第12陣かつての師に思いを馳せて

 ノアさんは見た目は温厚な人だけど、色々厳しい人で俺は二週間みっちり彼女にしごかれた。


「しっかりしてください。こんな所でへばっていたら、勇者を支えることができませんよ」


「そ、そんな事言われても、俺普通の人間なんだから魔法を覚えろだなんて無理があるよ」


「弱音は吐かない! 私が教えればちゃんと魔法が使えるようになりますから信じてください」


「信じてくださいって言われてもな……」


 いきなり異世界に呼び出されて、いきなり魔法を覚えろだなんて無理がありすぎると思っていた。そもそも俺は普通の人間なんだから、そんな素質なんてあるはずがないと思っていた。


だけど、


「これはちょっと驚きました。まさか二日で基本の魔法ができるなんて……。やはりヒスイさんには素質があったんですね」


「これが魔法……」


 修行開始わずか二日目で、ノアさんに教えてもらった基本的な魔法をマスター。この成長の早さには、師匠であるノアさんも驚きを隠せなかったらしく、俺の事を褒めていた。

ていうか一番驚いたのは勿論俺だったけど。


「やはり私の見込んだ通りの人でしたね。明日からは更にパワーアップしますからね」


「えー、これ以上きつくなるの?」


「当たり前です。ヒスイさんはまだまだ成長しなきゃいけませんから」


「そんなー」


 そんな文句を言いながらも、俺は結局二週間の魔法の修行をやり遂げた。最初は弱音ばかり吐いていた俺だったけど、いつの間にか自分が魔法を使えるという事に喜びを覚え、修行を終えてからも、度々ノアさんに魔法を教えてもらっていた。


 そして世界を救って、自分の世界に戻ることになった日の前日。


 俺は最後の教えとして、ノアさんと少しだけ魔法で戦った。勿論勝ち目なんて全くなかったけど、そこに悔しさはなくこうして師匠とともに修行をできた喜びを噛み締めていた。


「寂しいですね。こんなにも可愛い弟子にもう会えなくなるなんて」


「俺も……寂しいに決まっているじゃないですか。この世界は勿論好きですし、師匠のことだって好きですから」


「それは私への告白でしょうか?」


「さあ?」


 この世界にいた時間は決して長くはなかったけど、でも沢山の思い出が作れた。だから思い出の詰まったこの世界を離れるのは寂しかったし、今だってもう一度あの場所に戻りたいとさえ思っている。何故ならもう一度会いたいのだ。俺の大切な仲間達に。


そして出来る事なら、俺はもう一度……。


■□■□■□

「ではヒスイ様にとって、その異世界というのは素晴らしい所だったのですね」


「はい。色々な事がありましたが、俺にとってあそこはかけがえのない場所です」


 全てを話し終えたあと、ノブナガさんがそんな風にまとめる。結構長い話になってしまったせいで、大分遅い時間になってしまっていた。なんか祝杯というより俺の昔話になってしまった。


「あ、もうこんな時間ですか」


「すいません。俺だけずっと長話しちゃって」


「いいんだよヒッシー。聞いてて楽しかったから」


「ヒスイ君の話すごく面白かったよぉ」


「そ、そう言ってくれるのは嬉しいですけど、なんか申し訳なくて」


「いいじゃないですか。今日の主役はヒスイ様なのですから」


「そんなものでしょうか?」


「そんなものです」


 まあ俺も話していて悪い気はしなかった。むしろ久しぶりに師匠との思い出を思い出せたし、戦いにも勝てたからいい気分だ。


「さて、時間も時間ですからそろそろ解散しましょうか」


「そうだね。今日はお疲れ様ヒッシー」


「おう、お疲れヒデヨシ」


 ノブナガさんがそう切り上げると、皆それぞれ部屋を出て行く。皆が出ていくのを見送ったあと、俺も最後にノブナガさんの部屋を出ていこうとしたところで、ノブナガさんに呼び止められた。


「あ、ちょっと待ってくださいヒスイ様」


「ん? どうかしましたかノブナガさん」


「ヒスイ様に一つ頼みたいことがあるのですがよろしいですか?」


「俺に頼みたいことですか?」


 あまりこの時代について詳しくは知らない俺に、頼みたいこととは一体なんだろうか?


「実は一週間後に、私三日ほど城を離れなければならない用事ができたんです」


「一週間後にですか?」


「はい。どうしても外せない用事なので、私がいないその三日間、城の守備をヒスイ様に頼みたいんですがよろしいですか?」


「俺に城の守備を?」


「ミツヒデは私と一緒についていきますので、他に頼れる方がいないんです。もしもの事があったら困りますので、お願いします」


「それは別に構わないんですけど、俺なんかにできるでしょうか?」


 というか他の奴らどんだけ信用されてないんだよ。


「ヒデヨシが教えてくれましたが、どうやらヒスイ様の指揮が素晴らしかったらしいじゃないですか。そのような方ができないなんて事はないはずです。お願いします」


また頭を下げてくるノブナガさん。そんな頼み方をされては俺も断りにくいので了承する事にした。


「別に俺は現状況を把握した上で、最善の策を判断したなんですけど、とりあえず了解しました。俺に任せてください」


「ありがとうございます」


「じゃあおやすみなさい」


「おやすみなさいヒスイ様」


 ノブナガさんのその一言を聞きながら俺は部屋を出る。


(なんかここまで頼られると、もっと頑張らなきゃいけない気がするよな)


 ノアさんもいつか言っていた気がする。頼られたからにはそれ以上の結果を出せって。今ここで魔法を使えるのは俺だけだし、もっと向上していけばもっと頼られるようになるに違いない。

そう、いつだって上を見て進めばいいんだ。しておけばよかったって後悔しないくらいに。


(それが分かっていれば、あんな事だって起きなかったはず)


 俺はある事がきっかけで大切な物を失ってしまった。それは今でも後悔している。その事を先程の思い出話で思い出してしまった。


(サクラ……俺はまた思い出しちゃったよ、お前の事)


部屋を出てしばらくネガティヴになる。誰にも気づかれないようにしていたが、俺は今にでも泣き出してしまいそうな気持ちだった。


(後悔しても戻らないって分かっているのに、どうして俺は……)


こんなにも愛しく思ってしまうんだよ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る