第2話 自宅ー岡田修【超能力】
「おっちゃん! あと何個残ってる!?」
いろいろあった。
「あと二個やから一発が限界やで! おっちゃんのHPもいい感じに少ない、というか右腕と左足が
いろいろあって、いろいろやった。
「俺も一発打ったら腕が粉々になりそうだ」
「それだけあったら充分でしょ。僕があいつの動きを止めるから、その間に二人で殺っちゃえ!」
フユルギは、魂を異世界に飛ばしてアバターを再構築するという荒技クッキーを開発して、この異世界でのんびりたのしくやっていたのだ。
フユルギのこの世界での容姿は、銀髪、顔には十字に走る傷。
190cmはありそうなガタイのいい身体。
背中には竜の首も切断できそうな
みるからに歴戦の冒険者風な出で立ち。
年は27歳くらいに見える人物だった。
これ、中身は高校生なんだよね?
3人でいろいろバカやりながらこの異世界を見て回った。
そして、なんだかんだで―――世界を救った。
「GO! セルビア! 【かみつく】こうげき!」
「オラアアアアアア!! 【インフィニティ・デコ☆ピン】!」
「しゃあああああああああ!! 【
冒険者をしたら、当然のごとくSランクになった。
魔王を倒して、邪竜を倒して、魔神を殺して。
王国の姫を助け出し、
竜を従え
腐った政治家を糾弾し
ハイエルフということで人さらいに誘拐され
性奴隷として売られ犯されそうになったり
そんな状態の僕をフユルギとおっちゃんに指差して笑われたり
有り余るお金を使い、孤児院に高額の金を寄付したり
むしろ孤児院を建設したりした。
「ぐふ………見事であった。勇者たちよ………」
そして現在は邪神の封印に成功したところである。
「お、おわった、のか? まぁ勇者じゃないけど」
「みくるちゃん。そげんセリフは復活フラグやで」
「だぞ。不用意な言葉は慎め」
―――ドゲシッ
「ひゃん!?」
麗しく雅(みやび)でやんごとない高貴な僕のおしりを二人して蹴りつける
一応、僕は女なのに………。
「乙女のお尻をなんだと思っているんだよぉ!」
「てめ男だろ。」
「かわいこぶんなや」
ひどい。
そうだ、今更だけど、この世界について説明するね。
この世界の名前は【DCQ】
地球にだって名前は無いからとりあえず僕たちはそう呼んでいる
剣と魔法の世界、なんだけど、人々は生まれつき職業を持っている
それが、天職。
スマホを見たときに最初にいっぱい職業があったけど、基本的に職業は変わらないそうだ。
転職は都合よくできない。
次に僕のステータス
これは、魂ごと異世界に召喚された時になぜかついてきたスマホに、それは記載されているよ。
えっと、【DCQアプリ】をタップして【ステータス】を表示
お、でたでた。これこれ。
名前【みくるちゃん】
種族:
性別:女
天職:【
サブ職業:【
HP: 5250/13400
MP: 1530/20450
攻撃: 2150
防御: 2150
素早さ: 1580
知力: 13320
器用: 3360
ジョブスキル:【眷属化】【調教】【呼び出し】【憑依】【テイム】【合成】【錬成】【整形】【付与】etc…
獲得スキル【忍び足】【ふんばり】【暗視】【迷宮探索】【偽造】【念話】【初級火魔法】etc…職業と関係ないスキルもちらほら
ジョブポイント:150(100消費で転職可能※スキル・ユニークスキルは残留します)
うむ、結構つかっちゃったから残りが少ない。
ユニークスキル:【
“ユニークスキル”。
この能力はすごかった。
とにかくすごかった。
何がすごいって、MPの消費が無いのがすごかった。
この能力が最初から備わっているおかげで無双できた。
フユルギたんありがとう!
ちなみに、フユルギも似たような能力を持っている
【
コレはもう僕のよりもすごかった。
なにがすごいって? 代償はキツイけど、なんでもできた。
とにかくすごかった。
おっちゃんも同じようにユニークスキルを持っていた。
【
こりゃもう反則だね。
ユニークスキルはMPを消費しないからなんだってできた。
「フユルギたん、右腕ズタボロでっしゃろ。おっちゃんが治したる。こっち
「お、さんきゅ。おっちゃんもズタボロだったのに、腕が回復してるな。」
「あたりまえやん。おっちゃんが受けたダメージ全部邪神に返したんやから」
詳細なんか言わないよ。
「フルギたんフルギたん」
「俺を使い回しの洗濯してよれよれの洋服みたいな名で呼ぶな。」
邪神を倒した後、聞きたいことがあったからフユルギたんを呼んだら
ドゲシ! とおしり蹴られた。あふん
いいじゃんそんくらい。僕なんか決定権無く【みくるちゃん】だよ?
