23話 戦鬼の血潮
『皿頭は全滅させましたが、まだ兵隊蟻が700強残っています』
『救援の目処は?』
『――不明です』
咄嗟の事とは言え、我ながら馬鹿な事をした。
『――っ』
目の前はどこもかしこも蟻だらけだ。
前も蟻、右も蟻、左も蟻、後ろも蟻。動くのを止めれば直ぐに噛み砕かれる。
高速でホバー移動をして撃ち続けている筈なのに、視野の景色には変化が見られない。
それでもREC21の弾丸を撃ち尽くせば僅かな隙間が生まれた。
その隙間を空になったマガジンを交換しながら押し進み、蟻の海を掻き分ける。
最後の救命艇が飛び立った場所へ近づくと、目的の物が視野に映る。
みんなが置いていった武器を見つけ、ホバーの勢いを殺さず一丁のREC21を空いてる右手で拾い上げて、左右二丁のREC21構ええながら振り向いた。
予想通り、兵隊蟻が大顎を広げて俺を切断しようとしている。
左右の銃火が瞬き、カウンターとなって蟻達をミンチにしていく。
困った事に目の前の蟻を幾ら撃ち殺しても背景の蟻が目の前に出て来るだけで、光景が変わり映えしない。
正真正銘の蟻地獄だ。
蟻は怯む事無く迫ってくる。
リロードを諦め、落ちていた他の武器を拾い上げて直ぐに攻撃を開始した。
拾い上げた武器はBB-12。きっとユーリー隊長の物だ。
BB-12を四方八方にばら撒き、近づいて来る蟻の頭部に円形の欠損を次々と作っていく。
弾が尽きたので潔く捨て、即座に移動を再開した。
ついでにベニーを襲うとしていた兵隊蟻の死骸から突き刺したままのマチェット二丁を回収し、両手に持つ。
『マリー! 武器の場所を教えてくれ!!』
『了解ヤー 情報を送ります』
マリーが『オーガ』の視野に武器の位置を円形のサインと距離で表示してくれる。
俺が進路方向を変ると、正面から新手の兵隊蟻が2匹来る。
大振りの体の動きを落ち着いて避け、ついでに2匹の節足の節をマチェットで薙いだ。
体のバランスを歪に崩した図体が倒れ、もがく様を横切る。
「ガガガ」
「ギイイ」
『これに懲りたら痩せろ』
何はともあれ、武器を目指さなければ。
マリーの通信が視野に出現した。
『――コウタロウ、提案があります』
『遺言なら前もって書かされているから必要無いぞ!』
『貴方を今から録画してもよろしいでしょうか?』
『好きにしてくれ。ここにいる君は自由だ』
『
蟻地獄の海をマチェットで切り裂きながら目標地点へ向う。
1匹、2匹、3匹と、切り裂く兵隊蟻の数が増えるごとにマチェットの切れ味が落ちて行くのに焦りを覚える。
目的地に辿り着くと、そこは格納庫でヘリや銃器と操縦者がいなくなったパワードスーツが整列した状態で脱出から置いてきぼりにされていた。
思わず笑みを浮かべ、急いで後ろから迫っていた兵隊蟻の大群に刃が欠けたマチェットを二丁とも投げ打った。
1匹減ったのを確認する間もなく、手近にあったREC21二丁をとっさに掴んで蟻の海へと攻撃を再開する。
『おおおらああああああ!』
両手一杯に広がる銃の反動とマズルフラッシュが俺にアドレナリンの快感を与える。
ばら撒く弾丸が兵隊蟻を次々に穿ち潰していくが、それでも少しずつ、兵隊蟻は追い詰めてくる。
マガジンが空になれば直ぐに手近な銃器を拾い、再び赤錆の海へと射撃していく。
拾った銃器の種類に応じて兵隊蟻の体が破壊されていき、また新しい兵隊蟻が前へでる。それを延々と繰り返し、気づけば格納庫の中ほどにまで俺は引き下がっていた。
格納庫の広さもあって、左右に展開している蟻の勢いを殺しきれない。
『コウタロウ、先程もそうでしたが、兵隊蟻の動きに統率が――』
『だよなあ……クソ、火力のある武器は――あった!!』
後ろに整列されていた武器の中で、異彩を放つその武器を両手で掴み、その場で陣取るように置いた。
――火炎放射器だ。
燃料がたっぷりと詰まったタンクからホースを取り外し、兵隊蟻に向って行く手を阻む為に左右に振りながら眩い白熱が、ぼっと音を立てて勢い良く噴射した。
