても良いがそれで全滅とか洒落にならないんだからな!? ほら『ヒール』! 『ヒール』! しかしどうすんだ、このままじゃジリ貧だぞ?」

「カズマ、そう言いながら先程から手にしっかりとフィットさせているのはなんなんですか? もしかして、人生最後のお楽しみとかそういうノリですか?」


 ああもーうっせー! 俺だってどうせ揉むならダクネスくらい大きいのが良かったよ!

クソッ、久々にふとカエルが食いたくなっただけなのにどうしてこんな思いしてんだ俺は!?

分かった! それが世界の選択だってんなら俺はもう春まで家からでねーかんな!

もう絶対サキュバスの姉ちゃんたちに会いに行く時しか外出しねーかんな!


「カズマぁー! あなた今絶対ロクでも無いことを考えましたね!? おい聞こうじゃないか、私の身体の性徴に不満があるなら聞こうじゃないか!」

「やめろ、コラ、暴れるな! はみ出るだろ! はみ出たところから色々なものがはみ出るだろ!?」

「あぁぁもう庇われてる時くらい大人しくしててくれぇぇ……」


 必死に壁役の任を果たしているダクネスが心底切なそうな声を出すので、俺たちも少し反省することにしました。


 しかしいったい何なんだこの攻撃は。魔法かと思ったが、こんな弾速で飛んでくる『ファイアーボール』は見たことが無い。

そもそも氷魔法はこんな風に収束して飛んでくるもんじゃないし、この状況でもまだ、俺の『敵感知』に引っ掛かりすらしてないんだぞ……?


「……カズマ、そのままゆっくりと聞いて下さい」


 すると、俺の下にいるめぐみんが神妙な声でそんな事を言い出した。


「この攻撃、手段までは分かりませんが、恐らく一直線に飛んできているものと思われます。それとダクネスが庇っている方向、周囲の地形を含めて逆算すれば、ある程度は敵の位置を割り出すことができます」

「……マジか。お前そんなに頭良かったのか?」

「あのですねカズマ。私は職業中最高の知力を持つアークウィザードで……ああもう良いです。とにかく、先程見かけた一本杉の生えている丘が怪しい。『千里眼』でなら見えませんか?」


 ……丘なら、見える。水蒸気で白くもやがかかっちゃ居るが、俺の『千里眼』スキルにかかれば見通すくらい簡単だ。温泉でだって謎の湯気に邪魔されることは無いだろう。

だが、あそこに陣取ってるとなると正直逆光が厳しい。

真っ赤な太陽が、ドンピシャの位置で沈もうとしているからだ。


「恐らく、潜伏スキルと狙撃スキルを併用して居るのでしょう。このペースで攻撃を続けながら潜伏を続けるのに、どれほどの熟練が必要かは分かりませんが……ですが、カズマならそうと意識すれば感知できるはずです」

「言ってくれるよ……わかった。どっちにしろこのままじゃ打つ手が無い」


 もし本当に一本杉の下に居るのなら、ギリギリで『狙撃』も届く筈だ。

俺はダクネスの後ろで体勢を整えながら、そっと丘の周囲に敵感知する範囲を絞り込む。すると……


「居た。確かにこうして意識すれば、『敵感知』にビンビンきてるわ。くっそ、好き放題撃ちやがって……こっちからは狙いが付けづらいってのに」

「なに、当たらないなら当たらないで構わないさ。こっちが気付いたことが分かれば、向こうも好き放題とは行かないはずだ」


 ええいダクネスの奴め、発情さえしなければ頼もしい盾なのに。

仁王立ちしているダクネスの脇から、俺はクロスボウをつがえて撃つ。

運の良さのお陰か、上手いこと炎弾と氷弾の合間をくぐり抜け、ボルトは一本杉の根本めがけて飛んで行く……!




