サプリメント05 沖縄料理

 ナザリック地下大墳墓


 聞けばプレイヤー41人による合作作品。白亜の城を思わせる第十層に、洗練された管理都市を感じさせる第九層。各階層ごとに趣向を凝らし、というか凝りすぎた場所である。


 そのデキの良さから、ここがてっきり地獄と勘違いして数十年。アインズ様にここがユグドラシルというゲームから派生した異世界のような場所と言われても、やはり私の中ではいまいちピンときていないのかもしれない。主観時間の思い込みとは、それほどまで自我の形成と根付くとはおもっていなかった。

 そう。私は人間ではなく地獄の住人と、心の何処かでどこかで今も思っているのかもしれない。


 いつものように第九層のBARで、試行錯誤に明け暮れる。


 私の能力は、生前も含めて過去に一度でも飲んだり触れたりした液体を生成するもの。さらにある程度内容が分かっていてれば、まるで逆算のように原材料の液体を生成できる。たとえばあるカクテルを生み出し、その原料となる酒も生み出すことができるのだ。あとは適量をまぜる技術次第で、同じカクテルを再現することができる。


 しかし、料理はそうはいかない。材料もある程度加工品もダグザの大釜を使って生み出せるが、完成品は出てこない。スープやだし汁などは私の能力で生み出せるが、どうしても料理の腕が必要となる。数十年の研鑽のおかげで、そこそこの料理をそこそこのクオリティで作れるように成った。

 だかしかし、まだまだ食べてみたい。味わいたい。

 私はインキュバスなのに、性欲の代わりに間違って暴食でも植え付けられたのだろうか?


 さて、今日も過去の料理の再現および技量向上のために一品作る。


― ― ゴーヤチャンプルー


 ご飯と食べても美味しいが、酒飲みには極上のつまみ。ゴーヤは夏の食べ物だが、ふとしたとき食べたくなる。

 

 ゴーヤ、豆腐、豚バラに卵。

 ゴーヤはワタをとり、若干厚めに切って塩と砂糖をまぜあわせて数分寝かせる。薄すぎては苦味と歯ごたえがたりず、塩と砂糖がないと味がぼやけたり苦味がキツすぎたりする。程よい苦味には一手間かかる。


 あとは水切りした豆腐を炒め、ゴーヤを油で炒める。最後に油が少々多めの豚バラを炒め、卵やほかの食材を混ぜあわせる。豚の油の味、豆腐の甘さ、そしてゴーヤの苦味。これらのハーモニーはビールにも日本酒にも、はたまたワインのようなものにも合う。


 さて試食と思った時、BARの扉が開く。


「いらっしゃいませ、アウラ様。お一人でいらっしゃいますか」

「うん。この後外に出るからその前にご飯と思ってね」

「一応、うちはBARですので、お酒がメインですが」

「わかってるって。でも、食堂に行くと下の子たちがね~」


 言わんとすることは、バーテンダーの私でもわかる。部下が普段利用する食堂に顔を出しては、部下も食事を楽しめず、自分も食事を楽しめない。たまになら良いが毎日ではということなのだろう。


「その辺の気配りは、皆様と同じでいらっしゃいますね。アインズ様も食堂から執務室に届けさせたり、こちらにお見えになったりしていらっしゃいますし」

「うん」


 アインズ様と同じという辺りがよかったのだろう。向日葵のような笑顔で、アウラ様が答えられる。


「カウンターにどうぞ」

「うん、っていい匂いがする。なにか作ってたの」

「はい。ゴーヤチャンプルーという料理を作っておりました」

「それ食べてもいい?」

「どうぞ。感想をいただけましたら幸いです」


 そう言うと、皿にもりナイフとフォークをお出しする。箸をマスターされているのは、アインズ様とアルベド様、デミウルゴス様だけなので、他の御方にこの手の料理を出すときは、このようになる。


 アウラ様は豆腐を一つをフォークですくい、口に運び咀嚼する。しかし思ったほど味が無かったのか不思議な顔をされる。


「今食されましたのは豆腐になります。単品では甘さや食感となりますが、ほかのものとご一緒にお食べ下さい」

「わかった」


 そういうと、ゴーヤと豆腐、豆腐と豚バラ、豚バラとゴーヤ。組み合わせて食べる。


「いろんな味が合って美味しいけど、緑のが苦くて苦手かな」

「なるほど。ではこちらのお酒といっしょにお飲み下さい」


 そういうと、今では当店基本装備となっている、一時的な酔いを楽しめる呪いの指輪と一緒に、泡盛の琉球王朝の古酒クースをお出しする。ガラス細工のグラスに氷を多めに入れ、泡盛を注ぐ。

 氷を流れる泡盛は光を反射し、ガラス細工の器にきらびやかで柔らかい光を映し出す。


「琉球王朝の古酒クース。ロックにございます」


 アウラ様は、グラスを受け取り口に運ぶ。

 コクコクと喉がなる。


「うん。すごく飲み口が軽いけど香りがいいね。でも飲んでからふわっと熱が来る感じかな?」

「はい。飲み口が軽いのですが、アルコール度が高いので、ロックではあまり量を飲めないのですよ」

「そっか~。でも指輪を外すとその辺が総て吹っ飛ばせるから、おいしく飲めてお得かな?」


 まさしくお得かもしれない。私が生きていた頃の飲兵衛共に羨ましがられる能力だろう。きっと……


「では、そのお飲み物といっしょに、お料理をどうぞ」

「うん」


 そういうと、アウラ様は飲みながらゴーヤを咀嚼される。


「さっきまで苦味だけだったけど、このお酒とだとアクセントっていうのかな?お酒がどんどん飲めるような気がする」

「程よい苦味が、舌を刺激してお酒の風味を引き立てますので」


 とはいえ、普段のアウラ様はどちらかと言えば健啖家でいらっしゃる。これだけでは足りないでしょう。そこでいつもの冷蔵庫(時間停止)から取り出すのは、今晩用に準備していたラフティである。

