第266話 仙術道具フル稼働

 俺は一旦、現代を経由して、前田邸に戻っていた。


 ここでは、阿東藩に設置した防犯カメラの映像が全て集まる。

 剣術道場の二階でも同じことができるが、こちらの方が高性能なサーバを設置しており、また、その他の現代の道具も充実している。


 この日、嫁達は全員宴に参加していたので、前田邸には俺だけしかいない。

 ちなみに、娘の舞は女子寮で預かってもらっていた。


 全ての画像を、一つの液晶ディスプレイに32分割映像として表示する。

 ディスプレイは二つ並んでいるので、計64台のカメラが分割表示できるわけだ。


 ただ、これでは小さすぎて何がなんだか分からない。

 そこで、人感センサーやモーションセンサーが反応しているところだけ、左上に赤くマークが付くようにモードを変更する。


 今現在、反応があるのは『前田美海店』の玄関付近を映した映像だ。

 これは、倒れている徹さんや登さんを運び込んだり、周囲を警戒したりと大騒ぎの様子に反応しているだけだ。

 高所である『火の見やぐら』からのカメラをズームにして、その周りを確認してみるが、特に他に怪しい様子は見られない。


 薰達が前田美海店から出たのは、もう二時間以上前だ。

 その直後に襲われたとしたのだったら、もう犯人は薰を連れてかなり遠くへ逃げている可能性がある。

 リアルタイム監視の映像では、他にセンサーに引っかかる映像は見られない。

 となれば、録画画像を片っ端から見ていくしかないのだが、こんな時の為に高性能なサーバを持ち込んでいたこともあって、『モーションセンサーに引っかかった画像だけを残す』機能も実装している。


 それぞれの録画画像の内、近い順に『何かあった』録画画像のみを確認していく。

 すると、まず最初に、徹さん、登さん、薰の三人が、凜に見送られながら前田美海店を後にする映像が映っていた。

 現代の時刻にして23時頃だ。


 しかし、すぐにカメラの撮影範囲から外れた。

 残念ながら、三人が襲われた場所にはカメラは設置されていないので、その瞬間を見ることはできない。しかし、その近くを誰かが通ったならば、その映像が記録されているはずだ。


 一つずつ確認するのだが、野良猫が通っただけでも反応してしまっており、なかなか決定的な映像が見つからない。

 こうしている間にも、薰がどこかへ連れ去られ、酷い目に遭っているのではないかという懸念から、なかなか作業に集中できない。

 しかし、ここで焦っては元も子もない。俺は平常心を心がけ、懸命にマウスを動かした。


「……見つけたっ!」


 俺は、その瞬間声を上げた。

 三人が前田美海店を出てから約十五分後。

 一つの人影が、裏通りを東に向って、大きな麻袋に入った荷物を持って走っているところだった。


「これだ……多分薰は、この袋の中だ!」


 商業地区から脇道を抜けて、漁港へ向う道だった。


「……そうか、『黒鯱を燃やせ』と言ってきたということは、敵対する勢力……おそらく、海賊『蛇竜』だ……だとしたら、どこかから船で脱出する可能性が高い!」


 それに気付いた俺は、慌てて一番近い、漁港を映すカメラに切り替えた。

 しかしそこには、モーションキャプチャの映像が多数保存されてしまっている。

 係留されている船が揺れる度に、反応して録画されてしまうためだ。

 ただ、さっきの映像で時間が比較的特定できていたため、そこに合わせてバーをずらせていく。


「……これだっ! この小船に乗って海に出たんだ!」


 そこには、麻袋を小船に乗せる、黒い服を着た男の姿がはっきりと映っていた。

 男は、手慣れた様子で係留を解き、櫓を漕いで船を進ませていた。

 俺は急いで三郎さんに無線で連絡を取った。


「三郎さん、薰は一刻(二時間)近く前に、鞆奥の港から小船に乗せられて海に出ています! 櫓で進む方式の船だから、そんなに早く進めるわけではないはずです! 今から船外機付きの船で追えば間に合うかもしれない!」


「そうか、わかった。なら、例の船倉からすぐに船を出せるように準備しておく」


 無線の向こうから、頼もしい返事が返ってくる。

 ただ、その背後から、


「どうなっているんだ? まさか、薰の居場所が分かったのか!」


 という大きな声が聞こえていた。多分、海留さんだろうな……。

 しかし、それに構っている暇はない。急いで、俺専用の船、通称『仙廻船』一号艇を置いている船倉に向わねばならない。


 さっき『ラプター』を現代との往復で使用したばかりであり、再使用には三時間程度待たなければならない。

 かといって、前田邸から普通に走って行ったならば、一時間以上かかる。


 今は深夜で、住民に迷惑をかけることを承知の上で、前田邸の倉庫に保管していた、非常用の『トライアルバイク』を出動させることにした。

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