第44陣両雄邂逅す

 今回の突破作戦において、重要になってくる事は一つ。


 いかに戦わずしてこの包囲網を突破するか。


 しかもネネを守りながらの突破だ。慎重に動かなければ、失敗に繋がる。シンプルのように見えてとても重要な作戦だった。


「あの、ノブナガさん」


「何でしょうか?」


「ここって出入口はいくつありましたっけ」


「正面口と裏口の二つです。ただ、裏口から出た場合は少し遠回りしないと城への道へは行けません」


「なるほど」


 つまりどこから出ようが道は一つしかないということになる。さて、こんな状況でどうやって突破するか。


(俺が先にここを出て、魔法で一気に兵を減らす、という手もあるけど)


 残念な事に先程までの合宿で、大きな魔法を使えたとしても一発くらいしかない。そう、俺達は全員特訓の疲れがかなり残っている。敵はまさしくそこを狙っていたのかもしれない。

そうだとしたら、長期戦のつもりで向こうはいるのだろう。ここに直接攻めようとしないのは、それが理由だ。


(だけど俺達には長期戦は無理だ)


 それならどうすればいい? 考えるんだ俺。


「何かいい作戦はあるの? ヒッシー」


「いや、正直難しい状況だ。敵の狙いは明らかに長期戦。でも今の俺達に、その体力はあるか?」


「あまり言いたくないけど、私そんなに体力残ってない。すぐ帰るって分かってたから、結構全力で動いちゃったから」


「すいません、私が過密スケジュールにしたせいで。ここまでの予測はしておくべきでした」


「謝らないでくださいよノブナガさん。ノブナガさんは何一つ責任はありませんから」


(顔には出してないけど、ノブナガさんも疲れているよな)


 それも含めると、より効率的な作戦が求められて来る。


 そこでまず俺が思いついたのが、行動班を二つに分けること。


 ネネを守りながら一気に山を下る組。


 それを援護しながら、少しずつ山を下る組。


 前者はネネを安全な場所まで連れて行く役割と、できれば援軍を呼びに行く役割を担う。これに成功すれば、戦況は大きく変わる。その代わり素早い行動が求められる。


 後者はそれを援護する役割を担う。長期戦とまではいかないが、先のグループの安全が確認できるまでは、敵を引き止めらなければならない。そして確認できた後は、自分達も撤退して行き、あわよくば援軍と合流するという手立てだ。


「それはかなり効率がいいと思いますが、問題は誰がどの役割を担うか、ですね」


 一通りそれを説明し終えると、ノブナガさんが口を開く。彼女が言うとおり、そこが一番重要になってくる。

特に山を降りる組は疲れている中での素早い行動が求められる。


「ネネは決まっているとして、果たして敵を引き止めるまでの体力が残っている二人がいるか、ですよね」


「一人は私が担いますが、ヒスイ様とヒデヨシさんはどうなされますか?」


「ネネの事はヒデヨシに任せます。俺はノブナガさんと一緒に敵を食い止めます」


 自分がどうするかは最初から決めていた。こんな所で自分だけ逃げようなんて考えは、男として情けない。あと正直な話、早く動ける自信もない。


「いいのヒッシー。かなり疲れている様子だけど」


 そんな俺の選択に、ヒデヨシが心配してくれる。確かに彼女の言う通り、俺もかなり疲労が溜まっているが、今は気にならない。


「心配するなヒデヨシ。あんなに格好つけておいて、自分だけ真っ先に逃げようなんて思わない。だからネネの事は頼んだぞヒデヨシ」


「うん、分かった。任せておいて」


「じゃあ作戦も固まった所で、改めて作戦を開始します。私とヒスイ様がまず先陣を切るので、お二人は後をついてきてください」


 ノブナガさんが扉を開き、俺達がその後へ続く。外で待っていたのは大量の兵士達と、その先陣に立ついつしか見た人物。そう、徳川家康本人だった。


「まさか大将自らが奪いに来るとは、随分派手な作戦ですね、イエヤス」


「また会えて嬉しいのう、ノブナガ」


 ◼︎◻︎◼︎◻︎◼︎◻︎

「家康……」


 ネネが憎しみを込めて呟く。それを見て家康は、


「と、その後ろにおるのは妾を裏切った忍。そやつにはちゃんとした罰を受けてもらわなければならぬ。大人しく渡してくれんかのう」


 ネネの引き渡しを要求して来た。だがこちらは当然受けるつもりはない。


「残念だけど渡すわけにはいかない。ネネは俺たちの仲間だからな」


俺は彼女の前に立ちネネを庇う。ネネは何か言いたそうな顔をしているが、それを今は我慢している。


「お主はいつかの戦人じゃな。威勢はよろしいが、妾に指一本も触れられぬお主に何ができる」


「できるかできないかは、戦ってからじゃないと分からないだろ!」


 挨拶代わりに一発大きな魔法をかます。属性は風。嵐とも呼べるその魔法は、周囲の敵を吹き飛ばした。


「な、なんじゃ今のは……」


 だが家康を捉える事はできなかった。だが今の魔法の目的は、あくまで逃走ルートの確保。


「はぁ……はぁ……。今の内に二人は突破しろ」


「でもヒッシー、今ので体力が……」


「気にすんな。今はネネを逃がすことだけを考えて、先に行け!」


「ありがとう、ヒッシー」


「ありがとう、ヒスイ」


 二人は礼を言うと、うまく敵陣をくぐり抜けて、包囲網は何とか突破。その二人を追おうとする兵は、先回りしたノブナガさんが倒す。


(よし、ここまでは作戦通り)


「よくもやってくれたのう。お主名を何と言う」


「俺はヒスイだ」


「ヒスイ、その命を切るのは勿体無いのじゃが、妾の邪魔をした罪として、ここで討ち取らさせてもらおう」


 ただ一つ予定外だとしたら、今の一発で家康を本気にさせてしまったこと。果たして今の俺に勝ち目はあるのだらうか?


(いや、勝ち目とかそんなの考えている場合じゃないな)


 今の選択肢は一つ。


 勝つしかない。


俺が培ってきた実力で!


「勝負だ、家康!」

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魔法を使って戦国時代で無双してみた @kagura

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