女子小学生二人が喫茶店に行く話
あらすじ
こんにちは。藍原のどかです。小学5年生です。今日は私の友達、神崎黒音ちゃんと一緒に喫茶店に行った時の話をしたいと思います。黒音ちゃんはアホかわいいので見ていてすごく楽しかったです。
私の友達、
しかし、とどのつまり、とっても
今日は私と黒音ちゃんの二人で喫茶店に来ました。黒音ちゃんの提案です。黒音ちゃんはお店に入るやいなや『禁煙席でお願いします』と店員さんに言いました。ドヤ顔でした。小学生なので言わなくても禁煙席に案内されたと思います。
席に着いた後、黒音ちゃんはメニューを見ながらずっとジッと難しそうな顔をしています。考える人、みたいな表情です。私はすぐにココアを頼むことに決めました。たぶん、黒音ちゃんはコーヒーを頼むと思います。その方が格好いい雰囲気が出るから。
「…………あら、随分と面白そうなコーヒーがあるわね。歴史を感じるわ」
私が何を頼むか決めたのを確認した後、黒音ちゃんは店員さんを呼ぶべく呼び鈴を押しました。格好つけて人差し指だけで押そうとした結果、
押した後、ほとんど間を置かず、店員さんがやってきました。
黒音ちゃんはメニューを指差して言います。
「すみません。この
『……
あー黒音ちゃん。黒音ちゃん
「……あれ、アイスコーヒーって言いませんでしたか?」
誤魔化しちゃった! 黒音ちゃん誤魔化しちゃった! 苦しい! 苦しいよ黒音ちゃん! 私聞いたよ! アイスコーヒーって言ってなかったよ黒音ちゃん!
あと、今思うと『歴史を感じるわ』ってセリフも恥ずかしいです。
そもそも黒音ちゃんは伊勢コーヒーってどんなものを想像してたの? クリームの代わりに赤福とか乗ってるのイメージしてたの? 多分コーヒーの熱であんこと
なんやかんや誤魔化して、黒音ちゃんはオーダーを終えました。たぶん誤魔化せてません。私は普通にココアを頼みました。オーダーを終えた店員さんはすぐに奥へと引っ込んで行きました。口元がにやけてました。黒音ちゃんはアホなのでたぶんそのことに気づいていません。
「藍(あい)ちゃん。そういえば怪我はもう平気なの?」
ケガ、というのは、私がこの前車に轢かれた時のものです。轢かれた、と言っても、軽い傷を負っただけで済んだのは運が良かったです。なのに、今でも黒音ちゃんは事あるごとに私の心配をしてくれます。
黒音ちゃんは自分をよく見せようとはしますが、それ以上に他人に優しいです。黒音ちゃんはアホだけど、私は黒音ちゃんの事が一番大好きです。
「うん、ホントにかるいケガだったからね〜」
出来る限り平気そうに答えました。もっとも、本当に平気なのですが。
今日の授業の、体育の話や図工の話をしていると、店員さんがコーヒー(ココア)とピスタチオを持ってやってきました。
「あら、これはなにかしら」
ピスタチオを見るのは初めてみたいで、黒音ちゃんは興味深そうにその豆粒を見ています。そしてそっと口に運びました。
「あら、まるで豆みたいな味がするわね! これは何かしら?」
ピスタチオは豆です。まるでもへったくれもありません。
その後、黒音ちゃんはコーヒーを飲むため、コーヒーカップを手に取りました。格好つけて人差し指と親指だけで取っ手を持とうとしています。結果、信じられないくらいコーヒーカップが震えています。プルプルプルプル震えています。『全身バイブレーション人間』と名付けたいくらい震えています。
こぼしそうで見てられないです。あっ、なんとか飲めたみたいです。あっ、すごく不味そうな顔をしています。格好つけてブラックで飲んだせいです。
そのあと、ソーサーにカップを置く時、震えのせいでその
「あら、元気なコーヒーね」
黒音ちゃんは笑って言います。間違いなく、元気なのは黒音ちゃんのほうです。
「そういえば
カップを手に取る黒音ちゃん。
プルプルプルプルプルプルごくん
「昨日やってたバラエティ特番見た?」
ガチガチガチガチビシャビシャビシャ
「あれ面白かったわよね」
会話が頭に入って来ません。黒音ちゃんの存在自体が一番バラエティです。
「きのう? あの『しゃべりまくり007』ってやつ?」
「そう、ゲストの俳優さん格好良かったし」
プルプルプルプルごくん
「あの人の映画見に行こうかしら」
ガチガチガチガチビシャビシャ
会話が頭に入ってきません……。
「も、もしも行くなら私もさそってほしいなー」
「ええ、その時はまた声をかけるわ」
プルプルプルプルごくん
ガチガチガチガチガチガチ
黒音ちゃんのカップから液体がこぼれなくなりました。すべて飲み終わったという事でしょう。こぼしたコーヒーで机がマーブル模様になっています。黒音ちゃんはコーヒーを飲まないほうが良いと思いました。
「わたしもココアのみ終わったし、そろそろこのおみせ出よっか?」
「……そうね。この後どうしましょう?」
「うーん。黒音ちゃんのおうち行ってもいいー?」
ここよりは絶対に落ち着けると思います。人目を気にせずに済む分。
「ええ、私は構わないわよ」
言って、黒音ちゃんは立ち上がりました。ガン、と決して小さくない音が響きます。机の角に体をぶつけたみたいです。黒音ちゃんは何事もない風に澄ました顔をしています。だから私も気づかないふりをしました。
レジまで移動しました。
『お会計、1020円になります』
レジのお姉さんが明るい声で言います。黒音ちゃんは長財布を取り出しました。そして中身を取り出そうとします。取り出そうとします。取り出そうとします。
「……」
「……黒音ちゃん」
「……カードって使えますか?」
黒音ちゃん現金なかったかぁ……。ちゃんと先に見ておかなきゃダメだよ! 黒音ちゃん! 内心焦っているであろう黒音ちゃんとは対照に、店員さんは澄ました笑顔です。
『はい、使えますよ』
おお、良かったです。黒音ちゃんはカードを手渡します。
『お客様……これはちょっと……』
言って、店員さんはカードを黒音ちゃんに返します。なんのカードを使ったんだろう。私は黒音ちゃんの手元を覗き込みました。テレホンカードでした。
「……黒音ちゃん。とりあえず私がはらうね」
という事で、1020円は私が払っておきました。私を神を見るような目で見てくる黒音ちゃんが少し可愛かったです。
その後、黒音ちゃんの家に行く道すがら、黒音ちゃんはポイ捨てしてあった缶を踏んで転びました。「踏んだのが高齢の人じゃなくて、私で良かったわ!」と照れ隠しみたいに、すごい勢いで言ったのが印象深かったです。ここで、捨てた人への文句じゃなくて、他の人の心配を始めるあたり、黒音ちゃんはやっぱり優しいです。私はずっと黒音ちゃんと一緒に居たいなと思いました。
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