「……『ウィンド・ブレス』」




 その時。

飛来する矢を掠めるようにして、一本杉の下から「何か」が飛び立った。

飛び立つ何かは、吹き抜ける強い風を受けるようにマントをはためかせ……ひとっ飛びに、俺たちの方へたどり着く。

結構な高さから飛び降りたというのに、軽業のような危なげない着地。

急に目の前まで近づいたそいつに、警戒も露わに俺たちが構え、


「……バニル?」


 ふと俺が漏らしたその一言が、そいつの顔半分を覆う仮面の特徴を良く表していた。


「いや、違うか。あいつはこんな、闇討ちじみた真似はしない。やるにしてももっと派手な方法を選ぶはずだ」

「……そうだろうな。これは以前、彼から出店の屋台で買ったものだ」


 何してんだあいつ。そしてシリアスな口調で何言ってんだこの子。

想像に反して、俺たちの前に表したその姿は随分と小柄だった。それこそ、今のめぐみんより少し小さいくらい。

ついでに声も高い。マントと仮面に隠れた姿からはいまいち全体像が掴めないが、子供で有ることは間違いないだろう。


「いったい何のつもりだ。今の出来事、子供のいたずらと笑い飛ばすには少し度が過ぎていたぞ」


 少なくとも、即座に追撃を仕掛けてくるつもりは無いと見えたのだろう。

わずかに緊張を緩めたダクネスが、赤ら顔で息を荒げながら問いただした。

……ほんと、これで痴女じゃなければ完璧なクルセイダーなのにな。

さすがに、子供に対してまでエロ同人みたいな妄想を繰り広げはしないみたいだが。


「元よりそのつもりも無い。……女神アクアはどうした?」

「アクア? ホラ見ろめぐみん、やっぱりアクアの仕業だったじゃねーか」

「ここぞとばかりに鬼の首を取ったような顔をしないでくださいカズマ。それに、私たちが正体も知れぬ相手に仲間の情報を売り渡すとでも?」


 こちらも、眉の角度を釣り上げためぐみんがゆらゆらとマナタイトの杖を揺らしながら威嚇する。

それに合わせるかのように、相手のマントの端から鈍色の銃口が二つ伸び、油断なく俺たちに照準を合わせた。

恐らく、さっきの弾もあのライフルもどきから打ち出していたんだろう。

しかし、俺はアレをどっかで見た気がするんだが……?


