第45話 連れて帰りましょう

「……息はあるみたいだ。奴隷首輪してるな」


 十代半ば、シオンの元の世界で言うなら中学生くらいの活発そうな少年が小声で言う。


「女の子、かな? それとも男の子? ちょっとわからないけどすごく綺麗な子だね」


 こちらも同年代の少年だが、活発というよりは理知的といった方がしっくりとくる。


「よし、連れて帰りましょう!」


 何の脈絡もなくそう言い放ったのは二人よりも少しだけ大人びた少女であった。このグループの最年長なのだろうか。シオンと同じか少し年下といったところだ。


 それに対して、ふんふん、とうなづくのは三人よりもかなり背の低い少女。全身を革の鎧と、同じく革製のフルフェイスの兜に身を包んでおり、キラリと輝く目しかのぞかせていない。ブレストプレートが女性用であるため、かろうじて少女とわかる。


「なに言ってんだ馬鹿レェリ、そして声がでかい。もっと小声で話せ! こいつがどこのクランの奴隷かわかんねえんだぞ。そんでもってイーズーはレェリの言うことに無条件でうなづいてんじゃねえ!」


 イーズーと呼ばれた革鎧の少女はその言葉に、無言のまま少年を威嚇した。

 それを手で制してレェリが少年に向かって言う。


「なによセット、わたしの言うことが聞けないって言うの!?」


「なんでそんなえらそうなんだよ! どう考えてもまずいだろ。この奴隷がどこかのクランのやつなら、かばったら対立クランになにされるかわかんねえだろうが」


「でも放っておいたらこんな綺麗な子、それこそなにされるかわかんないじゃない。それになによりかわいそうだわ!」


「だからって孤児院に連れて帰って子供たちに何かあったらどうする。……セシルもなんとか言ってやれ」


 どうやらセットという名の少年は、短絡的なレェリという少女に手を焼いてもう一人の少年に助けを求めた。


「たしかにセットの言うことはもっともだね。でも、……ほら。この子も目が覚めたみたいだし、直接聞いてみればいいんじゃない?」


「……」


 少年たちの視線がシオンへと集まる。

 さすがに目の前で騒がれてはシオンも目覚めずにはいられなかった。


「あの……?」


 シオンはさすがに事態の把握が追いつかない。

 そこへレェリとセットが同時に質問をぶつけた。


「あなた、男の子? 女の子?」「おまえ、どこの奴隷だ?」


 レェリとセットはとっさにお互いをにらみつけ、小声で怒鳴りあう。


「男か女かなんてどうでもいいだろそんなこと!」


「なんでよ、気になるじゃない。それにどうでもいいことから聞いた方が話が上手くすすむわ」


 たしかに、どこの奴隷かを聞いてしまえば、すぐさま別れるか、もしくはその後の話まで発展する可能性が高い。ならばシオンの性別が知りたければ最初に聞いてしまった方がいい。というかそれしかない。その考えにおよんでセットは、ぐう、と引き下がった。


「で、どっちなの? 男の子? 女の子?」


 聞かれてシオンは答える。


「ど、どっちでもいいです」


 その答えを、そんなことはどうでもいいだろう、という意味に受け取ったのか、レェリは、ふん、と鼻をならした。


 セットの方はシオンの答えに満足したのか、先ほどの質問を投げかけた。


「ボクは今日この街へ来たからクランが何なのかもわからないよ。ボクのご主人様はサツキ様とジェイスリード様だけだし……」


 その言葉を聞いて少年たちはあからさまにホッとした様子を見せた。


「で、なんでこんなとこで野たれ死んでたんだ?」


「死んでないでしょ!」


 ツッコミを入れるレェリに賛同するようにふんふんとうなずくイーズー。

 シオンはそれに対して「はぐれちゃって……」と言った後、もごもごと口ごもった。考えると気分が落ち込んでくる。

 その様子を見てセシルが口を出す。


「まあまあ、みんな。取りあえずはここを離れようよ。あまり長居すると騒ぎを聞きつけられるよ。この子……ええっと、名前はなんていうんだい?」


「……シオン」


「シオンのあるじさんもすぐには首輪の遠隔苦痛を使わないと思うし、今日はもう夜遅いからね。取りあえず今晩は僕らの孤児院であずかることにしようよ」


「そうだな、仕方ねえか」


「結局、最初に言ったとおりじゃない! わたしが言うとおり最初から連れて帰ればよかったのよ」


 レェリの暴論に対してまたもやふんふんとうなずくイーズーに、はあ、とセットはため息をつく。


「じゃあ、着いていらっしゃい」


 シオンは特に行くあてもない身だし、せっかく暖かい寝床を貸してくれるというのを断る気にはならなく、着いていくことにしたのであった。

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