 作り方は簡単で、豚バラ肉にかつおのだし汁、泡盛、黒糖、醤油で煮るだけ。ただし約1時間ほど煮るため、時間だけがかかる。いまももう1鍋を後ろの厨房スペースで煮ている。

 もっとも今回は無駄に凝って、大釜に沖縄産黒豚の豚バラ肉かたまりと指定したので、結構良い肉が出てきた。このダグザの大釜の謎の性能には、脱帽するばかりである。そして煮るのに泡盛の古酒”久遠”を使ったのだから味は……。


「ラフティにございます」

「豚の角煮かな?」

「はい、おこのみで生姜とからしをどうぞ」


 そういうとアウラ様は、ラフティを一つ口に入れる。

 ああ、美味しいという言葉を表情にするなら、こんな表情になのでしょう。アウラ様は頬張りながら、ゆっくりと泡盛を飲まれる。見るものを楽しませるような明るい笑顔で。


「これ、すっごくおいしいね」

「ありがとうございます」

「そうだ、今度ユリやペスも連れて来ていい?」

「ええ、お待ちしております」


 以前ユリ様から、女子会を開いていると聞いていますので、きっとそれでしょう。しかしユリ様については好みを把握しているのでよいのですが、ペスト-ニャ様はこの店にお越しになったことがないので、好みがわからないのは少々問題ですね。


「もしよろしければ、3名で来られるときは、食べたいものなどのリクエストを、事前にいただいても良いでしょうか?」

「うん判った。そろそろ外の花も綺麗な時期だし、近いうちにお願いしようかな」

「花見ですか。それも良いですね」


 そう。時期は3月。


 日本人の血の欲求。桜を見たい。


 その気持ちに誘われて、あそこに行ったのはいつだろうか。それから毎年会いに行っているから……。


「ほかにどのようなものを作りましょうか」

「そうだね……」


 アウラ様はそのあと、ラフティを一塊、たぶん1k以上を食べ、大量のお酒を楽しまれ任務に向かわれた。


 花見か。


 そんな風に思っていると、声をかけられる。


「いつからそこにいました?」


 気が付くと常連のヴァンパイアと、ワーウルフがいつものテーブル席に座っている。なんでもアウラ様が入っていくのが見えたので、息を潜めていっしょに入店し、食べ終わるまで静かに待っていたそうだ。


 まず、この二人の気遣いが間違っているように想うのですが、まあアインズ様や守護者の方々に敬意を払ってしまうのはしょうがないことです。右斜め上ではありますが。


「はいはい、アウラ様が美味しそうに食べてたもの全部ですね」


 そんな二人は、ゴーヤチャンプルやラフティ、泡盛などを注文した。結構な時間、飲まず食わずでアウラ様の美味しそうに食べる笑顔を見ていたということは、つまり美食番組を見た後の食事ですか。その気持はわかります。


 そこで、料理を出すと美味しそうにで食べ始める。まあ、こいつらがどんな存在かは今更気にしませんが、BARにマイ箸持参はどうかと。


「で、なんで二人はわざわざいっしょに入って息を潜めてたんですか?例えば邪魔にならないように、店に入らず時間をずらすとかできたでしょうに」

「「YES! ロリータ! NO!タッチ!」」

「アウラ様に殺されますよ」


 いや、たとえこのタイミングでアウラがこの二人をムチで叩きふっ飛ばしても、こいつらならご褒美ですと言って即復活しそうで怖い。

 

 そんなことを考えていると、アインズ様からメッセージが飛んでくる。普段の予約であれば、アルベド様からなのだが直接ということは思いつきか何かの案か……。


「(はい、アインズ様いかがなさいましたでしょうか)」

「(あ~、いまアウラが出立前の挨拶に来たのだが、なぜかゴーヤチャンプルとラフティを肴に泡盛を飲んだと言い残して出て行ったのだが……)」

「(美味しそうに食べていらっしゃいましたので、きっとその喜びをお伝えしたかったのかもしれませんね)」

「(……残っているか?)」


 私は鍋を確認すると、中身はほぼなくなっていた。見ればワーウルフが楊枝を咥えている。すでに蹂躙された後のようだ。


「(作り直しますので、1時間以上いただく必要があるかと)」

「(そうか……)」


 アインズ様が残念そうな声をだす。声だけで残念そうに感じさせるとは……。もし隣にアルベド様がいれば……。


「(バーテンダー。今アインズ様がすごく気落ちされたお顔で、無いかぁとつぶやいておられたけど、貴方のところでしょ?対応なさい)」

「(急いで準備します。夕飯のタイミングにお二人でどうぞ)」

「(分かりました。いつも通り貸し切りでおねがいね)」

「(かしこまりました)」


 さて、急いで仕込みにはいりますか。


「あ~そっちのお二人は、あと30分で退店お願いしますね。アインズ様のお時間になります。下手をするとアルベド様に折檻されますよ。マジの」


 そういうと、二人が忽然と店から消えるのだった。


 ここはBARナザリックこんな風に予約が入る日もある。


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今年度は沖縄に6・7回出張したのですが、先日 珍しく時間が取れたので、現地の担当などとゆっくり飲むことが出来ました。


で、翌日に空港ラウンジでこの作品を書きました。


ゴーヤと泡盛ウマ!

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