白熱の炎が兵隊蟻の身を焼き焦がしながら行く手を塞いでくれた。
臭いが『オーガ』の中からでも伝わってきそうな勢いで炎をばら撒き続ける。
兵隊蟻の悲鳴を他所に格納庫の際奥にあるヘリに目を向ける。
いっその事、ナパーム弾を格納庫内部で爆発させてやろうか。
『コウタロウ、後ろから来ます』
『は――?』
マリーに聞き返えそうとするより速く、ヘリが格納されていた最奥の格納庫の壁が前触れも無く破砕された。
壁が破壊の威力を示す為に、瓦礫と白煙になり舞う砂埃を伴い大きく揺らめいた。
破壊の主の正体に気づくと身を咄嗟に左に捻る。
一呼吸の間も無く、白煙を切り裂きながら、兵隊蟻の大顎が鋭い金属音を打ち鳴らした。
もう少しゆっくりしてたら間違い無く目の前の顎に捕まっていた。
『あっぶ――』
――ねえ。そう言おうとした矢先、回避したばかりの大顎が閉じたまま横にスイングする。
自分の体が金属音を伴いながら殴打され、狂った重心移動も重なり格納庫のどこかに衝突した。
ユズキ・フジムラは何時も通りのほどほどに刺激的な業務を今日は珍しく、定時通りに切り上げた。
作業用の宇宙服から仕事着に着替える為に更衣室へ向かう途中、休憩用のスペースが設けられている廊下を横切った。
すると、普段より人だかりが普段よりも多い事に気づいた。
何事かと気にはしたが、今はヒナを独りにしたくないので、帰りを急ごうとする。
すると、ユズキに気づいた同僚が彼女に声をかけた。
「あれ、ユズキさん、今日は定時なのかい?」
「ええ、今日からしばらくはその積りです。あ、現場監督には言ってますよ」
「そうなのかい……っと、悪い! そう言えばコウタロウ君、今大変なんだったよな」
急にばつが悪そうにする同僚にユズキは朗らかに笑う。
「コウタロウの方はそんなに心配してないんです。あの子、旦那そっくりで――私が心配なのは妹のヒナなんですよ、あの子はお兄ちゃん子だから」
「泣かせるねえ……あ、そうだそうだ! そのコウタロウ君に直接関係してるかどうか解らんけど、今テレビが大変なんだよ!! どれも同じ映像ばっかでさ!?」
「あら、そうなんですか?」
同僚に誘われ、ユズキはテレビの人だかりに混じる。
一番手前でテレビに食いついていた初老の男性が不鮮明な荒れた映像に向かって呟く。
「鬼が暴れてらあ」
――どうやら、廃材置き場に吹き飛ばされたらしい。
『オーガ』から表示される映像には廃材の山にのめり込んでいる己が映る。
兵隊蟻の大群が、動けない俺を見下ろしていた。
破壊された格納庫の壁と、出入り口のシャッターから夕日を浴びながら近づいてくる。
――死神みたいだ。
「ギギギ」
『……動けねえ……』
――ここまでか。
張りつめていた体の力が抜けていく。
頭の芯から熱が急速に醒めていき、興奮で忘れていた体中の痛みが津波になって戻ってくる。ああ、痛い、とても痛いな。
……まあ、頑張った方だろう。
この蟻地獄の中で我ながら良く粘った。
きっと人類のベスト10には入れるくらいには悪あがきしただろう。
――仕方ない。
現実が個人にとって都合が良いものでは無いと思い知ったのは何時だったか。
軍に入った頃か。それともハイスクールの卒業時に親友だった子を泣かせてしまった時か。はたまた、親父が死んで、お袋が隠れて泣いてた夜か。
蟻が焦らしながらゆっくりと近づいて来る。
人が恐怖に身を震わせて死ぬのがそんなにも見たいのか。
――仕方ない、か。
このまま蟻に噛み砕かれて死ぬのも。
親父と同じ末路になるのも。
故郷を取り戻せないのも。
ヒナの成長を見守る事が出来ないのも。
お袋に楽させてやれないのも。
バスケの勝ち分取り逃がすのも。
ウィルと一緒に飯食いにいけないのも。
ベニーと飲んだくれる事が出来ないのも。
ユーリー隊長の子煩悩振りを見れないのも。
アティさんに射撃の練習を見て貰えないのも。
エメリを泣かせるのも。
――仕方、無い?