門番に身分証見せろって言われてこのスマホを提示したら
『みくるちゃん~? ふざけてんのか?』
『ふざけてないよ! 僕の名前だよ! 門番さんの名前はなんていうのさ!』
『ああ? 俺はダディだが?』
『ぷげらぷぷぷー! ダディだって! ダディ! 童貞臭い顔なのにダディなんて名前ではっずかしくないのー!?』
『(プルプル)お、おまえ………』
『あなたが言ってることはそういうことでしょ?(迫真)』
なんてやり取りがあったくらいだ。
一生ウランでやる!
まぁそんなことはわりかしどうでもいい。
「で、どないしたん? みくるちゃん?」
おっちゃんが新調したオシャレメガネをくいっと位置調整し、僕に問う
ちなみにおっちゃんのこの世界での名前は【サムソン】
“
「あのね、もうこの世界ですることなくなったから帰ろうよ。アリスとかブチ丸とか。僕の妹たちが心配なんだよ」
もうハイエルフの体でいることに慣れてしまった。
体力がないけど、職業レベルのおかげでかなり強化されているハイエルフだ。
意識的に現実世界から気を逸らしていたけど、僕たちはクッキーを食べてから体感で2年の月日が流れていた
長い夏休みだ。
「せやなぁ。おっちゃんかてウチの猫たちが心配や。」
現実の僕の身体がどうなっているのか、全く見当がつかん。
うんこダダ漏れの鼻から管通して流動食かしら。
「どうやったら元の世界に戻れるの?」
「ああ? それか。スマホの【DCQアプリ】タップしてオプションメニューの職業一覧の下にある討伐モンスター一覧の“ミミックオクトパス”をダブルタップしてからスライドさせたら【ログアウト】に切り替わるだろ? アンロックさせたそれをタップして“キートレント”までスライドドロップすればアンロックが解除されてその後、1秒以内に五回連続で【ログアウト】をタップしたら戻れるようになるぞ。実は現実世界では2時間くらいしか経ってなかったりする。」
「えっ」
「えっ」
「えっ?」
なにそれ。【ログアウト】ボタンって【討伐モンスター一覧】の中にひょっこりあるの?
しかもヘンテコなプロセスを経てようやくログアウトできるのか!?
「うん。俺が簡単には見つけられないようにクッキーを介してこの世界を魔改造した」
「「おい!」」
僕とおっちゃんがハモってツッコむ。
ドヤ顔のフユルギはもはや何でもアリだ。
「ごめん、セルビア。僕たちはもう帰るね」
傍らにいた幼い竜の顎を撫でる。気持ちよさそうでいて寂しそうにクルルと鳴いた。
この子はセルビア。
僕がテイムした竜だよ。
まさか竜をテイムできるとは思ってもいなかった。
幼い竜だからかな。
コレでサヨナラというのも寂しいけど、もともと僕はこっちの世界の住人じゃないからね。
元気で生きるんだよ!
「安心して。また何度かログインするから。時間はかかるけどまた会いに来るからさ」
「きゅぅ………」
セルビアは僕のほっぺをぺろんと舐めると、翼を広げて飛んで行った。
口臭い。
「そんじゃ、邪神の素材も一通り回収したし、帰るか。」
「「「 【ログアウト】 」」」
【討伐モンスター一覧】から“ミミックオクトパス”を探し出してダブルタップする。
数が多いし、字が小さいしで見つけづらく、締まらない最後だけど、これでこの異世界ともお別れだ。
ええっとつぎは“キートレント”を―――めんどくさっ
☆
「――――という夢を見たのさ!!」
―――ガン!
「あいた!!」
「馬鹿め」
勢いよく起き上がると、テーブルの底で頭を強打した
いたい………頭が割れちゃう………バカになっちゃう
………あ、もとからだ。
なら大丈夫だね。
ぽかぽかというよりもムシムシが似合う陽気な午後。
ミンミンとけたたましく魂を叫ぶ蝉の声がうるさい。
デジタル時計に目を通すと、夏休み初日の午後3時だ。
うわぁ、あの大冒険から二年たったのに、本当にまだ2時間しか経っていないや………
夏休み、初日なのに2年間も遊びほうけちゃったよ。学校の授業についていけない
「ううん………あかん、肩凝った。変な態勢で寝とったわ」
おっちゃんが目を覚まして首をグルグルボキボキと鳴らす
うわ、おっちゃんは体の線が細いから折れちゃわないか心配だよ
「みくるちゃん、なんでそげん顔しよるん。」
「ボキボキなる音が怖いんだよ」
「お、みくるちゃんが乙女になってる」
「僕じゃなくても怖い人は怖いだろ。骨が鳴っているんだから!」
僕はテーブルの下に潜り込んで耳を塞いだ。
おしりをテーブルから出していたのか、フユルギに引っぱたかれた。あふん
「でや、フユルギたん。二時間前? 2年前? か知らんけど、なひけおっちゃんたちにそげんクッキーを食わしたのん?」
おっちゃんの膝の上で寝ていた僕の妹、“牛ノ浜アリス”(3歳)を優しい手つきで撫でる。
家で猫を三匹も飼っているだけあって、慣れた手つきだ。
「おう、あのクッキー食って職業レベルMAXにするとな、おもしろい現象が起こるんだわ。」
そういってフユルギはニヤリと笑った
まあ、天職の職業レベルはなんでかしらないけど、僕もおっちゃんも最初からMAXだったんだけどね。
―――パチン!
