十二日目 午後三時

 私は無言で考えを巡らせた。優矢が言うように本当に『魔王アンフィスエバナ』が命令を下しているのならば……魔王さえ倒せばーー……


「だから『魔王』を倒すことさえ出来れば、人と魔物が争う理由は無くなるばずだ」


 優矢は力強くそう言い切った。そう思いたい、そうであればいい、という願望を微かに揺れる瞳から強く感じた。そしてそれに共感する私が確かにいた。


「そう、か……『魔王』は、今この世界にいるのか?」


 そもそも私は普段森にいるせいで情報に疎いのだ。『魔王』については名前ぐらいしか知らず、何もわからない。


「一度だけ。一度だけなら会ったし、戦ったこともある。んー……ビルサイズの黒いドラゴンで、あれには正直勝てる気がしなかったな、ははは」


 乾いた笑みで優矢が笑った。だが口ではそういうが、瞳の奥に黒い何かが見えた。それは、恐らく敵意、殺意、そういった何かだ。

 優矢は言葉を続けた。


「俺は前言ったように日本に帰る方法を探してる。でも、この世界も俺にとっては大切なものだ。死なせたくない人だって沢山いる。

……だから、俺は、勇者としてだけじゃなくて……神崎優矢としてもこの世界を守りたいと思う」



だからこそ、もう一度聞くぞ。




「ライラックは、『何』なんだ?」




***




 私は話した。全てのことを。勇者はもしかすると敵に回るかもしれない人物だ。魔物たちのことだけを思うなら本当は話すべきではなかったのかもしれない。だが、望んでしまった。


 魔物と人が共にいる未来を。



 その日私は先の見えない賭けをした。



「魔物の守護者、か……聞いたことないんだけど、魔王の洗脳を解ける役職ジョブ……? サモナー?」


 なーんかサモナーっぽいよなあ、でもちょっとちがうよなあ、使役してるわけじゃねーもんなあ、と頭を捻る優矢。私も未だによく分からん。


「きゅ!」

 もふもふ愛で隊育て隊ということで最近はいいんじゃないかと思う。ウォン可愛い。皆可愛い。可愛いは正義。


「あああ、やっぱり魔物に見えねえ!」

 前で勇者がごろんごろんのたうち回ってる。そうだ。可愛いは世界を救う。





「……もうダメだ俺は勇者辞めるかもしれねえ」


 目を抑えながら勇者はハリネズミの『ニィド』を遠目で見つめながら呻いた。にしても勇者のメンタル弱いな。



「……なにこれ?」


 ハルが困惑した表情で私を見る。そうだった、話すのを忘れていた。こ、こういう時、なんと言えばいいんだ……。勇者、ウォン、魔王、魔物の守護者、それと……。


「一言で言うと勇者が仲間になった」


「了解」


 よし、伝わった。

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