俺達がホープから追い出され、狭苦しい宇宙船の中で生きているのも。
ヒナに我がままさせてやれないのも。
お袋が絶えず生傷を作りながら俺達を育てたのも。
親父とエミリがこいつらに殺された事も。
俺が何もかもを諦めて大人しく噛み砕かれるのも。
エメリが罪悪感で15年間自分を責め続けたことも。
――仕方無いだと?
――――――。
――――――――そんなわけ、ないだろ。
エメリは自分の事を責める必要なんてないじゃないか。何も悪い事してないだろ?
なんで、ヒナが我がままを言ってはいけない? 年頃の女の子だぞ。少しくらいいいじゃないか。
なんでお袋が苦労しなくてはいけない? 今まで身を粉にして育ててくれたじゃないか。
なんで俺が自分の未来を諦めなくちゃいけない。ようやく念願の彼女が出来たばかりだぞ。
なんで、なんで――――なんで、全部ここで諦めなくちゃいけないんだよ。
『くっ……つっ……おっ』
痛みに対して弱音を吐く体を無理矢理にでも動かそうとする。
立たなければ、戦わなければ、否定しなければ。
こんな所で死ねない、死にたくない。
『おっ、お、おお』
悲鳴を上げ震える体に力を入れる、入れる力がなければ、気合で搾り出す。道理が通らなければ己を通す。
どんなに大きな相手でも怯むな、相手は図体がデカイだけの害虫だ。震えなど叫べば吹き飛ぶ。諦観なんぞ振り払ってしまえ。
――思い出せ、俺は何を後悔した!
何を後悔して、今日まで生きて来た!!
『おっ――おおおおおおおおオオオオオオ!!』
自分の叫び声が格納庫に響く。
『オーガ』を纏った体が金属の悲鳴を上げならも身を起こしていく。
俺の戦意を察したのか、兵隊蟻が歩調を速め、間髪を入れずに顎を開いた。
俺を殺そうとする動きに目が離せなくなる。
条件反射で両膝の格納スペースへ左右の腕を伸ばす。展開する音と同時に手がギガント・ガバメントを掴んだ。
兵隊蟻の口腔が見える程に唇が視野に迫る。
噛み砕く動作の為に、兵隊蟻が一瞬身を引いた。
手にした獲物を兵隊蟻に突きつけると同時に兵隊蟻の身が、俺に激突する様に跳ねた。
構わずトリガーを連続で引く。
兵隊蟻の頭部の一部が体と逆方向に跳ね散った。
先頭を殺され、激昂した兵隊蟻の群が畳みかけて来るが、ギガント・ガバメントのマガジンを余す事無く撃ち込んでいく。
――もう、お前らに絶望してやるものか!!
