XX 闇の中の私刑
切り立った崖の上。夜の闇。
そんな中、俺は気を失っている標的を見下ろしていた。
「……ぶざまだな」
笑いをこらえるのに苦労する。
「やっとこの時がきたよ――」
俺は歓喜とともに包丁を振りかざす。
――ようやく恨みを晴らせるのだ。
包丁の柄を両手でしっかりと握り、力強く振り下ろす。あたかも処刑のギロチンのように。
――まず突いたのは喉。
――次は心臓。
――そして腹。
――最後は……下腹部。
そこは特に念入りに突き立てたが、恥骨らしき物に当たって深く体内には刺さらなかった。
ちっ……もういい。
俺はいらついて、また腹を刺した。
標的は気絶している上に口にガムテープを貼ってあるので、悲鳴も命乞いもないのが物足りない。しかし声を出されては人が来てしまう。
「しかたねえな……」
舌打ちして、また体をめった刺しにする。
何度も何度も。深い恨みをこめて。
「はあっ、はあっ……」
何度も荒い息を吐く。目の前の死体は最早肉塊と化していた。
――ははっ、ざまあみやがれ。当然の報いだ。
「……じゃあな」
俺は敷いていたブルーシートごと、肉塊を崖から蹴落とした。
死体は真っ暗な海に吸いこまれるように消えていった。
……なんだ、終わってみればあっけないものだ。
「せめてこの後は、もっと楽しませて欲しいもんだな……」
俺は返り血よけに着ていたレインコートと手袋と目出し帽を脱ぎ、包丁と一緒に海へ投げ捨てた。そうしてすぐにきびすを返す。
――さあ、果たして誰かこの『
「……できるはずがない。誰にも」
俺は呟いてほくそ笑む。
――ましてあの探偵気取りの間抜けそうな女……『ひねり』などには。
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