二日目 午後一時

 準備を着席した私たちの前にどんと置かれたのは、程よくすりおろし大根がのり、油のよく乗った香ばしい香りの焼き魚だった。

 しかもそれだけではない。自然の甘みを活かしたかぼちゃの味噌汁と、これは……ほうれん草だろうか……おひたしも付いていた。

 

 だが、肝心の米が、ない……!


 米の代わりに申し訳なさそうにパンが一つ置いてあった。米がない、という衝撃が顔に出ていたのだろうか。心木さん、勇者の幼馴染の少女も困ったように苦笑いしていた。


「そうなんです、肝心の米がなくて……日本食が完全再現出来なくて」


「な、ライラック米持ってたよな? な!」


 絶対、此奴ユウシャ米目当てで私を呼んだな!? 目がそう言ってる。完全に言ってる。

 私が米を持ってると聞いた瞬間に心木さんが勢いよくカウンター越しに寄ってきて、手をガシッと掴んできた。


 あ、まって思ったより強い。全然手が外れないんだが!?


 あまりの迫力にウォンが私の髪の中に飛び込んできた。ヨーデルは通常運転だ。今までにいなかったタイプだな。強い。



「え!? 米!! あるんですか!!」


「……ま、マイカっていう名前のそっくりなものなら……」


 日本人勢の米への、ひいては日本食へのこだわり怖い……。気持ちはわかるけど熱意が半端じゃない。目がガチだ。

 私の耳元で戸惑った様子のウォンが「キュ? ……キュ、キュキュ〜」ともぞもぞ喋っていてクスグったかった。


「お願いします!! なんでもします! 米を! 米を!」


「ん? 今なんでも」

「なんでもはしなくていい! 異世界歴は心木さんの方が長いみたいだし、敬語はやめてくれたら……それで」


 危ない台詞を口走りそうになった勇者を慌てて遮る。この勇者油断できない……!

 躊躇なく危ないネタぶっ混んでくるスタイルやめてくれ、心臓に悪い。

バクバクと落ち着きをなくした心臓は「ンメェ〜」というよく分かってないだろうヨーデルの、のんびりとした鳴き声のお陰で元に戻った。


「え、そんなので良かったら……あっ、私のこともみんなナツって呼んでるし、良かったらそう呼んで」


「ナツ……わかった」

 夏、ナツ……よし、覚えた。

人の名前を覚えるのはあんまり得意じゃないんだが、渾名だと覚えやすい気がする。あだ名で呼ぶとナツは嬉しそうに破顔し、言葉を続けた。


「あっ、ライラックさんのこと、ライラって呼んでいいかな?」


 ……ん?


 動揺のあまり思考が一旦止まる。落ち着くためにヨーデルを撫でくり回していた手も止まった。


 ……うん、まあ、略したらそうなる、か?

 ナツの、栗色のキラキラした、期待のこもった眼差しが痛い。なんだこれ、断りずらいんだが。


「あ、ああ……」


 ……まあ、いいか。

 その後ナツとも携帯番号を交換し、私のアドレス帳は三件に増えた。



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魔物の守護者 〜もふもふハーレムの同士達〜 流土 @kasumire

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