満月ロード
琴哉
第1章
第1話
短命で魔力を持たない者は、生き残るため、魔力を持った者を殺める。
長命で魔力を持った者は、生き残るため、魔力を持たない者、逆らう者を殺める。
魔力を持たない者は、自分たちのことを「人」と呼び。
魔力を持った、恐ろしい者たちを「悪魔」と呼んだ。
魔力を持った者は、魔力を持たない者を「化け物」と呼び。
魔力を持った、強き者たちを「魔物」と呼んだ。
時と年月が経る事により、自然と呼び名は統一された。
魔力を持たない者を「人間」や「人」と。
魔力を持つ者を「魔物」と。
但し、お互いの仲だけは、悪くなる一方で。
尚且つ、長命を持つ魔物の中には、魔物の間でも最も恐れられる、「魔王」が一匹。
短命だが、魔物を滅ぼす意思が強い人間の中には、「人王」が各国にあらわれた。魔物が魔力で使用する「魔法」に対抗するため、人々の一部で、呪文を使用する「魔術」の研究が進み、活用されていた。
「ひ、ま」
「狩りにでも出ましょうか?」
「えー。罪もない“人間”を殺す趣味はないよ」
暇で暇で仕方がない俺は、人間の敵といわれている魔物の王。魔王である。
強大な魔力を持ち、残酷な殺害を好む、善意のかけらもない魔物の中の魔物。「魔王」ということで恐れられている。
が、そんな噂と現実は違うもの。別に残酷な殺害・殺戮を好むわけでもないし、頭が良いわけでもない。確かに、幼い容姿の割に数千年生きているし、強大な魔力も持っている。
身長160センチ、人間容姿年齢18歳、精神年齢15歳と少々低め。魔物実際年齢1000歳越えの男。1000歳を過ぎた時点で、歳を数えるのをやめた。血で染まったかのように、赤黒い髪と赤と黒が混じる瞳。生まれつき、爪の色も赤と黒が印象的。魔物の中で綺麗だと言われている色合いを兼ねそろえていた。
ついでに、856歳という中途半端な時期に魔王に選ばれた。その時に 「お傍にて尽くします」 とやってきた、身長179近くの人間容姿年齢24歳、当時魔物実際年齢1059歳の男。生まれつきだろう金髪を腰付近まで綺麗に伸ばし、綺麗な青色の瞳。他の女魔物からモテモテな容姿だろうその姿の持ち主が現れた。そんな男の名を“シェイル” と言った。
そして、今も控えめにほほ笑みながら、魔王の椅子にてふんぞり返っている俺の隣に立ち、楽しく狩れそうな場所を考えている。
他にも俺に仕える者はいるが、懐いているのは数名。
魔物のくせに庭をいじるのが好きな男や、料理に命をかけている男。掃除が大好きな気の強い女と、情報収集の為自主的に旅に出ている男がいた。
「人間には罪があります。我々を殺そうとしている」
「それは無暗に人を殺すからだろう? 人間は敵だと感知したものは人だろうが魔物だろうが殺すんだ。俺たちと同じだろうが。魔力を持ってるか持っていないかの違いだろう?」
「…あなたはもっと
「魔王らしくしろ?」
「わかっているなら」
「んー。別に魔王だから、“あれしてくれこれしてくれ”って言われないじゃんか」
「恐れられているから言えないのでは? いいことです。アマシュリもそう言っていたではありませんか」
いいことなのだろうか。
王として魔物の要望を聞き、どういう風にこの世を持って行ってほしいという希望を聞かなければいけないものだと思っていたが、王となって数年後、特別何もしなくていいという結論になった。
人王の中では、その持っている国の民の意見を聞き、よりよい国にしようと頑張っている王がいた。その考え方が気に入っていて、何もしなくていいと思った数年後、魔物の中に潜り込み、いろいろな話を聞いていた。その中で、面白い情報を持っている者がいた。それが、今魔王に仕える情報旅魔である“アマシュリ”という男だった。
人間で言う15歳くらいの若い容姿をしたアマシュリは、記憶力のいい男だった。年に数回しか魔王の姿で城から出ない、俺の姿を覚えていた。特徴を口で伝えれるくらいに。そんな魔王の話を聞いているうちに、アマシュリを気に入っていた。
しかも城から出てもしゃべることをあまりしないため、魔王の声を覚えている者などそう多くはない。それなのに、俺が別の魔物のフリをして話している声で、魔王だと気付いた。魔王だとバレずに外に出るため、口を開くのを嫌う魔王というのを印象付けたというのに、少し話しただけで気付くということは、相当な観察力があると思い、城に招待した。
束縛されるのが嫌いな旅人としてみれば、仕えることなんて御免だと思っていたし、実際アマシュリもそう言った。
『別に束縛し、傍に置いておくつもりはない。そんなことをしたら情報が入らなくなるから。だから、自由にしていい。但し、情報がほしいときに呼ぶ。相当急いでいないときはすぐに来いなんて無茶は言わないし、来れないときはそう言っていい。そういうスタンスをする者を嫌うか?』
にっこりほほ笑みそういうと、想像や聞いていた魔王の性格とはかけ離れています。気に入りましたと言って、微笑んだ。
それから情報がほしいときにはテレパシーを飛ばしたり、自主的に城に訪れ、いい情報や悪い情報を伝えてくれた。いい友だ。
「アマシュリかぁ…元気にしてるかなぁ」
「お呼びしますか?」
「ううん。いいよ。俺が会いに行く」
「では、今いる場所を聞いておきます」
「いいって。探すよ自分で。たまには運動しなくっちゃね」
そう言って椅子から飛び降り、両手を合わせて天井に向けて身体を伸ばす。
最近、魔物の領域に人間が入り込もうとしてきているという話がある。アマシュリから聞いたわけではないのに、閉じこもっている俺の耳にまで入ってきているということは、相当被害があったのだろう。