そういってフユルギは指を鳴らし―――
―――ズバヂンッ!!
「ひゃわ!」
「うぐお!?」
それが数秒後には幾重にも音が重なって振動となり、僕とおっちゃんの腹の底を突き抜け、鼓膜を激しく震わせた
妹のアリスがビクッと目を覚ましておっちゃんの服の中に逃げた
「これって………。あかん、こそばい」
「はん、やっぱり気づいちゃった?」
服の中に入ったアリスに悪戦苦闘するおっちゃんを見て、フユルギが自慢げに口角をあげる。
「おいおい、ここまだ異世界ってわけじゃないでしょ、なんで現実でユニークスキルが使えるのさ!」
それは、先ほどまで飽きるほどさんざん見てきた、フユルギのユニークスキルだった。
フユルギのユニークスキル【
効果は3秒以内に自分の手で作成したものを3秒間、無限にコピーできるというもの。
説明を聞いても理解できなかっただろうけど、要は自分が作り出したものだったら無限に複製できるってこと。あれ? 変わってない。
簡単に言えば、指ぱっちんの音、衝撃、振動。それらの情報を複製する。100回分ほど複製したら、あのような衝撃音が産まれたのだ。
デメリットはクールタイム30秒。60分に5回まで
音だったら何とかなるけど、衝撃などをコピーする場合は自分の手の届く範囲、半径1.5mほどが限界だ。
あと、指ぱっちんの音を複製して100回作り出すと、100回分指ぱっちんをした疲れが返ってくる。
現在は地味に腕に乳酸が溜まっているらしい。
「ま、言うなれば超能力だな。俺たちは、超能力を手に入れた。………まぁ本来の力を正しく認知できたというのが正しいかもだがな。」
本当にフユルギは何でもアリだ。
「まぁ、さすがに現実じゃ体力面やら体の耐久力の問題があるから【インフィニティ・デコ☆ピン】みたいな大技は出来ないけどな」
【インフィニティ・デコ☆ピン】とは、つまりただのデコピンである。
この技はデコピンのインパクトを何千何万と複製し、攻撃する技だ。
普通に殴る衝撃を複製するよりも体に負担が小さいらしい。ただし、何千何万回分のデコピンの反作用や疲れが返ってくるため、それでも十分反動が大きいみたいだ。
あと、一発で中指がアボーンってなる。
「ほな、おっちゃんも【
服の中に入ってしまったアリスに悪戦苦闘しつつ、自身のユニークスキルについて問うおっちゃん
「もちろん。おっちゃんの場合は消耗品だから一から自分で手作りしないといけないけどな。」
「そんなんDCQでも同じやん。」
僕やフユルギのユニークスキルと違い、おっちゃんのユニークスキルは媒介が必要となる
DCQでは自分で道具を作成することになれていたおっちゃんは意に介した様子もなく、テンション高く頷いた。
「そ、それじゃ、僕の【
「おう。夢だったんだろ?」
「うん!」
ガバッと体を起き上がらせる
―――ガン!
「いたい!」
「二度目だ、アホめ」
テーブルにまた後頭部をぶつけた。痛い………。
うぐぐ………フユルギに足を持たれてずりずりとテーブルの下から這い出される
「ほれ、ブチ丸だ。」
そして、僕の弟、“牛ノ浜ブチ丸”の首根っこを掴んだフユルギがブチ丸を僕に向かって放り投げた
「わわっ! まだ幼いんだから、投げないでよ」
「ご」
フユルギは顔の前に、手のひらを縦にして一文字だけで謝った
なんだそれ。
「謝る気ないよねそれ!」
せめてあと『めん』くらい言ってよ………なんだよ『ご』って………。
なんなんだよ………『ご』って………。
心の中でぶつぶつと呪詛を呟きながらブチ丸をキャッチする。
『ご』ってなにさ!
“牛ノ浜ブチ丸”。この子は世にも珍しい三毛猫の雄だ。
この間公園で捨てられていたのを拾った。
まだ生後3週間くらいだろうか。
「みーぅ」
細い鳴き声を出して僕の指先に鼻をくっつける
【
――― ………おかーさん、おなかすいた ―――
「ふおおおおおおおおおおおおお!!!!!」
「みぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!?」
この日、僕は、動物の言葉がわかるようになった
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