第五章 ハーレム完成!?

第83話 帰還準備

「金山発見」の知らせは、直ちに『阿東』、『岸部』の両藩主にもたらされた。


 実際に商業的に採掘するまでには、鉱脈の質や規模の調査から始まって、採掘手法の検討や計画作成、金山までの道路の整備、拠点施設の建設など、数年を要する。


 また、「金山で採掘される金の権利をどうするか」という、『阿東』『岸部』両藩や幕府を交えた上層レベルでの意思決定も必要だった。


 これに関して、三郎さんは

「『岸部藩』が幕府と縁の遠い外様大名であるのに対して、『阿東藩』が将軍家と親戚関係であることと、勢力や規模も『阿東藩』が上であることから、こちらが主体で交渉が進んでいくことになるだろう」

 と説明してくれた。


 また、本格的な採掘開始まで時間がかかったとしても、新しい金山が見つかったというだけで世間に与えるインパクトは強大らしく、

「日本全国から『山師』や『商人』、続いて『職人』や『作業者』が集まってくることになるでしょう。忙しくなりますよ」

 と啓助さんが教えてくれた。


 そして驚いたことに、わずか数日の内に『阿東藩』から大工が派遣され、『前田邸』の補修工事が始まったのだ。


 役人である『尾張六右衛門』さんによれば、今回の金山発見に多大な貢献をした俺に対する恩賞の一環と言うことだったので、ありがたくお受けしたのだが、何か手際が良すぎるような気がした。


 しかし、三郎さんが

「阿東藩主が、あんたの実力を高く評価したってことさ。『前田邸』が被害に遭ったこともあって、心配していた。藩主は、あんたが『阿東藩から出て行く』事を懸念している。ようするに、『住処は元通り修復するし、恩賞も与えるから、ここに留まってくれ』という意思表示なのさ」

 と言ってくれ、なんとなく納得できた気がした。


 さらに驚くことに、藩主の意向で、この敷地へと続く坂道の下に新しく家が建てられ、そこに三郎さんとお蜜さんが住むことになるという。


 また、すぐ近所に役所を設置し、この地域を警備する人員を強化するらしい。

 そのかわり、六右衛門さんに要望されたのは、俺が『この地域で新しい作物の栽培試験を行う』ことと、『金山採掘に関する新しい技術の開発』だった。


 俺一人にそれほど期待を掛けてくれ、警備の人員まで割り当ててくれるというのなら、光栄というか、プレッシャーがかかりすぎるというか、なんかいろいろ入り交じった複雑な感情となった。


 それはさておき……こうなってくると、離ればなれになった少女達の『帰還準備』が整うことになる。

 もう『財宝』は発見されたわけで、盗賊団に襲撃される理由もないし、源ノ助さんも帰ってきていて、警備もより強固になりつつある。


 優とは定期的に連絡を取っていたので(優の方が現代と過去を往復してくれていた)、その事を話すと大喜びし、『ナツ』、『ユキ』、『ハル』の三姉妹に伝えておくと約束してくれた。


 そして現代に住み着き、医学の勉強をしていた凜さんにもそのことを話した。

 彼女は満面の笑みを浮かべ、


「これでようやく、私とナツちゃん達三人は、あなたのめかけになれるんですね」

 と微笑みかけてきた。


 そこで、またいつも通り

「いや、俺はみんなが幸せになってくれればいいんだ。妾なんて、考えていないから」

 と告げると、悲しそうな顔になった。


「拓也さん……まだそんなふうにおっしゃるのね……私たちが拓也さんに買い取られてから、もうすぐ一年になるというのに……」


「……一年……そうか、もう、そんなになるんだな……いや、別に年月の問題じゃなくて、さっきも言ったように、君たちが幸せになってくれれば……」


「……じゃあ、私たちが『拓也さんの妾になる事が一番幸せだ』って言えば、受け入れてもらえるんですね?」

「えっ、いやあ、それはまた別問題で……」

 さすが凜さん、理詰めで攻められるとこちらもなかなか反撃ができない。


「それとも……私たちがずっと一緒に生活すると、迷惑ですか?」

「いや、まさか。そんなことあるはずがない」


「拓也さん……貴方はどう思っていますか? あなたは、どうしたいと思っていますか? もし仮に……そう、例えば、ナツちゃん達三人が、『明炎大社での生活が気に入ったから、前田邸に戻りたくない』って言えば……彼女たちのこと、あきらめられますか?」


 ……どくん、と鼓動が高まるのを感じた。

 そんなこと、考えた事もなかった。


 あの可愛らしく、俺に懐いてくれていた『ユキ』や『ハル』、そして『ナツ』だって……前田邸に戻りたくないと言うなんてことは……もしそんなことを言われたら、俺は、

「なら、ずっと明炎大社で生活していいよ。それで君たちが幸せなら」

 と、笑顔で言ってあげることができるだろうか。


 ……いや、そんなことはない。おそらく……自分の元に、『前田邸』に帰って来るように、説得してしまうだろう。


 そう考えたときに、自分に対してちょっとショックだった。

 俺は、少女達を独占したいと、心のどこかで考えていた。そしてそれを凜さんに見抜かれていたのだ。


「……拓也さん、貴方は、実は私たちと、ずっと一緒に生活していきたいって……考えてくれていたのではありませんか? そしてそれを、優も私も、そしてナツちゃん達三姉妹も望んでいる……優は、『自分だけが幸せになるんじゃなくて、みんな本当の家族になって欲しい』って言っています。本妻とか、妾とか関係なく……全員が平等に貴方の『お嫁さん』になれればって、考えているんです……」


 いつもの『からかい』を含んだ表情ではなく、真剣に語る凜さんのその瞳から、一滴の涙がこぼれ落ちた。


 その煌めきを見たとき……俺の中の何かが弾けたような気がした。

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