九日目 午後六時

「キュキュ」


 一通り説明し終えたらしいウォンが私の方へ走って戻ってきた。

 そして身振り手振りを使って私に何かを伝えようとしている。……なんだ?


 ウォンが灰色子狼ブラットウルフを指でさしてから、ルーへと指先を移動させる。ふむふむ。

 そしてウォンはころんと腹を見せて裏返った。

 ……ん? 腹を撫でたらいいのか?


 力をかけすぎないように指で撫でた。

 ころころしながら喜んでいたウォンだが、途中で我に返ったのか「キューッ!」と飛び上がった。


 そしてきょろきょろと周りを見渡し、落ちていた小枝を拾って地面に絵を描き始めた。絵が描けるなんて……うちの子は天才か。


 かりかり描き終わると、地面にはデフォルメされたルーとその腹あたりに丸まっている子狼の姿があった。大人と子供……。



 ま、まさか……そのまさかなのか!



「る、る、ルーに……子供が出来たのか!!」


 ウォンがそれだ! と私をビシッと指さす。

 ……こ、子供。 ルーに、子供! 子供だ! なんて目出度い! 素晴らしい!


 今日の晩御飯は赤飯だ!!



 それでその子供はどこなんだろうか。

 きょろきょろと周りを見た話していると、ウォンが灰色子狼の頭にぽふぽふ手を置いた。


「くぅ?」


 子狼がこてんと首を傾げる。


 ……なん、だと……。


 懐かしい感じはしていたが、まさか子供だとは!


 私にとってルーの子供は孫みたいなものだ。

 その孫が攫われていたのか……。落ち込むような、腹立だしいような、それでいて悔しくもあり、だがそれ以上にこの幼子に会えたことに対する喜びがあった。孫可愛い。


「何? つまりこの子狼ちゃんはあの子の子供なの?」


 ハルが目を白黒させながら親子を見比べる。

 毛色が違うためか、印象が随分異なるが、目元と瞳の色は確かにルーと同じだ。なんで気が付かなかったんだ自分。


「どうやらそうらしい」


「なら今日は赤飯で決まりね」


 キリッと言い切ったハルは、その後私と無言でハイタッチした。心が通じ合うって素晴らしい。



 そして灰色子狼がルーの元に駆け出し、その足の間に滑り込んだ。そして腹の下、影になっている部分でくるりと丸くなった。流石素早い身のこなしだ……。


 ルーを見て安心したのか呑気にしている子狼を眺め、ルーが少し息を吐いたのがわかった。

 そして私も久々にルーに抱きつく。もっふもふだ。これだこれ。温かい……。幸せは歩いてこないが抱きつきに行ける。



 ……幸せを感受しつつ、私はルーが前より痩せていることに気がついて衝撃を受けた。

 街の肉を買い占めてくるべきだろうか。魔草を使えば何とかなる気がする。


 あたふたする私にルーは少し目を細め、やれやれと何処かウォンを思わせる仕草で首を横に振った。

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