マガジンが空になった二丁のハンドガンを見放し、廃材の山から鉄パイプ2本を掴み上げ、兵隊蟻の頭部へと殴打する。
一匹の蟻の頭殻が鈍い音を立てて砕けた。
『おおおあああああああああ!!』
己を鼓舞するために叫びながら、『オーガ』による力任せの打撃を蟻の大群に叩きつけて行く。
すると、1匹の兵隊蟻が小賢しい事に、持ち前の大顎で鉄パイプの殴打を受け止める。
金属同士がかち合う音を立てて、鉄パイプが弾かれる。
手首を回して鉄パイプの向きを変えて兵隊蟻の複眼に突き立てた。
「ギキャ」
『らあっ!』
悲鳴を上げた兵隊蟻に、左向からのフルスイングを頭部に叩き込んだ。残った鉄パイプも折れ曲がる。
次の得物を探すと、廃材置き場で作業用に使われていたであろう工具から、おあつらえ向きの物を見つけ、自分の表情が獰猛に笑うのを自覚した。
『虫叩きに丁度いい道具、あるじゃねえか』
今度はそれを2本それぞれの手に持ち、迫る兵隊蟻へと振り向きざまに手にした得物――スレッジハンマーをお見舞いする。
今度は鉄パイプより肉を砕く音が響いた。喰らった兵隊蟻が痙攣しながら床に伏し、頭部から体液を垂らし始めた。
兵隊蟻達が同種の殺され方に何かを感じたのか、一瞬、確かに怯んだ。
――遅えよ。
俺は『オーガ』の速度で手近な兵隊蟻に肉薄すると、再びスレッジハンマーを叩き込んだ。
先ほどと同じ現象が起き、それを他の兵隊蟻共に行っていく。
――正面から頭部を馬鹿正直に潰すより、横合いを殴りつけた方が攪乱できるか。
頭部を、脚を、腹を『オーガ』の剛力と速度で叩き潰す。
容量と勝手が解り始め、蟲退治の効率を上げて行く。
兵隊蟻の体液が飛び散り、視野の隅に幾らか付くが気にしない。
気づけば、先程とは打って変わり、兵隊蟻の大軍を蹂躙するために自ら切り込んでいった。
兵隊蟻の海の中で独り、半狂乱にも近い戦意で暴れ狂う。
『オオオオオオオオオオオッッ!!』
――叫ぶ。
この気が狂いそうな地獄になぜ自分がいるのか忘れぬ為に。
『俺があっ、おれがあッ! オレガアアッ!!』
――わめく。
無様を晒してでも約束を守ると決めたから。
『お前らの、鬼だあああっっっ!!』
――咆哮する。
諦めた背中を追い越すために。諦めた背中を追い越し、望む未来を掴む為に。
気がつけば格納庫から飛び出し、シャッターの外側まで兵隊蟻の大軍を薙ぎ払った。
――途中から兵隊蟻の動きが鈍くなっている。
兵隊蟻達は俺を睨んでいるばかりで襲って来ない――どう言う事だ?
