6 ナイトストーカー
「――ヤス先輩、開けますよ!」
俺がトイレに入ってから四、五分くらい経っただろうか。
ひねりがいきなり中に突入してきた。
鉢合わせたのは、まさに俺がトイレの中に戻るべく窓枠に上体を乗せた瞬間だった。
「な……何してるんですか!」
「――あまりに臭かったんで、外の空気をちょっと、な」
「臭いは全くしませんけど……」
「今空気を入れかえたんだ」
ひねりはご丁寧に、一つだけある個室の中の大便器に近付いて臭いをかぐ。
……女のやることじゃねえぞ。
「臭いはしませんね。トイレットペーパーの先も丁寧に三角に折ったままです」
「俺が折ったんだよ。几帳面な性格でな」
俺はトイレの中に下り立って窓を閉めた。
「なんにしろ五分程度だろ? 一体何をするってんだ」
「……五分あれば『何か』はできますよ」
「ああ、深呼吸くらいはな」
ひねりはしげしげと俺を観察した後、有無を言わせぬ口調で言った。
「浦野先輩の様子を確認しに行きましょう」
……ちっ、カンの鋭いやつだ。だが、まあいい。
俺達は二階の浦野の部屋に行く。
「――浦野先輩、ちょっといいですか?」
ひねりがノックして尋ねた。
……無反応。
「あれ……? また鍵が開いてる――」
「えっ? ちょっとひねきち、それじゃまさか……」
あわてて中を調べる二人。だが浦野の姿はどこにもなかった。
そして室内の捜索を終えた二人の視線が、自然と俺に向く。
「――おいおい、俺はずっとおまえらと一緒にいただろ?」
「……『ずっと』じゃなくて、『ほとんど』でしたが」
「五分足らずで拉致なんかできねえよ。大体まだ単に姿が見えないってだけだろ。散歩かトイレじゃねえのか」
「トイレからは、たった今私達が帰ってきたところですよ」
ひねりの指摘に、俺は肩をすくめる。
「いや、だから外へ立ちションにさ」
そう言って窓に近寄り、外をアゴで指した。
「ん?……ありゃなんだ?」
俺の言葉に、二人も窓際に来て外を覗きこんだ。
見えたのは、茂みにかぶせられた『何か』。一階の窓明かりにぼんやりと照らされていたのは、派手な柄の布だった。
「あれはまさか……浦野先輩のアロハシャツ?」
ひねりの呟きに、ユイが目をこらして言う。
「ええ、そうみたいね。模様が同じ……多分今日着てたやつかしら」
「行きましょう!」
ひねりがあわてて部屋から飛び出す。
後を追うユイ、遅れて俺。
一階に駆け下り、二人は裏口へ続く廊下にダッシュで突入する。
それを見送った俺は、さりげなく走る方向を変え――玄関から夜の闇に身を躍らせた。
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