その駆除もしておきたい。
実際、人間は嫌いじゃない。楽しいし、技術を持っている。最近、人間が作ったゲームというものが気に入り、人間のフリをしては、買い求めに走ったりしていた。
拘束魔法以外、魔力が強いわけではないアマシュリのためにも、魔術者を近寄らせないようにしなくてはいけない。
俺、魔王が成立するまで、人間と魔物の領域は混ざっていた。だが、そんなことは争いが起き続ける一因にしかならないと考え、魔王になって一番初めに、領域の確保を行った。魔王の城を中心に、徐々に人間の土地を占領し、広げさせた。そして、ある程度の領地領海領空を手に入れた後、広げるのをやめさせた。
人間の土地がなくなってしまうのは可愛そう。という心で。
もちろん、魔物には伝えなかった。
『全ての領地を奪ってしまったら、楽しくないだろう?』
そう微笑み止めさせた。
そんなんで止まると思っていなかった為、呆然としてしまった。
「さて…。出かけるか」
「魔王。これを」
「外、寒いか?」
「冷え込み始めています」
「そう」
シェイルは、黒いロングコートをそっと肩にかけてくれる。
その手付きがやさしく、そこが女にもてるんだろうなと、ほほえましくなる。が、優しく見えるシェイルでも、魔物だ。いったん戦闘態勢に入ると、相手が死してもなお、切り刻もうとするしつこい性格をしている。
以前一部の魔物が、魔王を殺す。という計画を目論んでいた輩たちがいるという情報をアマシュリから聞いた俺たちは、敢えて気付かないふりで魔王に面会を要求してきた計画者たちを入れ、牙を向けてきたところを、シェイルが片を付けた。
俺がやりたかったというのに、立ち上がる暇を与えずに潰した。
争いを見慣れているアマシュリもその場に立ち会っていたが、その恐ろしさに足を震えさせていた。
大丈夫だと慰めてやったが、アマシュリにとってのトラウマとなってしまったみたいで、今でもシェイルと関わる時は、かなりの緊張を見せていた。
「じゃあ城を頼むぞ」
「魔王…私を置いて行くのですか?」
「バーカ。お前まで連れて行ったら、城を誰に任せればいいんだ? そこらへんの魔物に占領されても面倒だろうが」
「…そうですが、ここにはヴィンスもリベリオもいます」
「一応だよ。確かにあいつらだってそこらの魔物よりは強いが、何かあったら困る。だから、シェイルが城とここの者たちを守ってほしい」
「…わかりました」
「大丈夫だって、(城を中心に)東西南北にある洞窟にいるドラゴンたちには近寄らないからさ」
「あたりまえです!」
いつもシェイルには無理を言っている自覚はある。
城を抜け出した時も、相当叱られる。
どこかへ出かけるときは、いつもついてこようとするが、魔王の俺よりもイザコザを大人しくさせるためにシェイルを向かわせるものだから、シェイルのほうが魔物には有名となってしまった。だからこそ、一緒に連れて歩くと魔王だとばれてしまう。
それに、この城に仕えているもので、一番力を信用できるのがシェイルだった。だからこそ、留守の間はここを護っていてほしい。
シュンとしてしまったシェイルの頭に、背伸びをして手を乗せる。
「すまないな。何かあったらすぐに俺を呼びつけろ。どんな些細なことでも報告をしろ」
「はい」
「長く離れはしない。戻ったらシェイルも自由に街を歩いてこい。休みだ」
「いいえ。私はあなたのお隣に」
「はいはい。それは戻ってから考えようか」
「はい」
入口までお送りしますと言ってきかないシェイルを説得し、魔王の間で別れ、長い通路を足音を鳴らしながら歩いた。
すると、奥から料理人のリベリオが、楽しそうな顔で食べ物が乗ったカートを押してきていた。何か出来たのだろう。
「あ、魔王様! もしかしてどこかお出かけですか?」
料理に命をかけているリベリオは、人間容姿25歳でシェイルと似ている身長。姿かたちは、落ち着かない感じで、人間で言う「チャラ男」。だが肌は白く、白い髪は癖っ毛で肩にかからないくらいの長さで、あちこちにはねている。綺麗な顔つきをしているくせに、表情が豊かなおかげでとっつきやすい。
いつもおいしい料理を作ってくれて、料理人の中で一番気に入っているし、城の料理人の中でも人気がある。ご飯の時間以外は、なんだかんだとパンだのスイーツだの作っては、持ってくる。
今もその状況だったのだろう。
「あぁ。今日は何を作ったんだ?」
「スイートポテトと、ジャンボイチゴケーキ。フォンダンショコラに抹茶パフェです」
と、ボリュームと組み合わせが痛々しいのが玉に瑕。
「そうか。残念だが、シェイルとともにみんなで食べていてくれないか?」
「魔王様…食べて行かれないんですか?」
口に指をくわえ、甘えるポーズ。
175以上ある身長の持ち主がやっても、一切可愛くない。
「す、すまないな」
「いえ…。いつお戻りに? シェイルは出かけることご存知ですか?」
「知ってる。戻りはわからん。何かあったら呼びつけろ」
「呼びつけろだなんて…。お城に何かありましたらすぐに報告します…」
「あぁ。そうしてくれ。珍しい食材があったら持って帰るよ」
「はい。ありがとうございます」
にっこりほほ笑むリベリオは、少しだけさびしそうな瞳を見せる。
「あ、あの…魔王様?」
「ん?」
「お気をつけてくださいね…」
「ありがと」
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