目の前にいる兵隊蟻達が触角を内側に向け、頭部を通常より低くし唸り続ける。
俺は激しく乱れた息を整え、何時でも迎え撃てるように身構えた。
何が起きても即座に行動できる様にしなくては。
『細胞の一片になっても、諦めねえからなあ』
『丸で怯えている様ですね、コウタロウ』
『……俺、震えてるのか?』
『いいえ、貴方ではありませんよ。――朗報です』
途中から黙り込んでいたマリーが音声になって表れた。
すると、視野に前哨基地の上空を映している警備カメラ映像が映し出される。
見た事のない真黒な三角形の飛行物体が二艇、大気圏による熱の壁につつまれながらも、突破し、勢いを衰えさせずに降ってくる。
『あれは「ヒクイドリ」ですね。宇宙航空が可能なガンシップです。地球時代からの物ですが、改修を続けており、現在は――』
マリーの解説をオープンチャンネルで通信が飛び割って来た。
『聴こえるか!! こちらマーキス・ミラー大尉だ! そこの紅いパワードスーツ!! 聴こえるか!? 生きているか!?』
『こちら、キャピタル駐屯地、48小隊所属のコウタロウ・フジムラ上等兵です!』
『――っよくぞ!! よくぞ無事でいてくれた!! 格納庫に避難してくれ!! ぶちかますぞ!!』
『コウタロウ、急いで下さい。ここで死んでは勿体無いですよ』
そう言われるや否や、慌てて格納庫へと再び飛び込み、叩き潰した兵隊蟻の死骸を盾代わりに身を低くした。
マリーから送って貰っている映像では二艇の「ヒクイドリ」から大地に向かって閃光が発射され、音速で――――大地が鳴き響いた。
前哨基地前にひしめき合っていた兵隊蟻が爆発で消し飛び、けた違いの火力が余波となって兵隊蟻共々俺を飲み込んだ。
格納庫の床に張り付いていると、威力の余波で吹き飛んでいる町の瓦礫が格納庫前で狼狽えている蟻達に容赦無く直撃していく。
――救援の威力じゃねえ!!
『すまないが急いで来たから、航空支援はこれだけだ! パワードスーツ部隊、降下行くぞ!!』
今度は「ヒクイドリ」高度を下げながら、船尾にあるハッチが最大まで開くと小さな人影が次々と飛び降りてパラシュートを広げて行く。
その映像を確認すると、驚愕のあまり目を見開いた。
あの野戦迷彩の『ファイター』は俺が一か月半ほど前まで所属したいた部隊の物だった。
その内の幾つかの『ファイター』が前哨基地目がけて急降下してくる。
オープンチャンネルに懐かしい声が響き渡る。
『こちら、極東アジア駐屯地所属! 高機動装甲歩兵科、442小隊だ! また生きて会えたなこの野郎!!』
『バスケの勝ち越し分払いに来てやったぜ! コウタロウ!!』
『なっ、元隊長殿!? それにみんな、怪我してたんじゃ!?』
『んなもん、一か月あれば治るわい! つーかなんだ、カッコイイスーツ使ってんじゃねえかよおい! 俺にも着させろよ!!』
『今日は兵隊蟻の食い放題だぜ!!』
『いやー、突然の事で良く分からんまま来たけど、マーキス大尉があのボンボンを右ストレートで殴り飛ばしたのは見てて爽快だった』
442小隊を筆頭に、『ファイター』達が降下しながら生き残っていた兵隊蟻達を一方的に攻撃していく。
突然の事に唖然としながら格納庫から這い出ると、パラシュートを切り離した442小隊がこちらに向かって来る。
荒い砂埃をまき散らしながら彼らは着地すると、俺を囲む様に陣を組むと、近くにいる兵隊蟻へと攻撃を開始する。
『こちら442小隊、残っていた味方と合流したぞ』
『了解だ、君たちは念の為コウタロウ上等兵の傍にいてくれ! 前哨基地内部を含めた蟻の掃討は他の部隊に任せる』
『
そう言いながら元隊長殿はご機嫌な声色だ。
夕日が沈み始め、夜へと変わり始めた時間の中、前哨基地の外周で『ファイター』達が兵隊蟻を葬っていく。
逆転した攻勢に緊張が途切れ、元隊長殿に尋ねる事にした。
『なんか……随分と沢山来ましたね』
『あー、それな。駐屯地の12小隊中、10小隊は来てるぞ。あと、保安部隊のも入れると全部で78機か』
『よく連れて来れましたね!?』