「……なるほど、女神は不在か」

「なっ!」

「カマかけだ。だが、阿呆ならば見つかった。……ふん、無駄足か。仲間につっかければ慌てて出てくるかとも思ったが……これは、少々時期を逸したか?」

「こ、この子供……」


 顔色を変えためぐみんからアッサリと情報を抜き出すと、そいつは一方的に会話を打ち切り、踵を返して俺たちに背を向けた。

まるで、これ以上付き合ってる暇は無いと言わんばかりに。

めぐみんの額に、わずかに青筋が浮かぶ。


「ま、待ちなさい! あなたは何者なのですか! アクアをいったいどうするつもりだと!?」

「……人に名前を尋ねる時は、自分から名乗るのが礼儀だと私の親は言っていたが……」

「む……我が名はめぐみん! 紅魔族随一の魔法の使い手にして、爆裂魔法を極めし者!」

「ああ、そうだな。知っている」

「……」

「やめろめぐみん! 先程私に傷をつけていた攻撃を見ただろう!? さすがに、杖で殴りかかって無事で済む相手じゃない!」


 体よくあしらわれ、杖を振り上げて襲いかかろうとするめぐみんを慌ててダクネスが押さえつけた。

それにしても、見事な煽りっぷりだな。めぐみんもこれで結構頭の回転が早く、屁理屈・詭弁なんでもござれで相手を言い負かしにかかるので舌戦には強いんだが。

それをああも一方的にあしらえる存在など、アクセルの街にも片手の指ほどしか居ない。


「……なぜだろう。この人をおちょくるような会話法を、私は良く知っている気がするんだが……」

「そりゃ酷い奴も居たもんだな。友人は選べよ、ララティーナ」


 なぜかこめかみに手を当てて頭を俯かせるダクネスを、俺は肩に手をおいて慰めた。


「ま、いいや。帰るって言うならホラ、とっとと行けよ。こっちは早くカエルの唐揚げに齧り付きたいんだ」

「カズマ!」

「言っちゃなんだが、アクアの居ない状況で無理したくない。あいつに用があるってんなら、どうせまた会うだろ」


 なんせ、こちとら家も資産もまだたんまり残っているのである。

どうせ死ぬなら使いきってから死にたいし、何より童貞のまま死にたくはない。

真正面から相手するにはどうもやばそうな相手なので、帰ってくれるって言うならそれに越したことは無いという判断である。


「……頼まれずともそうする故。さらばです」


 未だ不満そうに唸るめぐみんはさておき、その子供はさっさと俺たちに背を向けて歩き出す。

赤い夕日を逆光に。長く伸びた影法師が、俺たちから名残惜しく離れていく。

そうしてしばらく離れたところで、俺はダクネスへ声をかけた。


「よし、この辺なら良いだろ。ほらダクネス、いい加減めぐみんを離してやれ」

「あ、ああ、分かった。……めぐみん、頼むから変な気を起こすなよ? 人を目標に爆裂魔法を放つとか、いくら私でも訴えられたら弁護しようが無いからな?」

「分かっています。私の今までの積み重ねを信じてくださいよ。心配する理由がどこにありますか?」

「今までの積み重ねが『頭のおかしい爆裂娘』だから心配しているんだが……まぁ、そうだな。そこまで人の心を失っていないよな。疑って悪かった、どうか許してほし」


「『エクスプロージョン』――ッ!!」


 閃光と爆風、そして轟音を撒き散らして、めぐみんの放った爆裂魔法が仮面の子供の直上で炸裂した。

思わず真顔となったダクネスが、めぐみんの胸ぐらを掴み上げる。


「ちょっと、痛いですよダクネス。仕方ないじゃないですか、紅魔族には売られた喧嘩は必ず買わねばならない決まりがあるんです」

「お前は、カズマに、似た――ッ!!」

「おいちょっと待て、そりゃどういう意味だ」

「どうもこうも、そのままの意味だッ! いくら正当防衛だとしても、わた、私は、信頼する仲間が、人の子を殺すところなんて――ッ」


 あまりの衝撃に瞳孔を開いたまま涙ぐんだダクネスが、膝から地面に崩れ落ちた。

その落ち込みっぷりがあまりにもアレなもんだから、さすがのめぐみんも悪いと思ったのだろう。

ダクネスの背中をさすりながら、必死に慰めの声をかける。


「だ、大丈夫ですよダクネス。初対面の相手にあんな手荒い方法を取る奴ですよ? どうせまた、子供のふりをした悪魔とかに決まってます。うん、きっとそうです」

「ま、只者じゃ無かったのは確かだしな。どうせもう確かめようも無いんだ。そうだったことにして、心の安定を保とうぜ」

「お、ま、え、らぁ……!」


 しかしどうしてなんだろう、ダクネスが泣き止まないんだ。




「なるほど、この容赦の無さ。これが我がオリジナルの爆裂魔法か」




 そうやって、どうにかダクネスを立ち上がらせようと四苦八苦する俺たちに向かい……声が、届いた。


「……そんな、直撃したはずでは!?」

「爆裂魔法は確かに人類最強の攻撃手段だ。その威力、範囲、全てにおいて。……オリジナル、あなたの放つ『エクスプロージョン』は、個人が放てる火力として間違いなくハイエンドだろう」


 爆風が晴れるにつれ、俺たちにも状況が分かり始めた。

爆裂の余波によって大地が荒れ、草が燃え……その中心に、まるでかの有名なラスト・ショットに似た構図で、鈍色の銃口を真上に掲げたシルエットが現れる。

被害が及ぶ範囲から、まるで繰り抜かれたかのようにその一円だけが無事で、足元に咲く花までもが無傷。

唯一、衝撃でずり落ちたらしきバニル仮面が、足元に転がって音を立てる。


「だが、それ故に。その攻撃範囲が広大であるが故に――同じ爆裂魔法を収束して放つことで、衝撃波にヒト一人分の風穴を開けるくらいならば……どうにか、不可能では無い」


 ……そうか。どこかで見たことあるとは思ったが、あの二丁のライフル、紅魔族の里にあったレールガン(仮)に似てるのか。

機動要塞デストロイヤーを作り上げるようなチート科学者が、片手間で製作した紅魔族用必殺兵器。

魔王軍の幹部の一人にとどめを刺し、平時は里で物干し竿として使われていたアレよりは、だいぶ短いが。


「名づけて、『エクスプロード・ブレイカー』。『エクスプロージョン』を避けるためだけに生まれた、我が奥義だ」

「そ、んな……私の、必殺魔法が……」


 だがどのような理由であれ、めぐみんにとってはショックの方が大きいだろう。

こいつにとっちゃ人生を捧げた爆裂魔法だ。自分より年下に破られたとあっちゃ、プライドも傷つく。

三つ編みを垂らした長い髪を翻し、ついにそいつが振り返る。

その顔つきを見ためぐみんが、重ねてショックに打ちのめされる。


「あえて名乗ろう。我が名はめありす! 最後の紅魔族にして、魔銃オルトロスを従えし者!」


 強い意志の込められた瞳は、紅魔族特有の赤色を輝かせ、


「そして、女神アクアを屠るものだ……ッ!」


 沈んでゆく夕日に照らされた素顔は、呆然とするめぐみんにとても良く似ていた。

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