第2章魔法使い、戦地に立つ

第7陣離れでお茶会

 翌日から俺のこの戦国時代での生活は本格的に始まった。こういう場合での迎える初めての朝は、どこかおかしな感じを覚えるのだが、やはり一度異世界にいったことのある身だからなのか、普段通りの寝心地で朝を迎えた。


(場慣れしてるって事か、俺も)


 あまり慣れたくない事ではあるけど、あちらの世界で一年は生活していたのだから、仕方がない。


「おはようございます、ヒスイ様」


「おはようございます」


「おっはーヒッシー」


 着替えを終えて部屋を出て少しした後、偶然ノブナガさんとヒデヨシに出くわす。二人共昨日と少し違ったデザインの着物を着ている(実際戦国時代の女性の大体の服装は着物といったものが主流だったらしい)。

 金色の髪の毛に着物とは滅多に見ない組み合わせだが、二人共すごくに似合っていて、ほんの数秒俺は見惚れてしまっていた。


(これはこれで、ありだよな)


色んな意味で楽しむ事が出来そうな時代になりそうだ。


「二人共、普段の服装は着物なんですか?」


「そうですね。これ以外に私達は着るものがございませんから」


「他に着るとしたら、鎧ぐらいだもんね」


「それに比べて俺は……」


「ヒスイ様もよく似合っていますよ、その袴」


 ちなみに着替えなんか一切持ち込んでいない俺は、ずっと同じ服を着ているわけにはいないので、ノブナガさんに袴を貸してもらい、それを今日から着ている。

ただし、着慣れていないものだから、どうしても俺には合わない。


「いやぁ、滅多に着るものじゃないですから、ちょっと着心地が悪いんですよ」


 本来であれば俺もこの時代にあった男性用の服を着るのだが、当然そんなのすぐに用意できるはずがなく、しばらくこれで我慢するしかない。


「そういえばヒスイ様は先日、かなり変わっていらっしゃる服装をしていらっしゃいましたが、あちらはどういったものなのでしょうか?」


「あ、昨日の服? あれはジーパンとTシャツっていうやつだけど、そんなの言っても分からないよな」


「じーぱん? 全然聞いたことない」


「分かったらある意味すごいと思うよ」


 五百年以上先の未来の服装なんて分かったら、そいつこそ何者扱だって話になる。


(こういう所はやっぱり時代を感じるよな)


「というかさっきからずっと歩いていますけど、どこへ向かっているんですか?」


「どこって勿論朝食の場ですよ」


「その割には結構歩いていませんか? このままだと外に出てしまいますけど」


「外には出ないのでご安心ください」


「はあ」


 昨日の歓迎会で使ったあの場所とは全く違う場所に向かっているけど、果たしてどこでご飯を食べるつもりなのだろうか?


 それから更に五分ほど歩いたあと、ようやく到着。


「あのノブナガさん、これはどういう……」


「どうも何も、れっきとした食事場所ですよ」


「外に出ないと言いましたよね? ここばっちり外なんですが」


 俺が二人に連れられてやってきたのは、城から少し離れたこじんまりとした建物。ここの使い道を考えるとしたら、隠居生活をする時ぐらいだろう。

こんな所でわざわざ朝食を食べにうるくらいなら、城内のほうが絶対マシだと思うけど、俺の勘違いだろうか?


「あーそういえばヒッシーに何も教えていなかったっけ。毎朝ここですること」


「毎朝すること?」


 朝食以外にここで何かをするのだろうか?


「お茶会ですよ」


「お茶会?」


 こんな朝から毎日やるのか? お茶会。


 というか朝食は?


 ■□■□■□

 建物の中に入ると、外見からしたイメージ通りの構造になっていた。昔修学旅行とかで行ったことがある、部屋が区分けされていない大きな畳張りの広間だけがある建物。

他にも細かな要素があったりするが、今は気にすることでもなさそうだ。


「利休さん、今日もやってきましたよ」


 大広間にたどり着いてすぐ、ノブナガさんが誰かを呼ぶ。どうやらここに既に住んでいる人がいるらしいが、俺はその名に聞き覚えがあった。


 そう、あの有名な千利休だ。


「はいはい~、少々お待ちを~」


 奥からイメージと全く似つかない返事が返ってくる。すごくほんわかした雰囲気の声をしているけど、利休ってこんな人だったっけ? あ、でもお茶を嗜む人ってこういうイメージかも。


「今日はお早いですね~ノブナガさん~」


 そんな事を考えていると、その利休が姿を現わす。


「予定より少し早めたんですよ。迷惑でしたか?」


「いえいえ~、そんなことありませんよぉ」


 千利休であろうその人物は、ノブナガさん達とはまた違った黒色の少し短めの髪の毛をした、いかにも和服美人の女性だった。


「よかった、ここに黒髪がいて」


これぞまさに日本の伝統。


「何か言いましたか、ヒスイ様」


「あ、何でもないです」


 そんな彼女を見て俺は思わずそんな事を呟いてしまう。ここにいる人のほとんどの髪の毛が、かなり変わっているので、こうしてまともな髪の毛の人、しかも日本人らしさのある黒髪の人を見れて少し嬉しい。


あ、別に黒髪フェチとかでは決してないからな。


「それよりそちらの方は?」


 リキュウさんが俺を見て不思議そうに尋ねてくる。彼女には伝わっていなかったのかな俺の存在。


「彼は先日隊長に就任なされました、不思議な力を使うヒスイ様です」


「いきなり隊長に就任ですかぁ。その不思議な力というものも私気になりますぅ」


「え、えっと、桜木翡翠です。よろしくお願いしますリキュウさん」


 少し硬めの挨拶をすると、リキュウさんは笑顔のまま俺にグイグイ寄ってきた。


「そんな硬くならないでいいですよぉ。ヒスイ君~」


「ひ、ヒスイ君?」


 初対面の人にいきなり君付けで呼ばれるなんて始めてだ。おまけに距離が近い事もあってか、独特の匂いが俺の鼻をくすぐる。


(すごいフレンドリーな人だな)


「あれ~、私まだ自己紹介していないんだけど、どうして分かるのぉ?」


「あ、えっと。それはですね……」


「私が名前を呼んだときに覚えたんですよきっと」


 まさか既に知っていたとは言えないので、どうしようかと困っているとすかさずノブナガさんがフォローしてくれる。こういう時に安易に名前を呼ばない方がいいのかもしれない。


「へえ、もう覚えてくれたんだぁ。嬉しい」


「ま、まあ」


「そんなヒスイ君には大サービスしちゃおうかな」


「だ、大サービス?」


 少し妖艶な言い方をしたので思わずいやらしい想像をしてしまう。


(それはまさか、早くも……)


 俺の春はやって来てしまうのか?


「お茶の、大サービスだよぉ。楽しみにしててねぇ」


 ですよねー。


「ヒスイ様、今何かいやらしい事考えていませんでしたか?」


「べ、別にしてないですから。いやらしい想像なんか絶対に!」


「してたんですね」


「あ」


 このあと少しだけノブナガさんに怒られました。

いや、別に変な期待とかしていたわけじゃない。ただ、サービスするなんて言われたら、男としては色々考えてしまうだけで、


「ひ、す、い、様?」


「はい、ごめんなさい」


顔がすごく怖いですノブナガさん。

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