「本」からはじまる物語

芹澤奈々実

第1話 気になる

木の葉が夕陽色に色付き始める季節、島崎春香しまざきはるかは生涯忘れることができないであろう本に出会う。



島崎春香17歳。艶のある黒髪ボブ、肌は綿あめのようにやわらかな白さで、頬は薄っすらと桜色、身長は148㎝と小柄である。


春香には小さな秘密がある。13歳から付き合いがある友人の長谷川陽菜はせがわひなにも話していない。


高校の教室では黒板側から見て右端の後ろから2番目の席に座っていて、授業中はいつも空を見つめている男の子、倉科奏多くらしなかなた。春香は奏多のことが気になっているのである。


きっかけは5月中旬頃、図書委員になった春香が新刊図書についてクラスにお知らせをしている時のことである。普段から読書をしている人ぐらいしか本に関心はなく、ほとんどの生徒が下を向いている中、一人だけ春香の顔を見て聞いてくれた男の子がいた。奏多である。

奏多が読書をしているところを見たことがなかった春香は、奏多が真剣に話を聞いてくれていることが意外で、その日から奏多を見ていることが多くなった。


自分が見たことがないだけで、奏多は読書が好きなのかも知れない。そうだとしたら、奏多はどんな本を読むのだろうか。ミステリー?SF?はたまたラブコメ?私はミステリー小説をよく読むから、そうだと話しかけやすいのにな。

まてまて、まだ読書が好きだと決まったわけではない。ただ単に人が話している時はしっかりと目をみて話を聞く、真面目な性格なのかも。いや、そうだとしたら授業中に余所見をする訳ないか。

春香の奏多へ対する興味は日に日に大きくなってゆくのであった。


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