波乱万丈な体育祭~狙われる騎馬戦~

「───そういや高橋妹、参加してるか? 」


馬上からなんとなく。


「高橋なら、ほらあそこだよ」


譲の顎の向く方。

チアリーディング組。その中に混ざっていた。


「───────!! 」


取り巻きどもが騒いでいるようだけど、遠くて聞き取れない。

聞きたいとも思わねぇけどな。

周りのチア女子が避けている所を見ると、高橋妹を崇めてるんだろ。

迷惑な話だ。あ、教師どもが連れに来たな。

必死に抵抗しながら何事かを叫んでる。

「まみる様ー! 」とでも言ってんだろ。

あれじゃどっちが応援してるのか分かったもんじゃねぇ。


「精々、俺たちの参加出来ない種目の穴埋めを全うしやがれ───とか言いたいんだろ?


隆一がケタケタ笑う。


「それしかねぇだろ。ヤル気ねぇんだし」

「まぁまぁ。あ、玉入れ終わったみたいだよ」

「どうせ楠木のスタンドプレイ勝ちだろぉ? 」

「へ? 」

「確かに……うちのクラスが圧倒的な玉数っぽいね」

「見た目が派手で口は悪ぃがコントロールはピカイチ。アイツ、ああ見えてすげぇのよ」


観察眼パねぇとは分かってたけど、どんだけ周りみてんだろ。


「……悪いやつじゃねぇって思ってはいたけど」

「知らねぇのかよ。うちの1組は何かしら秀でたもんの集まりだぜ? 」


何その超〇校級的なやつ。


「中でも軍を抜いてすげぇのが優多なんだぜ? 」

「何もすごいこたねぇよ」

「知ってるか、譲よぅ? 」

「なに? 」

「頭脳明晰、スポーツ万能。そんなん2次元しか存在しねぇくらい希少じゃん? ……この顔で柔道黒帯努力型、あげたらキリがねぇや」


文字にするほどでもない。過剰評価すんなよ。……親友に褒められて嬉しくないわけじゃねぇけど。


くっちゃべりながら、俺たちは戦場の真っ只中に置かれていた。

広いグラウンドに描かれたラインが、まるで競馬の出発ゲートのように立ち並ぶ。

開始のホイッスルをききながらも、ゆっくりと一歩踏み出す。

移動する必要はなかった。

一年から三年の他クラスが、に集中攻撃を仕掛けているから。

低い砂埃を舞いあげ、真っ直ぐに。

合計9クラス、27人が一斉に。

速さで敵わないなら数の暴力で、そんな短絡思考に出たらしい。

隆一が軌道確保し、譲が合わせる。

俺がタイミングよくカラフルなハチマキを奪っていく。

一組、一組と俺たちの前に陥落して行った。

俺たちに気を取られているヤツらの一部が、二年と三年の一組に狩られていく。

行き当たりばったりで芸がない。

次は何の種目で仕掛けて来るか楽しみにしておこうか。

だけど、この短時間で狙いに来るだけ考えたよな。

そもそも手放しの臨戦態勢の俺によく向かってきたと褒めてやらないと──。


……俺は我に返る。

目の前には向かってきたヤツらが、勢い余って盛大にグラウンドに伸びていた。

お互い熱が入りすぎたらしい。

イベントって、言葉にできない高揚感を感じちまうよな。

飲まれないようにしねぇと。


「優多! まだ一年の四組が残ってる! 」


ボスみたいに対峙する、騎馬戦が一対。


「隆一、決着つけるんだろ。逆になるか? 」

「いや、このままでいい。──俺じゃ絵面が悪い! 」


ちょっと落ちそうになったじゃねぇか!


「眞木ぃぃぃぃイイ! 」

「畔上ぉぉぉぉオオ! 」


宿命の戦いのような空気を醸す。

親友のためだ。ノッてやりますか。


「かわい子ちゃ~ん! 結構やるみたいだけどここまでだよ! 」


バチンとウインクしてきた馬下のヤツ

一瞬で親友のためと思ったことを撤回した。


「ふっざけじゃねえぇぇぇぇ! クソがァァァァァ!! 」

「「あ、キレた」」


笑いながら二人は、俺を抱えて走り出した。


「おい?! 」

「優多は前向いてろ。ぶちのめしてやろうぜー」

「そうそう、倒して謝らせればいいさ」

「……確かにそうだな。目に物言わせてやる! 」


次第に距離が縮まり、ふざけたやろうの面が眼前に迫る。勝負は一瞬。


「───残念だったなぁ?! 俺は男なんだよ! 」


取ったハチマキをクルクル今日に回しながら、嫌味っぽくあざけ笑ってやった。

ショックからか、取られた状態で固まる三人。


「うわっ! いてぇ!」


畔上が落とされる。綺麗に顔面衝突した。

抗議しようと振り向く。


「男なんて……不公平だー! 」


謝らせる前にふざけたヤツは頭を抱え、二人を置いて去っていった。


「───マジかよ」


拍子抜けするしかない。

マジで逃げやがったよ。

こっちが叫びてぇよ!

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