第208話 番外編15-5 海女ちゃん達の健康診断 前編 

 大変な事になってしまった!


 つい先日、「女子寮」の女の子達の健康診断を実施したのだが、その噂がとんでもない尾ヒレがついて地域に広がってしまっている!


「前田拓也は、自分が雇っている女子達を裸にして、品定めをしている」


「気に入った娘は、めかけとして、また新しく一緒に住むようだ」


「奴は、この阿東藩で、将軍様の『大奥』のような施設を作り上げるつもりだ」


 等々……。

 まったくの濡れ衣なのだが、


「年頃の娘を上半身裸にして、検査した」


 という点においては間違いではないので、言い訳が苦しいところだ。


「実は彼女達の為だった」


 と言えば言うほど、ならばなぜ裸にする必要があったのか、と突っ込まれるわけで……。

 困り果てた俺は、啓助さんに相談してみたところ、彼は笑いながら


「だったら、いっそ開き直って、その『健康診断』とやらを一般の人にも開放して、検査内容を確認してもらえばいいのでは?」


 と提案してくれた。

 俺は、なるほどと感心して、さっそく準備に取りかかった。

 内容としては、


1.男女、どちらとも一月のうち特定の日を検査日と決めて、一般の人にも来てもらう。


2.会場は、男性の場合は『秋華雷光流剣術道場 井原支部』を、女性の場合は『前田女子寮』と定め、検査に必要な道具を持ち込んで実施する。


3.初回検査は無料とする。


 無料とすることで申込者が殺到するかもしれないと思ったが、初回限定だし、また、結果として阿東藩の健康増進につながるのであれば良いことだ、とも考えたのだ。


 検査内容はいたって真面目だし、上半身裸になるのだって理由がちゃんとある。

 そのあたり、理解してもらえるはずだ。


 しかし、申し込み内容のビラに、検査内容として

『血を少し抜く』、『尿を採取する』という項目を記述していたので、予想以上に怖がられ、不気味がられてしまった。


 女子寮の女の子達は、地域住民から真偽を尋ねられ、病気になっているかどうか調べるためには必要だったので、血も抜いたし、尿も提出したと真面目に答えてくれた。

 その結果、『前田拓也の女子品定め説』、及び『大奥設立説』はなりをひそめ、どうやら本当に病気の検査であったようだ、と名誉が回復されつつあった。


 しかし……せっかく準備したのに、誰も申し込んでこないのはちょっと拍子抜けだ。

 特に男性。

 少しぐらい血を抜かれることに、なんでそんなに怖がるのだろうか。

 ……と思っていたら、これまたとんでもない噂か広がっていた。


「検査を受けに行くと、血を一升抜かれる」


 一升って……1.8リットルだ!

 例えで「多くてもおちょこ一杯」って言ったことはあったが……同じ酒の量の単位だとしても、誤解にもほどがあるだろう。

 まあ、きちんとビラに採取量を書いていなかったこちらにも落ち度はあったのだが……。


 そんなこんなで、初回男性検査は閑古鳥が鳴いている状態。

 商人の啓助さん、忍しのびの三郎さん、侍の源ノ助さんぐらいしか来てくれなかった。

 まあ、源ノ助さんが


「次回は、道場の若い衆を何人か来させる」


 と言ってくれたので、マシになるとは思うけど……。

 そして翌日の、女子の部の検査。


 こちらも、申込者はほとんどいない……と諦めかけていると、なんと、八人の女性達が一斉に押しかけてきたのだ。


 その賑やかなこと。

 彼女たちの顔を見て、ちょっと引いてしまった。

 以前からの顔見知り……海女さん達の中でも若手の『娘組』御一行様だ。

 その代表である姉御あねごが、豪快に笑いながら俺に話しかけてくる。


「噂を聞いて、とうとうあんたが本性を現したのだと思ったからね、みんなでこうやって来たんだよ」


 本性ってなんだよ、本性って!

 とはいえ、これはこれでちょっと嬉しいかもしれない。

 理由はどうあれ、自発的に、健康診断を受けに来てくれたのだから。


 俺は彼女たちを女子寮の一室に案内した。

 そこには、優と凜が、白衣姿で既に待機してくれていた。

 この部屋はもちろん、女子寮の建物の内部全てにおいて、男は俺しかいない状況だ。そのことを海女さん達に告げた。


 すると姉御は、


「ふうん、準備万端って訳だね……よし、みんな、行くよ!」


 と、なんかよく分からない号令をかけると、いきなり着ていた浴衣を豪快に脱ぎ捨てた。


 ……驚愕。


 彼女は、浴衣の下に、まるっきり何も身につけていなかったのだ!

 全裸、オールヌード、素っ裸。

 慌てて目を逸らしたが……他の海女さん達も、全員同様に浴衣を脱ぎ捨て……そしてみんな、やっぱり素っ裸だったのだ!


 ほとんどが十代後半の女性達、さらには、まだ十五歳のミヨまでもが、真っ赤になりながら一糸まとわぬ全裸になってしまっているではないか!


「さあ、拓也殿! 私達の体、隅から隅まで調べてもうらおうか!」


 そう言って高笑いする姉御。

 俺は後を向いて、唖然としている優と凜に、助けを求めるように、説明をしてくれるよう頼んだ。


 二人は、全裸の姉御達と、それに戸惑う俺の姿に苦笑しながら、改めて海女さん達に診察の段取りを説明し始めたのだった。


 ……先が思いやられる……。

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