『いや、ほら、仮にもここ、ホープにある数少ない前哨基地だし? 取り返さないと?』
『なぜ疑問形?』
『あれだろ、きっと、企業お得意の損得勘定』
『正直、俺らにもよく解らん。けど、少なくとも俺達は助けて欲しいと頼まれたからここに来た――その理由だけで十分じゃないか』
442小隊の隊員達がおどけて見せながら会話に混じる。
気づけば銃撃を行いながら雑談が始まっていた。
『そういや、コウタロウ。お前どんくらい倒したんだ?』
『へ? んなも一々数えて――』
否定しようとするとマリーが何の前触れもなく割って入って来た。
その場にいた全員が一瞬たじろぐ。
『200匹と少しですね。因みにその内、撲殺が4分の1です』
『凄いんだか、脳筋なんだか……』
『いや、他に武器が無かったんですって!』
『あ、最後の「ヒクイドリ」が漸く来たぞ』
遅れながらも三艇目の「ヒクイドリ」が到着した。
なんかもう、余剰戦力な気がするけど、ここで徹底的に叩いた方が今後の為なんだろうか。
先ほどと同じようにパラシュートでパワードスーツ達が降下していく。
見た事の無い、西洋の甲冑型のスーツに混じって、『モノノフ』と『フリッグ』が見えた。
48小隊のみんなも戻って来てくれたのか。――金髪ってやっぱ目を惹くな。
『ああ、そういや、途中で最後に乗ってた救命艇拾ってたな』
『いやそれより――隊長! 空からヘンテコな巨人に乗ってる金髪でスタイルの良い女の子が!?』
『ロケットランチャーを巨人に持たせてこっち向かって来ます!?』
『ん、つーか、オープン回線で何か叫んでるぞ』
――やばい。
これから起こる事の可能性に気づき、回線を聴かない様に声をかけようとしたが間に合わない。
『コウちゃん! コウちゃん!! お願い、返事をして!!』
俺の身を案じてくれるその声に居ても立っても居られなくなり、思わず俺の方から声を張り上げる。
『エメリ! ここだ!! 俺はここにいるぞ!!』
すると、オープン回線に泣き撫せるエメリの声が聴こえた。
泣き声に混じって生きてて良かったとか助けに来たよと言っているのだが、その、嗚咽交じりで色々と凄い。
そんな状況になりながらも、エメリは的確に兵隊蟻の残存兵力に対戦車砲を打ち込んで爆散させていく。器用だ。
『え、なに? もうしかしてコウタロウ……お前……』
442小隊のみんなが予想通りの反応し始めたので慌てて、降下する48小隊の元へホバー移動で駆ける。
我先にとエメリが大地に着地すると、電磁バリアの消失を告げる蒼い閃光を『フリッグ』が発し、ロケットランチャーを投げ捨てて『フリッグ』毎『オーガ』に抱き着いた。
突然の重量にバランスを崩し、慌ててホバーを切ると砂利だらけの滑空路で転んだ。
『――良かった、今度はちゃんと、助けに来れた……!』
『応……ちゃんと生きてるぞ』
『フリッグ』を抱きしめたまま身を起こす、『オーガ』の装甲に付着していた蟻の体液や汚れが『フリッグ』とエメリに移るが全く意に介していないようだ。
『アンタ達、回線がオープンなの知ってる?』
『エメリ、コウタロウを頼んだ! ベニー、ウィル、アティ! 兵隊蟻の追撃に行くぞ!!』
『了解ヤー! ちゃんと落とし前をつけさせないとな』
『あーなんだその……442小隊も行くぞ!! そこ、銃口をコウタロウに向けるな! お嬢さんにあたるだろ!!』
『442小隊の皆さん、本当に、本当にありがとうございました!!』
『――今度、コウタロウと一緒にこっちの駐屯地に尋ねて来て下さい。歓迎しますよ、お嬢さん』
442小隊の隊長がキザにハンドサインを送ると他の仲間と共に追撃に移っていく。
戦火の音が響く中、2人だけになった。
しばらくエメリに寄りかかって身を任せていると、安心感と虚脱感に体が強烈な睡魔を伴って意識を襲って来る。
『大丈夫……みんな、ここにいるから……』
その言葉を最後に、自分の意識が途絶えた。
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