第3章スイーツとデートな日常

第13陣スイーツ日和 前編

 今川軍との初めての戦いから早三日。少しずつここでの生活に慣れ始めた俺は、何故か昼頃にヒデヨシに呼び出されていた。


「ごめんヒッシー、お待たせ」


「呼び出した本人が遅刻してどうするんだよ」


「ちょっと色々準備していて遅れちゃった」


「別に構わないけど、どうした? 急に呼び出すなんて」


「実はヒッシーに付き合ってほしいことがあるんだ」


「俺に?」


 一体何に付き合わされるというのだろうか?


「今から城下町に行って、甘いものを食べつくそうと思うんだけど、一人じゃ寂しいからヒッシーにも付き合って欲しいの」


「甘いものを食べ歩き?」


「そうだよ。題して『安土城下町、甘いもの食い倒れツアー』ていうところかな」


 何だその今考えましたみたいなレベルのツアー名は。ていうか食い倒れって言葉、この時代にもあったのか?


「食い倒れってどれだけ食べるつもりでいるんだよ」


「そんなの食べきれなくなるまでだよ」


「その食べきれなくなる量がどれくらいか教えて欲しいんだけど……」


 俺自身そんなに食べられる人間じゃないし、甘いものがすごく好きってほどでもないから、何とも言えない。これが女子力というやつなのだろうか。


「いいから、いいから。この前の戦のお疲れ様会だと思って。勿論全部私のおごりだから」


「うーんそこまで言うなら……」


 ここまで言われたら断りにくい。二人だけで行くというのが何とも言えないけど、ヒデヨシの奢りなら付き合ってあげてもいいかもしれない。


「じゃあさっそくだけど、レッツゴー」


「あ、おい、待てよ!」


 こうして俺は、ある意味ではデートという形でヒデヨシと甘いもの巡りを始めるのだった。


(いや、これはデートじゃないよな)


■□■□■□

 まず一軒目は城下町に入ってすぐのところにある菓子屋さんみたいな場所。そこで俺はカステラを一つ注文し、ヒデヨシは大量の金平糖を注文。

どちらも実際の戦国時代には既に存在していたお菓子で、食べ物で早速冒険させられるのではないかと思っていた俺はちょっと安心した。


「というかお前、一軒目なのにそんなに食べていいのか?」


 ヒデヨシの元に運ばれてきた皿一杯の金平糖を見て俺が言う。まだ一軒目だとうのに大丈夫なのだろうか?


「もしかしてヒッシー、私が太らないか心配してる?」


「俺はヒデヨシが太っても一向に構わないけど、ノブナガさんが困る」


「ヒッシー、私怒るよ?」


「いや、冗談だってば」


主に女性にとって一番の悩みである体重などの心配をしたところ、ヒデヨシに怒られてしまう。


「それにヒッシーに心配されなくても全然平気だよ。甘いものは別腹って言うでしょ?」


「言うけどさ」


 別腹どころかまだ何も食べていない状態だったんだけど。


「ん~美味しい」


「ヒデヨシってもしかして、甘いもの好きなのか?」


「もしかしても何もそうだよ? そうでなきゃツアーなんてやろうとは思わないもん」


「まあ、そうだな」


 身長とか見て考えると、やっぱり甘いもの好きなのは間違っていないのか。やはり子供って、お菓子好きな子多いよな。


「ヒッシーは、やっぱり失礼すぎると私は思うんだ」


「ん? 別に何も考えていないぞ。お前が子供みたいだから甘いものが好きなんだなって納得していただけだよ」


「それが失礼だよ! 私子供なんかじゃないもん」


「いや、成長の過程を見るとどうも子供にしか」


「どこ見て言っているのかなヒッシーは」


「主にあなたにあるはずの、膨らみの部分です」


「馬鹿!」


本気で怒られました。


「いやぁ、悪かったって。俺は心からヒデヨシの成長を願ってるからさ」


「謝る気があるなら、視線を上げてほしいんだけど」


 一件目からハイテンションなヒデヨシ。それをからかうのが中々面白いことに気がつき始めた俺は、カステラを食べるのを忘れて彼女の反応を楽しむのであった。


■□■□■□

 それから三十分ほどその店にいた俺達は、ちゃんと頼んだものを完食して店を出た。


「なあヒデヨシ、お前結局全部食べたけどお腹いっぱいじゃないのか?」


「ううん。まだ三件は回れると思うんだ」


「マジかよ。俺だったらあれだけ食べてお腹いっぱいになるよ」


「もうダメだなヒッシーは。まだ一軒目何だよ?」


「まだ俺も平気だけどさ。あと三軒以上回るのはちょっと辛くないか?」


「あ、途中でお昼休憩も挟むから心配しないで」


「お昼休憩だぁ? だったら尚更他回れないだろ」


むしろそれは休憩ではなく、一種の試練にもなるんですけど。


「でもお昼食べてきてないし」


「いや俺も食べていないよ? けどいくらなんでもそれは、無理があるだろ」


「じゃあもう解散しちゃう? せっかく楽しいのに」


「それも早すぎるし、勿体無いだろ」


女の子と二人きりなんだから、もっと楽しみたいです。


「ヒッシー、下心が見え見えだけど」


「そ、そんな訳ないだろ。お、俺だってこれでも女子とデートくらいの経験はあるんだからな」


「私そこまで言ってないけど?」


 少し食休みをした後、ヒデヨシは次の店へと駈け出す。その姿はほんの数分前まにあれだけの量を食べたとは思えないくらいに軽快だった。

俺はそのあとを追いながら、ふとある疑問が浮かんだ。


「なあヒデヨシ」


「どうしたのヒッシー」


「お前どうしてそんなに食べられるのに背が伸びないんだ?」


 それは本当にふとした疑問だった。さっきもそれを言って怒られたから失礼なのは分かってはいるけど、これだけ食べれるんだからもうちょっと背が高くてもおかしくないはずだ。

それにあの大きなハンマーを平気で持っていられるのだから、筋肉だってあるはずなのに、そんな感じには見えない。


「どうしてなのかな。私も分からないからヒッシー教えて」


「やっぱり年齢詐称とかしているからか?」


「なんで年齢詐称?! 私そんな事しないよ!」


「本当は子供だったりするんだろ?」


「そうじゃないもん! 私こう見えて二十歳過ぎたばかりだもん!」


「え?」


 それはちょっと変じゃないか?


「どうしたのヒッシー? そんなに私が二十歳なのが変なの? それってすごく失礼だよ!」


「いや、そうじゃないけどさ」


 そういえばどうして俺は疑問に思わなかったのだろうか? 今の年と彼女達の年齢に矛盾がある事を。実際の歴史の通りに考えると、今の年だと豊臣秀吉は既に五十を越えている。


「まさか本当はもっと年寄りだったり」


「一回ハンマーで殴っていい?」



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